23.分岐
セリウスに引き連れられて次々と貴族たちと挨拶を交わしていた。
「壁際で大人しくしています」と言ったのに、セリウスの流れるようなエスコートに有無を言わされず、多くの人々に紹介されていた。彼は随分人気者のようだった。
男性はもちろん、女性にもよく呼び止められては紹介や挨拶を受け応じている。中には無遠慮に探るような視線を投げかけてくるような人もいたが、そうした気配を察すると相手が呼び止めるよりも先にアルヴィスの手を引いて会場を渡り歩いて行った。
明日はきっと全身筋肉痛ね、と痙攣しそうになる頬を片手で抑える。
社交が水に合っているのか、アルヴィスの目に映る彼はとても楽しそうでどんな小さな会話からも相手に好感を持たせることに成功しているように見えた。
アルヴィスが彼のようにうまく人と会話ができていたなら、「泥かぶり」と爪はじきに遭うこともなかったのかもしれない。
もう少し、自分から人に接した方がよかったのだろうか。
とは思うものの、早くに両親を亡くし、気づいた時には祖母と邸の使用人たちと田舎で穏やかに暮らしていたアルヴィスは、令嬢同士の着飾った言葉での応酬や彼女たちの父親の仕事や階級が人間関係に影響を及ぼすような腹の探り合いにどうも馴染めなかった。
モントレー伯爵との挨拶を終えたとき、ようやくセリウスが疲れたようにため息をついて、人気の少ない回廊にアルヴィスを誘導した。
回廊には外に向けて開かれた扉から、涼しげな夜気が入り込んでいた。風に乗って運ばれてくるのは、湿り気を帯びた土の匂いや、擦れた葉の仄かな香り、香水や香料ではない自然の花の淡い香りだった。
アルヴィスは思わず立ち止まり、目を閉じて深呼吸をする。胸いっぱいに夜の空気を吸い込むと、清らかで穏やかな気分が心を包む。
その静寂を破るように、隣からくすりと笑う気配がした。アルヴィスが振り向くと、セリウスが柔らかい笑みを浮かべている。
「庭園を散歩してみませんか?」
その言葉に、アルヴィスは今日この夜会に来て初めて心が躍った。
その提案に応えようと口を開きかけた瞬間、後ろから誰かがセリウスを呼び止めた。
お酒に顔を真っ赤にさせたヴィクターの肩を抱きながら手を振っている緑の瞳の男性がいる。
「すまない。今―――」
「どうぞ、行ってください」
自分はこの場にさしたる用も親しい友人もいないが、彼は違う。役割があるのに、自分が邪魔をするのも違う。かといって、セリウスと一緒にもう一度夜会の賑やかな熱気の渦の中に飛び込むのも遠慮したかった。
それに、慣れない借り物の靴で歩きすぎてしまい、靴擦れができているようだった。
熱を帯びて痛みを主張する足のかかとの存在を隠すように、アルヴィスはとん、とセリウスの背中を優しく押した。
「私なら大丈夫です。あちらの庭園の噴水の近くで少し休んでいますね」
「だが」
「どうぞご心配なく。ふらふらせず、じっとしていますから」
彼は一瞬ためらいながらも声の方を向き、短く頭を下げる。
「すぐ戻ります」
「おーい。セリウス」
「今行く!」
そう言い残し、彼は呼びかけてきた人物の元へ足早に歩いていく。途中何度も心配そうにこちらを振り返るのが、なんだかリタを連想させて、過保護な保護者のようだと感じた。
申し訳ありませんっっっ!
23と24のエピソード内容が重複しておりましたので、
修正いたしました!(24/12/25)




