『行方不明者』 その5
「……分かった。では……今日と明日は集落にとどまってほしい。ジコウが見付からなくてもどかしいだろうが、それは俺達も同じだ。だが……時には、そういった気持ちを堪えて、待たなければいけない時もある。……今は堪えてくれ。
今後の事は、明日……ゼロ達が帰還してからでないと決められない。今回の捜索でジコウが見付かれば済む事だが、見付からなかった時は……また考えないといけないからな。
俺はお前達を信じている。だから……頼むぞ」
「……はい」
ジャックの言葉に、ショーナとフィーは真剣な眼差しを向け、同時に力のこもった声で返事をした。そして軽く一礼すると、二頭は訓練場を後にした。
その帰路の道中――
「ねぇ、聖竜サマ……」
「ん……?」
「……ちょっと話したい事があるの。……うちに寄ってくれない?」
「えっ……?」
歩きながら真剣な表情で訴えたフィー。彼女の顔付きを見たショーナは、その話の内容が重い内容である事を察したものの、確認の意味も込めて聞き返す。
「もしかして……、聞かれたらまずい話……?」
その問いに、フィーは静かにうなずく。
「……分かった。寄ってくよ」
ショーナはそう返事をし、二頭はフィーの家へと向かった。
「適当に座って」
「……あぁ、分かった」
フィーは帰宅して早々、食料を保管している容器を漁りながらショーナに声を掛け、それを聞いたショーナは、フィーの寝床の前で座り込んだ。
(フィー……。前に上がらせてもらった時と変わらないな……)
食料を漁っているフィーの背中を、ショーナはそんな事を思いながら微笑んで眺める。すると……
「聖竜サマ、これ」
「え? あ……と」
フィーから放られた物を右手でつかみ取ったショーナ。彼女が放ったのは、淡いピンク色をした木の実だった。彼がそれを確認していると、フィーは容器を閉め、振り返って言う。
「今日は貰ってきてないから、それしか無いの。……口に合うか分からないけど」
「オレの事は気にしなくてもいいのに……」
「私だけ食べてたら悪いでしょ?」
そんな事を話しながら、フィーも右手で同じ木の実を持って自身の寝床まで行き、そこで丸く座り込んだ。
フィーが落ち着いたのを見たショーナは、ここで端的に話を始める。
「フィー。話したい事って……あれだろ? 友好派の行方不明者について……」
「……そう」
「何となく、そうだとは思ってた。……フィーが言いたいのは、その行方不明者に……ジコウが関わっているんじゃないか……って事だろ?」
「さすがね、聖竜サマ。……話が早くて助かるわ」
ショーナが要点を押さえていた事で、フィーは少し呆れ気味に鼻で小さくため息を吐き、言葉を返していた。彼女の言葉を聞き、ショーナは少し真剣な表情をして続ける。
「まぁ、一昨日……地下室で話した時、フィーはジコウが消失した理由を、『ドラゴンを倒す為』って仮定していたからね。
だから、さっきミレット副長の話を聞いた時、フィーなら……『ジコウがやった』って疑うんじゃないかと思った。それで、あんな顔して『聞かれたらまずい話』ってなったら、この話以外に無いと思って」
「……聖竜サマって、本当に細かいわね……」
フィーは呆れ顔をして、再び鼻で小さくため息を吐いてからぼやく。ショーナは一呼吸置き、彼女に自分の意見を話し始めた。それを、フィーは木の実を半分かじりながら聞いている。
「それで、結論から言うと……。オレは……今回の一件、ジコウとは関係無いんじゃないかと思ってる」
「……ほうひへ?」
「もし仮に……『ジコウがドラゴンを倒した』とするなら……。こんな言い方はしたくないけど、その遺体が見付かっていないという事は、少なくとも……『ジコウが倒した』という訳じゃない」
フィーは口に含んだ木の実を飲み込むと、ショーナに反論する。
「でも、それって『今は見付かってない』ってだけでしょ? だったら、そう決め付けるのは早いんじゃない?」
「……いや、だとしたら……、だとしても、やっぱり『ジコウが倒した』ってのには無理がある。
オレ達は友好派の集落の中を見た事が無いから、どれだけドラゴンがいるかは分からないけど、その集落の中で、見覚えの無いドラゴンが不審な行動を取れば、すぐに怪しまれる。
それに……、さっきミレット副長が言っていた行方不明者の年齢は、七歳から十一歳辺りだ。……もし『ドラゴンを倒す』のが目的だとしたら、その年齢は中途半端すぎる」
「……どういう事?」
フィーは首をかしげてショーナに問うと、残った木の実を口に放り込んだ。
「もし本気でドラゴンを倒そうって考えたら、もっと……幼いドラゴンから狙うハズだ。友好派の若者が、どれだけ戦う事が出来るかは分からないけど、七歳から十一歳だと、それなりに反撃を受ける危険がある。
……だったら、もっと幼い……それこそ、五歳未満のドラゴンから狙った方が、襲う側としては安全だ。……それに、さっき言った『見付かるリスク』もある。
それが、理由の一つではある」
それを聞いたフィーは口の中の木の実を飲み込んで、ショーナの言葉の引っ掛かった点を問う。
「理由の……一つ……?」
「あぁ。……理由は他にもある。
友好派のドラゴン達が行方不明者に気付いたのが、昨日の夜。それなら……昨日の日中には行方不明者が出始めていたハズだ。行方不明者は……年齢の幅を考えると、複数だからね。
ジコウが独立派を出たのが一昨日の昼下がり……。友好派までの道のりは、陸路で半日掛かる。しかもその日は酷い天気だった。ジコウが無事に、何事も無く友好派に着いたとしても……一昨日の夕方以降だ。
それで、昨日は朝一でジョイ隊長が友好派に飛んで、情報を持っていっている。そしてジョイ隊長は……オレ達が捜索に出る前に、独立派に戻ってきた。
だから、友好派にはジコウの情報が昨日の昼前には届いているし、その中でジコウが目立った動きをすれば、すぐに友好派のドラゴン達も気付くハズだ。……まして、ドラゴンの命を奪おうものなら、もっと大きな騒動になる。そんな短時間で……遺体を隠せるとも思えないし……。
つまり……、時間的に友好派で動く事が難しいってのが、『ジコウが倒した』っていうのを否定する、もう一つの理由だよ」
ショーナの説明を、顔をしかめて聞いたフィーは、少し考えた後に口を開いた。
「……じゃあ、どうして友好派の若者は行方不明になったの?」
「それは……分からない。タイミング的にジコウの関与も考えられるけど、オレは……今は別で考えた方がいいと思ってる」
「それは……さっきの理由?」
「……そうだね」
「…………」
フィーは大きなため息を吐くと、右手で乱暴に頭を掻いて愚痴をこぼす。
「ああ……もうっ! 分からない事ばかり! ……何なの!? 急にジコウは私達に攻撃して、いなくなって、そしたら今度は友好派で行方不明者!? どうなってるのよ!?」
「フィー……。気持ちは分かるけど、オレ達だけでどうにかなる問題じゃないし、とりあえず……落ち着いて考えようよ」
「…………」
ショーナの言葉に、フィーは口を閉じて不満そうに鼻でため息を吐く。そして少し考えた後、ショーナに自身の考えを話し始めた。
「……ねぇ、そもそもだけど……。さっきの聖竜サマの話って、『ジコウが倒した』ってのが前提だったでしょ?」
「えっ……? まぁ、そうだね」
「じゃあ、その『ジコウが倒した』って前提が無くなったら、ジコウが関わった可能性はあるの?」
「……ジコウは……『倒してない』……って事……?」
「……そう」
フィーの言葉にショーナは顔をしかめ、少し斜め下に顔を向けて考え始めた。
(……オレの仮説は、『ジコウがドラゴンを倒すという目的で独立派を離れた』……って土台で成り立っている。それは一昨日のフィーとの話しの流れだけど、それって……そもそもは……、ジコウが『戦う理由を見付けた』って言ってたから、そういう話の流れになっただけだ。
じゃあ、もしその『戦う理由』が、ドラゴンを倒す事じゃなかったら……)
黙り込んで考えているショーナに痺れを切らし、フィーは彼に声を掛ける。
「ねぇ、どうなの?」
「……そもそもなんだけど、オレ達が……『ジコウが倒した』とか考えてるのって、ジコウが『戦う理由を見付けた』って口にしたからだよね?」
「……そうね。仮の話だったけど、彼の前世が『聖竜サマが人間だった世界の人間』で、その世界では……『ドラゴンは悪の象徴』で……。だから……」
「そう、そこなんだよ。オレ達が、『ジコウの戦う理由は、ドラゴンを倒す事』だと思い込んだのは」
「……どういう事?」
首をかしげるフィーに、ショーナは真剣な表情を向けて説明を始める。




