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70.祝いの「凶器」(エヴァンス視点)

「容疑者の彼の死因は、肺水腫による呼吸不全。助かる見込みは限りなく低いと言われていたけど、何も情報を引き出せないまま死なれてはねぇ」


「身元くらいはわかったんだろ?」


「そりゃもちろん。その他に、爆発物も目撃情報から特定したよ。アルバートの指示で部下たちがしらみつぶしに調べまわったおかげだよね。―――死亡した容疑者の名前は、エイリック・ヴァーレントゥーガ男爵子息。夜会にはヴィクターの友人枠で招待されていた。……爆発物、というほど大げさな物じゃないかもしれないけど、使用されたのは火力が改良された、と思われる少し大きめのクラッカー。祝いの道具を小型の爆弾化して持ち込むなんて、大胆な想像力だよね。尊敬しちゃうよ」


「クラッカー?」


 思いもかけない単語にエヴァンスが眉根を寄せる。


「そ。紐とかを引いたらパーンと中から紙とかが飛び出すやつ。一般的に使用されるタイプのクラッカーは硝酸カリウムと炭素、硫黄を含むよね。大量に煙を吸い込むと危険かもしれないけど、通常は少量だし、おもちゃとして使われているほどだから特に毒性を考慮しない。ただ、今回ばかりは違う。―――男爵の周囲にいた人間は重傷者が多いから、聴き取りに苦労したらしいんだけどね。ヴァーレントゥーガが天井に向かって紐を引いたら炸裂して出火、というか爆発というか。周囲にいた人間にも油の一部が飛び散って、そこから現場は大パニック」


 でも妙なんだよねぇ、とリチャードは続けた。


「現場の状況や聴き取りした内容から、ヴァーレントゥーガのクラッカーは引き金を引いた本人が燃えるくらいの火力程度で、周囲にいた人間を吹き飛ばしはしても、建物全体に損害を与えるほどの威力はなかった。もしそれほどの威力があったとしたら、会場は吹き飛んでいたし、死傷者はもっといただろう」


 ちゃんと使える爆弾だったなら、ヴァーレントゥーガは跡形もなく四散していただろうにねぇと生々しい表現を付け足す。


「幸いなことに、ヴァーレントゥーガが当時いたと思われる現場には残留物があってね。クラッカーは当然燃え切ってしまって存在しなかったんだけど、まき散らされた油の一部が近くのグラスや布地に付着して残っていたのを回収したんだ。水にまかれた割に、油という性質上流れて行かずに、毒物が内包された状態で確保できた、というわけなんだけどね。彼の洋服の一部にも同様の粘つく液体が見つかったから、体液とは別に保管して、研究室にあるよ」


「油の中から毒物が?」


 見つかったのか、と続けようとすればリチャードの表情が一変した。


「凶器だけでもよく考え付いたものだと、拍手を送りたい気分だけど、毒物に関してはねぇ」


 珍しく歯切れが悪い様子に、らしくないと思いつつ、とある単語をふと思い出し口にする。


「ナイトシェードか?」


 誰かが繰り返すように、様々な感情を含めながらさざ波のように呟いた。


 恐れと、羨望と、疑問と。


 複雑な感情が綯い交ぜになる空間の中で、それまで気だるげだった藍色の相貌がゆっくりと瞼を押し上げた。

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