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44.張り巡らされた「点」

 問題は、警察ではなく軍がこの事態を管轄していることだ。その違いが事態を余計に複雑にしていた。


「警察なら、まだ何かしら繋がりで情報を引き出すこともできるかもしれない。しかし軍となると……閉鎖的な組織だからな」


 お前もわかるだろう、と声をかけられてセリウスは無言で頷く。


 数歩後ろで静かに様子を見守っていた執事のアリエンスが、何かを感じ取ったように丸眼鏡の奥の瞳を動かして軽く咳払いを一つした。


 深く考え込んでいるエヴァンスの代わりに敏感に察したのはセリウスだった。アリエンスの鋭い眼光の先に、面映ゆそうにリタの傍らでもぞもぞとしている男の姿がある。


「君は……?」


 リタと一緒に邸を訪れているということは、アルヴィスの使用人の一人なのだろうが、彼とは面識がなかった。


「こちらは元当家の使用人で、現在はファロンヴェイル子爵の下男として仕えております」


 アリエンスがすかさず進み出て、リタの代わりに紹介をする。


 ステファンは軽く頭を下げ、礼儀正しく挨拶を交わす。その様子は控えめだが、しっかりとした態度だった。


 セリウスは取り交わした手を放すと、水色の相貌を向けた。


「何か気になる点はないか?」


 ステファンは待っていましたとばかりにすかさず頷き、リタの小脇を肘でつつくと、何かを耳打ちする。彼女は慌てたように鞄から小さな箱を取り出した。


「それは…」


 リタが差しだしたのは紺色の年季の入った小箱だった。


 セリウスはそれを受け取ると、表面を懐かしむように撫でて、パッとステファンとリタを交互に見やる。それはアルヴィスに彼が渡した母の形見のブローチの箱だった。


「お嬢様は、()を預かっておくようヘイウッド伯爵に言われたと言っていたそうです。それに、王都にいる顧問弁護士が来るまで事件に関して証言はしないと言ったそうでした」


「顧問弁護士?」


 顔を上げたのはエヴァンスだった。


 ファロンヴェイルの顧問弁護士は確かにいるが、王都に万年詰めているようなヤツではなかったようだ。


 心当たりがあるのか、藍色の目をわずかに見開いたエヴァンスに、ステファンはさらに続ける。


「はい。……ですが、当家の顧問弁護士はファロンヴェイルにいます。それに」


 ステファンがちらりと傍らに視線を送ると、焦げ茶色の瞳の侍女が深く頷いた。


「お嬢様はカートライト卿と言いました。当家の顧問弁護士の名前はエドワード・レインズフィールド先生です」


「アリエンス!」


「準備は万端整っております」


 打つような言葉に、エヴァンスの有能な執事が胸に手を当てて笑わない目のまま、口の両端をニイと吊り上げる。


 どういうことかと呆然とするリタに、きびきびと動き始めたのはセリウスとステファンだった。ステファンは執事から封筒のようなものを受け取り、エヴァンスとセリウスに手短に礼を述べてリタに目もくれないまま屋敷を足早に飛び出していった。


 困惑するリタの様子をよそに、目の前で次々に状況が変化していく。


「どういう、こと、でしょうか?」

 呆然とするリタにエヴァンスはニヤリと笑む。


「カートライトは、ヘイウッド伯爵家が代々所有する爵位の一つでな」


 言いながら、執事が簡易的に用意した紙とインクに何かを書付け封筒に入れると、それをセリウスに差し出す。


「セリウスが現在所持している爵位の一つでもある」


 全く恐れ入ったと、エヴァンスは破顔した。


「他に、彼女は何か言っていませんでしたか?」


 受け取った手紙をジャケットの内側にしまい込みながらセリウスが問えば、リタは記憶を呼び覚ますようにしばし沈黙し、ひとつぽつりとつぶやいた。


「お嬢様は、―――()を一冊持っていかれました」


 本、ですか。


 アリエンスは一瞬沈黙し、思わず繰り返した。




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