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57.ねじ曲がった欲望2 (ヴァネッサ視点)

 今日の朝のことだ。


 気分よく朝食をとっていると、やや疲れた様子の父からアルヴィスの「釈放」の知らせを聞いて愕然とした。


 母は信じられないと口に手を当てて父から根掘り葉掘り情報を聞き出していたが、それどころではなかった。


 脳内に冷たい水が流れ込んだように、言葉が頭の中で回転せず、しばらくは呆然としていた。


(マチルダのガーデンパーティーを欠席して、わざわざあの薄汚れた安宿にまで足を運んだのに!……これじゃまるで私がばかみたいじゃない!)


 何もかもが腹立たしくて仕方がない。


 あの女が釈放されたことも、リーダスが思うように動かないことも、この現実のすべてが、彼女をただただ苛立たせた。


 全てが思い通りにいかず、心の中で噴き出した怒りが収まる気配もなかった。


 ヴァネッサは、硬い靴音を響かせながら軍施設の無機質な通路に足を踏み入れた。


 白い壁が長く続き、ところどころに取り付けられた電灯が冷たい光を放っているだけ。


 侍女が小走りで受付に向かう姿を視界に入れながら、ヴァネッサは淑女らしく近くの待合用の椅子に腰を下ろす。


 軍服を着た男たちが物珍し気な不躾な視線を飛ばしながら通り過ぎた。


 その不愉快な空気の中でただ自分の貴重な時間を無駄にしているのだと思うと、胸の中に怒りと焦燥が渦巻き、手鞄の持ち手を握り締める指先に自然と力が入るのを感じた。


「お嬢様ッ」


 ほどなくして、青い顔をした侍女が足早に戻ってきて早口で信じられないことを言った。


「なんですって?」


 思わず立ち上がったヴァネッサは、信じられないという表情で聞き返した。


 侍女が窓口で「リーザス・マーティン卿」に面会したいことを申し出ると―――。


「そんな名前の軍人は、()()()()()、ですって?」


 ヴァネッサの指先から、新品の手鞄が靴の横に落ちて音を立てた。


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