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76.善悪の彼岸1

 ラスフォード男爵の庭園は昼間の太陽に照らされて、まばゆい光に満ちていた。


 噴水の水は陽光を浴びてきらきらと輝き、あちらこちらに小さな光の反射が点々としている。よく手入れされた低木の草木が生い茂る庭園の中心で、アルヴィスは少し離れた場所に立つオースティンを静かに見上げていた。


 彼は小さくため息をついてから肩を竦めると、あくまで落ち着いた様子で、噴水の縁に腰を下ろす。


 さわさわと音を立てて流れる水面に、自分の姿を映しながら、アルヴィスの警戒を解くようにゆっくりと顔を上げた。


「いつ頃気づいたんです?実を言うと、正直言うと、何も気づかれないまま全て終わると思っていたところだったんですよ。とんだ計算違いだな…」


 見くびっていたようです。


 オースティンはまるで親しい者同士で会話を始めるかのような調子で続けた。


 ひとつひとつ、何かを確かめるような言葉に、肌が粟立つ。


 言葉遣いは丁寧なのに、相手に対する敬意がまるで感じられない。


 声を荒げているわけでもないのに、感情の中に憎悪が混じっている気がして、気をしっかり持っていないとたじろいでしまう。


 悟られてはだめだと、奥歯を噛み締める。


「で、いつ頃?」


 足を組んで、その上に両手を重ね合わせた態勢で、オースティンがにこりと笑って問いかける。


「―――ついさっき。あなたが近づいて来た時」


「決め手は?」


 顎先に手を当てて材料をゆっくり吟味するような面持ちで小さく唸るような声がする。


(一体、何を聞きたいというの…)


 オースティンが考えていることがまるで理解できなかった。


 アルヴィスが考える通り、彼があの夜会事件に何かしらの形で関わっているのだとしたら、会話を引き延ばすより、もっと効率的でかつ有効な方法があると思えた。


(対話が必要とも思えないけど)


 ただし、背を向ければすぐさま死につながるのだという確信めいた予感が胸に過る。


(ここは相手の思惑はどうであれ、できるだけ時間を稼いだ方がよさそうね)


 背中をじっとりと汗が伝っていく。


 軍本部へ「お遣い」に言ってくれているはずのステファンが戻ってくれば、いつになっても戻ってこないアルヴィス達を不審に思って何かしら行動を起こしてくれるかもしれない。ステファンはステファンが軍医だった頃、彼の身辺を護衛していた有能な元軍人だから、異変があれば必ず対処してくれるはずだ。


 思考を切り替えるまで数秒。


 アルヴィスは一つ息を吐いて目を閉じると、ややうつむき加減だった顔をぐっと上げてステファンを見た。相変わらず何を考えているかわからない優しそうな表情をしているが、少しでも彼が望む回答を返せなければ、たちまちのうちに命を失ってしまうのではないかという危うさを感じる。


 ―――答えは慎重に。


 ―――問いは彼が望むものを。


 ソレ、に向き直ったアルヴィスは重い口をようやく開いた。



長らくお読みいただきまして、

大変ありがとうございました。

雲井咲穂です。


2024/12/28 

残りの全てのお話を一気に掲載し

物語はひとまず完結となります。

読みにくい点等多々あったかと存じますが

「終わらせる」「楽しんで書く」ということを主軸に

ひとまず最後まで書ききった一作品でございます。


ここまでお読みいただいた

たくさんの方々に

厚く御礼申し上げます。

誠にありがとうございました。


それでは明日

12/28 またお会いできますことを

心よりお待ち申し上げております。


雲井咲穂


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