47.爆発
赤い瞳の男だった。
黒髪の中で、光を受けてかすかに輝く鋭い目が無機質にこちらを観察している。
アルヴィスは一瞬息を呑み、驚いてその顔を見つめた。
(この人は、確か夜会で――)
自分の足の手当てをしてくれた男だ。
「アルバート、さん?」
名前を口にすると、アルバートの整った面立ちがわずかに揺れたように見えたが、すぐに元の不機嫌そうな表情に戻る。
彼は一歩踏み込むと、静かにこう告げた。
「釈放だ」
「はい?」
再度尋ねるが、彼は短く冷淡に答えただけだった。
「後は部下が説明する。手続きが終わったら宿まで送らせる」
「はい??」
突然の出来事をなんとか理解しようと必死に考えたが、その意味を咀嚼しているうちに、アルバートは役目を終えたかのようにさっさとこちらに背を向け、扉から出て行こうとする。
その背中を見た瞬間、アルヴィスの中で抑えきれなかった感情が一気に爆発した。
「ちょっと!」
大股で歩み出し、アルバートの軍服の裾を躊躇なく掴んだ。
上質さを伺わせる硬い生地が指先に触れ、アルヴィスはしわができるのも構わず、思い切り引っ張った。
「―――待ってください!!」
棘を含んだ強い声が部屋に響く。
アルバートは驚いたように赤い瞳をやや見開いて振り返ったが、それはほんの一瞬だった。何の興味もなさそうに、冷たくこちらを睥睨する。
だが、怯むものかと、ぐっと顔を上げて口を開いた。
「一体どういうことなのか、全ての事情をきちんと説明してください。今すぐに、です!」
アルバートは一瞬その言葉に驚いた様子を見せ、そして彼にしてはごくごく珍しく、わずかに微笑を浮かべた。
「大人しい人形かと思ったら、人間らしいところがあるじゃないか」
一瞬の空白の後、その意味を理解し、顔に朱を走らせて灰緑の瞳でアルバートを睨みつけた。




