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竜好きのオレ、ドラゴンの世界に転生して聖竜になる。  作者: 岩田 巳尾


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『行方不明者』 その7

「ふっ……。出来たのね、心の準備」

「じゅ……準備が出来た訳じゃ……ないけど……。フィ、フィーが……この前……『独りにしないで』って言ったから、その……」


 真っ赤な顔で目を逸らし、恥ずかしそうにしながらも絞り出す様に言ったショーナは、一度大きく息を吐いてから、フィーに目を向けて言葉を続ける。


「ただ……ま、前にも言ったけど……、黙って外泊すると……母さんとか心配すると思うから……。一旦……帰るよ……」


 その言葉を聞いたフィーは、にやりとしながら流し目を向け、彼に言う。


「そのまま無かった事にして、戻ってこないつもりじゃないでしょうね?」

「し……しないよ! 自分で言った事は守るよ! ……分かってるだろ!? オレの……性格……」

「ふっ……冗談よ」


 まだ赤い顔で、むきになって反論したショーナに、フィーは一息吹き出して笑いながら呟くと、すっと立ち上がって彼に歩み寄り、そして目を閉じて顔を擦り合わせた。


「……待ってるから、聖竜サマ……」

「……フィー……」


 互いに小声で一言交わすと、フィーは顔を引っ込めてショーナに微笑み、彼の目を見つめて言葉を付け足した。


「私、待ってるから。……約束よ?」

「……分かった」


 フィーの言葉に、ショーナは照れながら微笑んで一言返事をすると、扉を開けてフィーの家を後にした。そして彼は砦へと駆けていく。



 砦に戻ったショーナは急ぎ足で二階へと上がり、エイラの部屋に向かった。エイラの部屋の扉はいつもの様に開かれており、部屋の前まで来たショーナに気付いた彼女は、微笑んで彼に言葉を掛けた。


「あら、どうしました? ショーナ」

「あ、母さん。……今、ちょっといい?」

「えぇ、いいですよ」


 エイラの部屋に入り、彼女の下へと歩み寄りながら言葉を交えたショーナ。エイラは自身の寝床で座っており、ショーナはエイラの前まで行くと、そこで腰を下ろした。

 腰を下ろしたまでは良かったものの、ショーナはすぐに話を始めるのをためらっていた。彼は少し気まずそうな顔で左目を閉じ、右手で頭を掻いて考えている。


(この話をしたら、母さん……きっと……、またオレの事いじるだろうなぁ……)


 そう思いつつも、フィーとの件を話さない訳にはいかず、彼は頭を掻いていた右手を下ろし、意を決して口を開いた。


「あのさ……母さん。オレ……今夜、フィーのうちに泊まろうと思うんだけど……」

「あら……!」


 その言葉を聞いたエイラは、目を丸くして驚きながら一言発すると、ショーナが思っていた真逆の反応をした。彼女は今にも泣き出しそうな沈痛な顔をし、少しうつむいて悲しそうな声でショーナに言う。


「まさか……本当に……砦を出るなんて……。母さんが……ショーナの気持ちを考えずに……あれこれ言ったばっかりに……。ごめんなさい、ショーナ……」

「えっ……!? あ、いや……。ちょっと、母さん……?」


 思いもよらぬ反応を目にしたショーナは、戸惑って言葉に詰まってしまった。彼は右手をエイラに向けて声を掛けていたが、当のエイラはうつむいたまま顔を左に逸らすと、右手で涙を拭う仕草をしながら話を続ける。


「今朝の事……そんなに思い詰めていたなんて……。母さんが……気付けないばっかりに……」

「いや……その……母さん? フィーのうちに泊まるの、今夜だけだからね? 別に、砦を出るって訳じゃ……」


 普段からは考えられない反応に、ショーナはエイラを心配しながら声を掛けていた。それを聞いたエイラは、涙を拭う仕草を続けながら口を開く。


「それで……ショーナは……、フィーとくっついて寝るんですか……? 子作り……するんですか……?」

(……ん?)


 エイラの表情は暗いままだったが、何やら話の流れに違和感を感じたショーナは、黙ったままエイラの言葉を待った。するとエイラは表情を一変し、薄ら笑いを浮かべて目を半眼にすると、涙を拭う仕草もそのままに、ショーナに目を向けて一言口にした。


「楽しみにしてますよ、出……来……パ……! ……フフ」

「えっ……あっ! あああっ……!!」


 エイラが不意にひょう変した事で、ショーナは一瞬理解が追い付かなかったが、すぐに自身がいじられたと理解し、彼は目を見開いて口を半開きにすると、大きな声を出していた。

 そんなショーナを見て、エイラは……


「フフ……フフフフ……。アハハハハハハッ!」


 涙を拭う仕草のまま失笑しだしたかと思うと、いつもの様に腹を抱えて大笑いしだした。そして笑いながら途切れ途切れに言う。


「い……いいじゃないですか……。お……お泊りの…………一度や……に……二度くらい……。お、お腹痛い……」

「…………」

「ついでに…………フフ……こづくりも……しちゃえば……。おなかいたい……」

「し……しないよっ!!」

「フフ……、アハハハハハハッ!」


 顔を赤くして一言反論したショーナだったが、それが今朝と同じ様に、火に油を注ぐ事となってしまった。そんなエイラに、ショーナは苦々しい表情をしながら右手で乱暴に頭を掻く。


(くっそ……、やられた……。今朝ので警戒するべきだった……)


 そんな事を思い、未だ大笑いするエイラを見ながら、呆れて鼻で小さくため息を吐く。当のエイラはいつもの様に、腹部を痛がったり涙を拭ったりしている。


(母さんらしいけどさぁ……。本当に家出しちゃうぞ……?)


 エイラが本気で落ち込んでいなかったと分かり、ショーナは呆れながらも安堵していた。彼は苦笑いしながら右手の指で顔を掻いて、エイラの事を静観している。

 しばらくして落ち着きだしたエイラは、ショーナに満面の笑みで話し掛ける。


「そうですか~。ついにショーナも、フィーのおうちにお泊りですか~」

「……まぁ……その…………はい……」


 少し顔を赤くし、恥ずかしそうに目を逸らしたショーナは、消え入りそうな声で返事をした。


「フフ……。これでまた、パートナーに一歩近付きましたね!」

「…………」


 嬉しそうに言うエイラに対し、ショーナは相変わらずの表情で、右手の指で顔を掻きながら思う。


(まぁ……その言葉には……反論は無いけどさ……)


 そして鼻で小さくため息を吐き、


(ただなぁ……。恋愛の一部始終を母さんに見られてる感じがして、ちょっとなぁ……)


 内心でそこまで思った所で、彼はエイラから声を掛けられた。


「フフ……。いいじゃないですか、恋愛の一つや二つ。……コドモの頃にも言いましたけど」

「…………」

「ショーナはず~っと、フィーに『ほの字』なのに……。いつ告白するんです?」

「か……母さん……!」

「だって、パートナーどころか、恋仲にもなっていないじゃないですか。……もうオトナになったというのに」

「…………」


 満面の笑みで言葉を重ねるエイラに、ショーナはあまり言葉を返す事が出来ないでいた。それは、エイラの言葉が、彼が思っていた事に何となくかすめる様な内容だったからだ。


「フフ……。あんまりフィーを待たせると、フィーも待ちくたびれちゃいますよ?」

「それは……そうだけどさ……」

「言うだけじゃないですか、『好き』って。……前にも言いましたけど」

「…………」


 ショーナは鼻で小さくため息を吐くと、気まずそうに目を逸らし、少し赤い顔を右手の指で掻く。そんな彼に、エイラは目を輝かせて、思い出したかの様に大きな声で言う。


「あっ! そういえば……! フィーはもう、ショーナが好きだって事は感付いていたんですよね?」

「えっ……!? ちょ……ちょっと、母さん……!」


 突然の言葉に、ショーナは動揺して言葉に詰まっていた。エイラは再び満面の笑みをショーナに向けると、嬉しそうな声で彼に言った。


「じゃあ、もう告白するだけじゃないですか! 言っちゃいましょうよ、『パートナーになって』って」

「い、いや……! おかしいでしょ……! どうしていきなりパートナーなの……!? 付き合うのが先でしょ……!?」

「フフ……。だって……もう付き合ってる様なものじゃないですか。それに……」


 ここでエイラは一旦言葉を切った。そして、半眼で薄ら笑いを浮かべると、ショーナに顔を近付けて言う。


「この後、行くんですよね? お……と……ま……り……!」

「……っ!!」

「ついでに告白して……! そのついでにしちゃいましょうよ! こ……づ……く……り……! ……フフ」


 エイラの言葉に、ショーナは堪え切れずに苦々しい表情をしながら顔を逸らし、真っ赤になった顔を右手で押さえると、大きなため息を吐いた。エイラはそんなショーナを見て、再び大笑いしだす。


「フフ……フフフフ……。アハハハハハハッ!」


 ショーナは顔を押さえながら、大笑いするエイラを横目で見て、ふと思う。


(……本当に……家出しようかな……)


 そして顔を押さえていた右手を下ろすと、呆れながら鼻で小さくため息を吐く。


(母さんって、本当に好きだよな……恋バナ……。……まぁいいや……)


 もはや、どうでもよくなってしまったショーナは、ここで考えるのをやめた。

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