『プロローグ』 前編
「ショーナ! そいつを落とせるか!?」
彼のヘッドセットに荒々しい声が響く。
「い……今やってる!」
そう答えた彼は、モニターを見ながら懸命にコントローラーを操作していた。
そのモニターには、飛行している大きなモンスターに立ち向かうドラゴンと、そのドラゴンにまたがった騎士が映っている。
「……よし! やったぞ! とどめは頼む!」
彼はヘッドセットの声の主に言われた通り、そのモンスターを地面に落とす事に成功。地上で待機していた剣士がそのモンスターにとどめを刺した――
「今日もいい動きだったじゃないか、ショーナ」
「あぁ、かわいい相棒が頑張ってくれたからな」
「かわいい……ねぇ……」
「かわいいだろ? 真っ白なドラゴンで女性なんだから」
「相変わらず物好きだなぁ、お前は……。ドラゴンなんてバケモンだぞ? それを『かわいい』だの……」
どうやら彼とは意見が合わないらしい。
「……それで? この後もVRモードで『お手入れ』か?」
「お手入れって言うなよ、スキンシップだ」
「はいはい、分かりました……」
ヘッドセットの声の主は呆れて違う話題を切り出す。
「そういえば、今度新しいエナジードリンクが出るの、知ってるか?」
「あぁ、もちろん知ってる」
彼らは愛飲者だった。
「次の連休、それ飲みながらがっつりプレイしようぜ」
「いいね!」
「じゃあ、また今度な!」
モニターからは剣士の姿が消えヘッドセットも静まり返り、モニターの中は彼のキャラクターだけとなる。
彼はフレンドがログアウトした事を確認するとVRゴーグルを着け、先ほどの白いドラゴンをねぎらいに向かった。
「今日もお疲れ、エイラ……」
次の連休――
一足先にログインして待っていた彼は、エナジードリンクを飲みつつ白いドラゴンを眺め、フレンドのログインを待っていた。
「おっ、早いなショーナ! 待たせたか?」
「いや、待ってないよ。……ん?」
彼のフレンドがログインしてきたが、その時に彼は異変に気付く。
「お前……またプレイヤーネーム変えたのか?」
「おっ、気付いた?」
「本当、昔からよく名前変えるよなぁ……」
「そろそろコウタットってのも変え時かと思ってね」
「確か……前はヨーテンだったか……? 変えすぎなんだよ名前……」
彼はフレンドとゲーム上で長い付き合いだったが、度々名前を変えるフレンドに少し呆れていた。それでも新しい名前を確認しないと、ゲームに支障が出てしまう。
「え~っと、それで……新しいプレイヤーネームは……ジコウ……?」
「あぁ、宜しく頼む」
「……前のままコウタットでいいか?」
「いや、ちゃんと新しい名前で頼むよ」
挨拶を終えた彼らは協力して様々なクエストに挑み、難度の高いクエストをクリアしてはエナジードリンクで乾杯。連休中は朝から晩まで一日中二人でゲームをして過ごし、そして連休最終日を迎えた。
(うっ……頭が痛い……)
若干ふら付きながらゲームを起動した彼。
(……あいつ、まだログインしてないのか……)
そのまま約束の時間を過ぎるまで待った彼だったが、フレンドのログインは無い。
(……携帯にも出ないなぁ)
連絡にも応答が無かった事で、彼はゲームをプレイする事なく終了させた。あまりにも自身の体調が優れなかったからだ。
(頭が……痛い……、何か……テレビでも……)
よろよろとソファーに横になった彼は、リモコンでテレビの電源を入れるが……
(ちょっと仮眠すれば……治る……かな……)
テレビはそのままに目を閉じかけた時、そのテレビは気になるニュースを流し始めた。
「次のニュースです。先日発売されたエナジードリンクに過剰なカフェインが含まれているとして、健康被害が――……」
テレビから流れるニュースを確認しきる前に、彼の意識は途切れてしまった。