『行方不明者』 その4
翼竜の挨拶に、少したじろぎながら返事をしたショーナ。背部側は黄色いウロコに、腹部側は薄い淡黄色のウロコに覆われたその翼竜は、ショーナとフィーの方へ体ごと向き直り、微笑みながらライトブルーの瞳を彼らに向けて姿勢を正すと、改まって挨拶をする。
「あの時は時間が無くて、きちんとご挨拶出来ませんでしたね。
では、改めまして……。私は空戦隊副長のミレットと申します。どうぞ、お見知り置き下さい、聖竜様。そして……パートナーのフィーさん」
そう言うと、ミレットは深々と頭を下げる。それを見たショーナとフィーは、静かに一礼を返す。互いに頭を上げると、ショーナは真っ先に口を開いた。
「あの……ミレット副長?」
「はい?」
「その……、フィーは……パートナーじゃなくて……」
「あっ! し、失礼しましたっ……! 私はてっきり、もう恋路の終着点にたどり着いたものとばかり……!」
「…………」
少し慌てて謝ったミレットの言葉に、ショーナは苦笑いをして鼻でため息を吐き、顔を少し下に向ける。
(そう……。『お見知り置き』も何も、この翼竜の隊長の事は忘れもしない……。オレの『恋路』を、『ジャック隊長達に報告しちゃったドラゴン』だから……)
そう思いながら、ショーナは右手の指で顔を掻いた。そして、ふと気になった事を問い掛ける。
「あの、ミレット副長?」
「はい、何でしょう?」
「もしかして……、あれから昇進されました?」
「いえ……。どうしてですか?」
「あ、それは……。確かあの時は……『小隊の隊長』と、おっしゃっていたので……」
その会話をミレットの隣で聞いていたジャックは、ここで口を挟んだ。
「あぁ、そういう事か。それは俺から説明しよう。それはつまり……この戦闘部隊の全体としての肩書きか、そうでないかの違いだ」
「……どういう事ですか?」
ショーナはジャックにしかめっ面を向けて問い直していた。それに対し、ジャックは微笑んで説明を続ける。
「何、そんなに難しい事じゃない。ミレット副長の『空戦隊副長』というのは、戦闘部隊全体としての肩書きだ。そして、お前が言った『小隊の隊長』というのは、あくまでも部隊編成時での役割を表している。
戦闘部隊としての肩書きを、あくまでも正しく言うのであれば……俺も『陸戦隊長』だからな。ジョイであれば『空戦隊長』だ」
「えっ……? でも確か、ジョイ隊長は挨拶の時に……『空戦隊隊長』って、おっしゃっていませんでしたか?」
「ん? ……そうだったか? さすが細かいな……。まぁ、それは『言葉の揺れ』というやつだろう。俺達も普段から『隊長』と呼ばれているし、戦闘部隊としての肩書きなんて、普段は言わないからな。……あいつも言い間違えたんだろう」
「……そうですか」
ここまでの説明は納得出来たショーナだったが、まだ疑問に残っていた事を改めて問い掛ける。
「でも、どうして『空戦隊副長』なんですか? 『副空戦隊長』とか、『空戦副隊長』とか、そういう呼び方も……」
「あぁ、お前の言いたい事は分かる。これには理由が二つある。
一つは……昔からの習慣だ。昔は陸戦隊と空戦隊が分かれていなかったんだが、その時の肩書きは『戦隊長』と『戦隊副長』だった。だから、その名残というのもある。
もう一つは……部隊編成での役割と紛らわしくなる、という部分だ。さっきお前が言った『副隊長』というのは、小隊や中隊を編成した時に使われる。もちろん『隊長』もだ。……その小隊の隊長や副隊長が決まった時は、そうやって呼ばれるな」
「じゃあ……ジャック隊長も本来なら……」
「あぁ、そうだ。『ジャック陸戦隊長』となるな。だが……普段から『陸戦隊長』なんて付けたら……長いし煩わしいだろう? だから、自然と『隊長』になっていったんだ。俺もジョイもな」
「な……なるほど……」
目を丸くして相づちを打ったショーナは、更に質問を重ねる。
「でも……、そんな『空戦隊副長』が、わざわざ小隊の隊長を務めるんですか……? しかも……支援部隊の護衛に……」
「ん? あぁ、そんな事は珍しい事じゃない。何なら、俺やジョイも小隊や中隊を率いる事はあるしな。
空戦隊だと機動力があるから、小隊の稼働率が高い。だから、ミレット副長が小隊を率いて小隊長になる事は普段からあるし、ジョイが小隊を率いて小隊長になる事もある。……空戦隊は忙しいからな」
「そうなんですよ~。空戦隊って、結構劣悪で……」
「副長……!」
「あっ! す、すみませんっ……!」
ジャックの説明に口を挟んで軽口を言ったミレットに、当のジャックは鋭い目付きで一言制止し、彼は慌てて謝罪していた。その様子を見ていたショーナは苦笑いをしながら右手の指で顔を掻き、隣にいたフィーは呆れて半眼を向け、鼻で小さくため息を吐いている。
ここで次に口を開いたのはフィーだった。彼女もここまでの内容から気になった事をジャックに問い掛けた。
「じゃあ、空戦隊に『副長』がいるって事は、陸戦隊にも『副長』がいるって事ですか?」
「ん? あぁ、陸戦隊に副長はいない」
「……どうしてですか?」
「陸戦隊は空戦隊程、稼働率が高くないから、俺がジョイの様に部隊を率いて出る事は少ない。……だから副長は不要と判断したんだ、俺がな。
俺が集落にとどまって陸戦隊の指揮を執る事が出来れば、副を立てる必要は無い。……それだけの事だ」
「そう……ですか……」
フィーの質問に、ジャックは微笑んで淡々と説明していた。その説明を聞いたフィーはぽつりと相づちを打つ。
もう質問が飛んでこないと踏んだジャックは、ここでミレットに顔を向けて話を振る。
「ところで副長。確か今日は……支援部隊の護衛で友好派から帰還したんだったな。わざわざ俺の所に来たという事は、何かあったという事か?」
「あ、はい。ちょっと向こうで気になった事がありまして……」
その言葉に、ジャックは少し顔をしかめて問う。
「何だ、その……『気になった事』というのは」
「はい。……今朝の事です。私達が帰還する支度をしている時、向こうの自衛部隊が慌ただしくしていまして……」
「自衛部隊が……?」
「そうなんです。何かあったのかと思って、私が自衛部隊に尋ねた所……。曰く『若者が行方不明になった』……と」
「行方不明……だと……!?」
ミレットの話の内容に、その場で聞いていた三頭は目を見開いて驚いていた。ジャックは少し語気を荒げ、彼に問いただす。
「副長! もう少し詳しく教えてくれ!」
「あ……はい! どうやら行方不明になったのは、七歳から十一歳辺りの若者らしく、姿が見えなくなったのは……昨晩辺りだったとか……。
自衛部隊が聞いた話だと、その行方不明者の家族達は『気付いたらいなくなっていた』……との事で……」
「…………」
説明を聞いたジャックは、ため息混じりにうなる。
「それにしても、最近ちょっと不穏ですよね。ジコウさんといい、友好派の行方不明者といい……。まだ厄災には早……」
「副長!!」
「えっ……、ああっ……! し、失礼しましたっ……!」
ミレットの言葉を遮り、ジャックは険しい表情をして大声で制止していた。それに驚いたミレットは、はっとして一瞬ショーナ達に目を向け、何かに気付いたかと思うと、すぐさま謝っていた。
その様子を見ていたショーナは、少し顔をしかめて考えを巡らせる。
(な……何だ……? 今、どうしてジャック隊長は……あんな風に止めたんだ……?)
ショーナが結論にたどり着く前に、ジャックはミレットに声を掛けた。
「副長。他に報告が無ければ……、もう下がっていいぞ」
「あ……はい。で、では……失礼します……」
ミレットは少し気まずそうな表情で返事をすると、相変わらずの表情で軽く一礼し、そそくさと飛び立ってこの場を後にした。
その様子を、腕組みをしながら目で追うジャックは、誰に言う訳でもなく呟く。
「あいつは……いいヤツなんだが、いかんせん口が軽くてな……」
「……知ってます」
ジャックが言った言葉に、ショーナは苦笑いをしながら反応し、一言返していた。少し間を置き、ジャックはショーナ達に顔を向け、彼らに声を掛けた。
「わざわざ呼び出してすまなかったな。俺から話したい事は、さっきの話で終わりだ。お前達から何か話があれば、この機会だから聞いておくが……。何かあるか?」
「いえ……。今は特にありません」
ジャックの問いにショーナは端的に答え、それを隣で聞いていたフィーは静かに首を横に振った。




