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51.ばい菌

「おまっ。おまえっ!!ゲホ、ゴホッ。おま、っ。......なるほど。ようやく合点がいった。だから診療所にシロップ系の薬があんなにあるのか」


 腹部を抱えて大爆笑をするエヴァンスに、もうこれ以上我慢できないと、アルヴィスは真っ赤に染まった頬を思いきり膨らませてそっぽを向く。


「王都嫌いの万年薬草園引きこもりのお前がわざわざ定期的に来る一番の理由は、ルネカのシロップか」


 図星をさされて反論するどころか、はくはくと口を開閉させている様子のアルヴィスにエヴァンスは再びこらえきれないと二度目の爆笑をした。


 さすがにはしたないと、アリエンスが咎めるが、彼の体が小刻みに震えているところを見ると、相当意外だったのがわかる。


 知られたくない相手に弱みを知られてしまいアルヴィスは腹が立つというよりどう処理していいかわからず、そっぽを向くことしかできなかった。


「馬車が苦手で滅多に王都に来ないお前が来るなんて珍しいとは思ったんだが。まさか、ルネカだったとはなぁ。そうだよな。田舎のファロンヴェイルじゃルネカはなかなか手に入らないもんなぁ」


 クツクツと意地悪く喉を鳴らしてここぞとばかりにからかうエヴァンスに、どうすることもできない。唯一できるのは涙目で、うっかり暴露してしまったリタを恨みがましく見ることだ。


「リタ。シロップのことは言わないでって言ったのに」


「あらあら、ソウデシタカシラ?」


 しかし、有能な侍女はこれまでの気苦労の仕返しとばかりに、オホホと口に手を当てて微笑んでいるだけだった。


 その時、部屋の隅で静かにしていたはずのセリウスがゆらりと立ち上がった。その大きな体が左右に揺れながら、低い声で獣のように唸っている。


「…仲間外れ。せっかく、……感じ、だったのに…」


「え?」


 熱の引っ込まない頬を両手で押さえるようにしながら、なんとか話題を逸らそうと思考を働かせていたアルヴィスが目線を持ち上げた。


 アリエンスの真向かい。


 エヴァンスの斜め後ろから、陽炎のように黒い塊が動き出す。


「…、に、―――で、………申し込んで、で」


「お前、大丈夫か?様子が」


 瞬間――。


 ぐらりとセリウスの体が揺れ、勢いよく前のめりに倒れ込み、寝台の縁にしたたかに額をぶつけて跳ね返るや否や、ごろんと大きな音を立ててその場に仰向けに昏倒してしまった。


「セリウスさん!」


 白目を向いて微かに痙攣しているように見える。


 アルヴィスは慌てて寝台から飛び降りたが、体がついていかずその場でふらついてしまう。


「お嬢様、危のうございますっ」


 リタが慌てて両手を差し出し、抱き留めるように支えてくれたおかげで昏倒せずに済んだが、セリウスは大丈夫だろうか。


 近寄って覗き込もうとすると、エヴァンスが呆れたようにため息を零す。


「あー。近づかない。おい、アリエンス」


 さして驚いた様子もなく、絨毯の上に転がる真っ赤な顔の友人を真上から観察する。片足を立てて覗き込むように観察し、アリエンスが差し出した白い手袋を手に嵌めて、最初は呼吸音を確かめ、次に目、最後にむんずと顎先に手をかけてグイと口内を無理矢理開けさせる。


「ぼっちゃん」


 差し出された極小の懐中電灯を使い、口内を観察してパッと手を放す。


「おい、アルヴィス。ちゃんと消毒しておけよ」


 ぶっきらぼうに言いながら、手袋を外し、アリエンスが持つトレーの上に乗せる。


「こいつは隔離だ。ばい菌が移る」


 ついでに頭が冷えるまで軟禁しとくか、と物騒なことを言いながらエヴァンスは風邪で昏倒した友人を憐れみを込めて見下ろした。


 だからちゃんと髪拭いとけよって言ったのに。


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