『行方不明者』 その6
「ジコウの前世については、今は置いておくとして……。そもそも、ジコウの『戦う理由』が、『ドラゴンを倒す事』じゃなかったら……?」
「えっ……? だって……」
「さっきのフィーの話もそうだけど、オレ達は……『ジコウの前世は人間だった』と仮定した話を、そのまま引きずって色々と考えてたんだよ。
だから、ジコウの『戦う理由』も、『ドラゴンを倒す事』って思い込んでいた。……いや、思い込んでいたというより、そうである様に話が進んでいた。
でも、その『戦う理由』が違った時……」
「……! 『行動理由が変わる』……って、言いたいの……!?」
「あぁ……!」
フィーは目を丸くして驚いていたが、ショーナは目に力を込めて返事をしていた。そして彼は続ける。
「ジコウの言っていた『戦う理由』が変わったら、行動の根本から見直さないといけなくなる。
ジコウは多分……友好派に向かったとは思う。これまでの事から、そこは堅いハズだ。ただ……『ドラゴンを倒す為』って考えが違った時、それを考え直さないといけない」
「でも……じゃあ……」
ショーナの説明を聞き、フィーは戸惑って言葉に詰まってしまった。ただ、それはショーナも同じだった。彼もそれ以上、その先まで考えが至らなかったのだ。
「……オレにも……分からない……。あいつの言う『戦う理由』は……見当も付かないし……。そもそも、何に対して戦うのかも分からないし……。
ただ、一つだけはっきりしたのは……、あいつは『友好派のドラゴンを倒そうと考えている訳じゃない』って事だと思う。もしそうなら……さっきオレが言った様に、幼いドラゴンから狙った方がいい。その方が安全に、より多く……倒す事が出来ると……オレは思う……」
最後は顔をしかめ、不快感をあらわにして言ったショーナ。その言葉を最後に、部屋は静寂に包まれた。互いに何を口にすべきなのか思い付かず、両者は気まずそうにうつむいて黙り込んでしまった。
そこでショーナはふと、右手に持っていた木の実に目をやり、それを手にしている事を思い出した。彼は何気無くそれを口へと運び、半分程かじる。すると……
(うわっ! あっま……!)
目を見開いて、右手に持った木の実を見つめる。
(書物で『甘い』って事は知ってたけど、こんなに甘いなんて……)
初めて口にする木の実の味に、ショーナは驚いていた。そんな彼を目にし、フィーが一言問い掛ける。
「どうかしたの?」
「えっ? あ、いや……。結構甘いな……って」
「そう? 美味しいでしょ、それ」
木の実を飲み込み、フィーの問いに苦笑いをしながら答えたショーナ。微笑んで返すフィーの言葉に、ふと思った事を彼女に問う。
「フィーってさ……。普段、どんな食事してるの?」
「えっ?」
「いや、野営訓練の時にも聞いたけど、その時は……魚の話で聞けなかったからさ。普段、何食べてるのかと思って」
「何って……、その木の実だけど?」
「えっ……? これ……?」
ショーナは目を丸くして、食べかけの木の実を前に出して質問していた。
「そう、それ」
「……他には?」
「たまに……湖で魚を獲って食べるけど、普段はその木の実だけ。……だって美味しいし」
(すっごい偏食だなぁ……)
フィーの答えを聞き、ショーナは苦笑いをしながら左手の指で顔を掻く。
(まぁ、フィーって幼い頃に両親がいなくなってるから、食べ物も……好きな物だけ食べる様になっちゃったんだろうな……。栄養バランスとか大丈夫なのかな……)
そう思いつつ、残りの半分を口へと放る。
(そういえば……。この木の実の甘い香り……、どこかで……)
木の実を噛み締めながら、顔と目を少し上へと向けて考えるショーナ。その疑問はすぐに答えが見付かり、彼は内心で驚いた。
(そっ……そうだ! この香り……フィーだ! フィーっていつも、かすかに甘い香りがしていたけど……、もしかしてそれって……この木の実のせい……!?)
木の実を飲み込んだショーナは、少し顔を引きつらせて斜め下へと顔を向け、右手の指で顔を掻きながら、更に考えを巡らせた。
(まぁ、食べ物が匂いに出るって事はあるらしいし、さっきの話だと……フィーって、この木の実ばっかり食べてるらしいし……。有り得るかも……)
ショーナがそんな事を考えているとはつゆ知らず、フィーは彼の様子を見て少し表情を曇らせると、首をかしげて問い掛ける。
「……やっぱり、口に合わなかった?」
「えっ……!? いや、そうじゃないよ……。ちょっと考え事……」
「……聖竜サマって、いっつも何か考えてるわね。……疲れないの?」
「……疲れる」
呆れながら問うフィーに、苦笑いをして答えたショーナ。
「じゃあ、考えなければいいのに。……前にも言ったけど」
「そういう性分なんだよ。……昔からね。……前にも言ったけど」
互いに分かり切った言葉を交わした二頭は、微笑んで見つめ合っていた。そして、同時に「ふっ」と一息鼻から吹き出して笑うと、両者は微笑んだまま今後の事について話を始める。
「それで? 細かくて考え事が多い聖竜サマは、明日……どうするの? 集落から出られないから、捜索には行けないわよ? それとも、ジャック隊長の『お願い』を無視して、捜索に行くつもり?」
「いや、捜索には行かないよ。ジャック隊長は……オレ達の事を信じてくれている。頭まで下げられたのに、我を通す様な事をすれば……ジャック隊長に失礼だ。
ジャック隊長が『礼節』を大切にするなら、オレもそうする。……ジャック隊長の気持ちを無下には出来ないよ」
ショーナの返答を聞き、フィーは微笑みながら目を閉じて、再び鼻から一息吹き出して笑うと、少し上目遣いにショーナを見て一言呟く。
「……聖竜サマって、本当に真面目よね」
「……繰り返しになるけど、そういう性分なんだよ。……昔からね」
フィーの呟きにショーナは微笑んで返すと、先の話の続きを口にする。
「それで、明日の事だけど……。オレは書庫に行こうと思ってる。ちょっと確認したい事があるからね」
「いつ行くの?」
「う~ん……。まぁ、昼過ぎでいいかなって思ってる。ゼロ司令が戻るまでは……ジコウの事は分からないし、明後日以降の事も決められないし……。それに……明日のいつ、ゼロ司令が戻るかも分からないし……。
昼過ぎに書庫に行って、それからジャック隊長の所に行って、諸々の話を聞こうと思う」
「じゃあ、私も行く」
「えっ……!?」
思い掛けないフィーの言葉に、ショーナは目を丸くして驚いていた。彼は一呼吸置き、フィーを気遣って言う。
「一緒に行くならジャック隊長の所だけでいいよ。書庫はオレの都合だしさ……。フィーは休んでて……」
「ほっとけないでしょ? 聖竜サマ、『隊長』なんだし。……それに退屈だし」
「…………」
自身の言葉を遮り、端的にはっきりと訴えたフィーの言葉を聞き、ショーナは苦笑いをしてため息混じりにうなる。そして、苦笑いしたまま右手の指で顔を掻き、フィーに付け足す。
「捜索に出る訳じゃないから、『隊長』ってのは……そんなに気にしなくても……」
「……だとしても、退屈なのは変わらないでしょ?」
「それは……まぁ……」
押しの強いフィーの言葉に、ショーナは言葉に詰まりながら相づちを打ち、
(でも……、昔からフィーって……書庫でも退屈してる様な……)
そう思いながら鼻で小さくため息を吐くと、渋々承諾する事に。
「じゃあ……、書庫にも一緒に行こう。その後に……ジャック隊長に話を聞きに行く。
明日は昼過ぎに、書庫前に集合しよう。それでいい?」
「えぇ」
フィーが微笑んで快諾したのを見て、ショーナは苦笑いしながら安堵し、再び鼻で小さくため息を吐いた。
これで話すべき事を話し終えたと思ったショーナは、ここで切り上げる事にし、ゆっくり立ち上がりながらフィーに声を掛ける。
「よし……。じゃあ、そろそろオレは帰るから……。また明日、書庫前で……」
ショーナがそう言い切るのを待たずにフィーは声を発し、彼を呼び止める。
「ねぇ、聖竜サマ」
「ん?」
「折角だし……。今日、泊まっていかない?」
「えっ!?」
にやりとして言うフィーの言葉に、ショーナは顔を真っ赤にして固まってしまう。
(な……何となく言ってくるだろうとは思っていたけど、やっぱり言ってきたか……)
少し動揺しながらも、以前とは違ってショーナには考える余裕があった。それは、砦にフィーを泊めて一緒に寝たという経験があっての事だった。
「それは……その……」
「…………」
「フィーが……そう言うなら……」
ショーナは気まずそうに目を逸らし、右手の指で顔を掻きながら小声で答えた。




