『行方不明者』 その3
エイラが大笑いしだした事で、ショーナは呆れて苦笑いをすると、右手で顔を押さえて大きなため息を吐いた。
(やられた……。新しい手を使ってきたな、母さん……)
そう思ってから右手を下ろしたショーナは、笑いながら腹部を痛がったり、涙を拭ったりしているエイラを見て、更に思いを巡らせる。
(……オレが『ドラゴン好き』じゃなかったら、間違い無く家出してるか、親を嫌いになってるだろうな、これは……)
ショーナは呆れながらエイラを見つつ、右手の指で顔を掻き、鼻で小さくため息を吐いた。
(……まぁ、母さんらしいか……。静かになったら、それはそれで心配だし……)
しばらくして、ひとしきり笑ったエイラは落ち着きを取り戻した。そしてエイラは、少し気まずそうな微笑みを浮かべながらショーナに声を掛ける。
「ごめんなさい、ショーナ。……ちょっと度が過ぎましたね」
「……『ちょっと』じゃないけどね」
エイラの言葉に、ショーナは苦笑いをして突っ込んでいた。
「オレと母さん、二頭だけの時だったら……別にいいんだけど、周りの目がある時とかは……もう少し節度を持ってほしいかな……。母さん、長だし……。
特に、フィーの前で散々いじるのは……ちょっと応えるから……」
「……今度から気を付けますよ、ショーナ」
苦笑いをしながら落ち着いて苦言を呈したショーナに対し、エイラは気まずそうに微笑んで答えると、目を閉じてショーナに顔を擦り合わせ、そして彼に声を掛けた。
「でも……、ショーナは優しいんですね」
「えっ……?」
「もっと怒るのかと思いましたけど、母さんの思った通り、あなたは……本当に……優しい……」
「母さん……」
思い掛けない言葉に、ショーナはぽかんとしながらエイラを受け入れていた。
「あなたの優しさは本物ですから、それを……大切にして下さい。その優しさは、あなたの強さです。……どんな時も、どんな事があっても、その優しい心を大切にして下さいね、ショーナ」
「……母さん……」
エイラはそう言うと顔を引っ込め、ショーナに微笑みを向ける。
(もしかして……母さん……、オレの事、試していた……とか……?)
予想もしなかった言葉に、ショーナは未だぽかんとした表情で、そんな事を考えていた。すると、エイラは満面の笑みを彼に向け、言葉を付け足す。
「フフ……。フィーにも優しいですもんね、ショーナは」
「……か、母さん……!」
ショーナは少し顔を赤くし、うんざりしながら反応していた。
(さっきのは……考えすぎかも……)
鼻で小さくため息を吐き、苦笑いをしつつそう思ったショーナは、呆れながらエイラに訴える。
「母さんさぁ……。言った側からさぁ……」
「フフ……。好きなんですよ、雰囲気壊すの」
「……知ってる」
満面の笑みで答えたエイラに、ショーナは相変わらずの表情でぽつりと呟いていた。
ここでエイラは一呼吸置くと、ショーナに微笑んで違う話題を振る。
「……さぁ、気を取り直して食事にしましょう。お腹空きましたし」
「……そうだね」
ショーナの返事を聞いたエイラは、振り向いて先に部屋を後にし、ショーナも彼女に続く。
「折角ですし、お魚食べましょうよ。……『スイラの照り焼き』なんて、どうです?」
「母さん……。昨日もだけど、本当にそんな魚いるの……!?」
「フフ……。さぁ、どうでしょうね? ……あっ! 今日こそ母さんかじってあげますよ、お魚!」
「母さん……!」
そんな言葉を交わしながら、二頭は階段を下りて食堂へと向かった。
二頭は一緒に食事を取ると、二階に戻って廊下で別れ、それぞれの部屋へと入っていく。ショーナは自室に戻って自身の寝床で丸く座り込み、昼過ぎまで自室で休息を取った。
そして、昼下がり――
ショーナは訓練場へと足を運んでいた。そこでフィーと落ち合うと、二頭そろってジャックの下へ赴いた。
二頭に気付いたジャックは、彼らより先に声を掛けていた。
「あぁ、来てくれたかショーナ。……それにフィーも。……悪いな、疲れている所に」
「いえ……。それより、オレに話って……」
「あぁ。……まぁ、昨日話した通りなんだが、詰まる所……ジコウの事だ」
ジャックの前で横並びになったショーナとフィーに、腕組みをして話すジャック。彼は言葉を続ける。
「まずは……昨日の全部隊の捜索結果を話そう。昨日は……この集落周辺の、荒野方面の林一帯と、オアシスを中心とした荒野、そして……お前達が捜索したオアシス。それが昨日捜索された場所だ。
それで、結果だが……。手掛かりは何一つ見付けられなかった。全ての部隊でな」
「……そうですか……」
ジャックの説明にショーナは落胆し、顔をしかめて呟いていた。
「まぁ、そう落ち込むな。確かに手掛かりは見付けられなかったが、それも一つの手掛かりだ。『昨日捜した場所には、ジコウの痕跡は無かった』……というな。
そこで次の話だ。今の手掛かりを基に、今日も捜索が行われている。今日の捜索は……友好派周辺の林だ」
「……友好派の……?」
「あぁ。朝一で空戦隊数個小隊が向かった。それと……ジョイとゼロもな」
「ゼロ司令もですか……!?」
ショーナは目を丸くして驚き、ジャックに聞き返した。その反応に、ジャックは微笑んで答える。
「何、そんなに驚く事じゃない。……昨日も話したが、ゼロには特別な能力がある。その能力を使って、友好派周辺の林を捜索しようという事になった。
だが、陸路だと半日掛かるからな。だから空戦隊を引き連れて向かったんだ。向こうに到着したら、友好派の自衛部隊と協力しつつ林の捜索を行う。……今頃、もう捜索を始めている頃だろうな」
「で……でも、それだと……今日中に帰ってくる事は……」
「あぁ、そうだ。……だから、ゼロ達は向こうで泊めてもらって、明日……帰ってくる。
俺と陸戦隊、そして残った空戦隊は、万が一の事態に備えて集落から離れる事は出来ない。偵察に出ている者は普段通りの偵察を行うが、それ以外の者は全員、集落にとどまっている。
まぁ、昨日の手掛かりから、この集落周辺にジコウはいないだろうからな。少数の捜索部隊を出した所で、ほぼ意味は無いだろう」
「そうですか……」
ジャックの話しに納得したショーナは、ぽつりと呟いた。
「まぁ、俺からの話はそんな所だな。だから、お前達にも……今日、明日は集落にとどまってもらいたい。
これは、万が一の時に『戦ってくれ』と言っている訳じゃない。俺達が動けない時に、お前達が捜索に出て万が一の事があれば……救援が難しくなる。……だから無理に動かないでほしい。……頼む」
そう言って、ジャックは腕組みを解いてショーナ達に頭を下げる。これにショーナとフィーは驚き、慌ててショーナは口を開いた。
「た……隊長……! 分かりましたから、そんな……! 頭を上げて下さい!」
ショーナの慌てた声を聞き、ジャックは頭を戻し、再び腕組みをして話し始める。
「……お前達は長からの『ご指名』だからな。俺達がお前達の捜索を止めるのは、指示でも命令でも無理だ。それなら、お願いするしか無いだろう?」
「そ、それは……そうかもしれませんが……。だからって、何も……オレ達に頭を下げなくても……」
「どんな相手であろうと、お願いするのであれば頭を下げる。……それが『礼節』という物だ。誇り高い戦士であれば、尚更な」
「ジャック隊長……」
ジャックの真摯な言葉に、ショーナは言葉を返す事が出来ず、ただ一言だけ口から漏れ出ていた。
(立場が下のオレ達に、お願いで頭を下げて、しかも……『礼節』に……『誇り』……か。……まるで『騎士道』みたいだな……)
これまで、ジャックのその様な言動は見聞きした事が無かったショーナは、少し真剣な表情をしながら、そんな事を思っていた。
するとそこに、上空から声が響いてきた。
「ジャック隊長ー!」
その場にいた三頭は、声がした方へと顔を向ける。そこには翼を広げてゆっくりと降下してくる黄色い翼竜が一頭。その翼竜はジャックの隣へと降下すると、ふわりと着地した。
舞い降りた翼竜を見たショーナは、見覚えのある顔に内心で驚く。
(ああっ……! このドラゴンは……!)
あまり顔に出さない様にしていたショーナだったが、少し顔を引きつらせて目を見開いている。そんなショーナの胸の内などつゆ知らず、その翼竜はショーナ達の存在に気付いたかと思うと、彼らに顔を向け、微笑みを浮かべながら声を掛けた。
「あっ! お二方! ……ご無沙汰しております。オアシスでお会いした時以来ですね!」
「そ……そうですね……」




