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06.心を閉ざして

「アルヴィス様」


 リタが慌ててその後ろを追いかけるが、アルヴィスは足を速め歩調を合わせることなく、ただ前を向いて歩き続けた。


 リタは何度か声をかけようとしたが、言葉が見つからなかった。


 二人は宿へ向かって歩き続けたが、その道のりのほとんどを無言で過ごした。空気はひどく重く、足音だけがいやに耳に響いた。


 宿に着くと、アルヴィスはリタに何も言わずに部屋に入ろうとしたが、リタはその肩をそっと押さえた。


「アルヴィス様、どうかお聞きください」


 リタの声は、いつもよりも柔らかく、優しさを込めて響いた。


「あなた様のお母様も、お父様も、とても立派な方々でした。そして、亡くなられた奥様――アルヴィス様のおばあ様も、本当に素晴らしい方でした。ユーテシア様は、厳しくもアルヴィス様を立派にお育てになって、ファロンヴェイル家に代々引き継がれてきたあの素晴らしい薬草園をお授けになったのですよ」


 アルヴィスは立ち止まり、リタの言葉をじっと聞いた。


 けれど、顔を上げることなく、ただ黙ってその言葉を受け止めるだけだった。リタは続けた。


「あなた様は、決して自分を卑下したり、縮こまることなんてないんです。あなたがどれほど立派な方で、どんなに大切なお仕事をされているか。あのエヴァンス様だって、アルヴィス様がいないと困るとおっしゃられていたでしょう?どれほど多くの人に愛され必要とされているかを、どうか忘れないでください。使用人たちにも、領民たちにも、あなたの努力はちゃんと伝わっています。あなたが誇りに思っていい仕事をしていることも、忘れないでください」


 アルヴィスはリタの言葉に耳を傾けながらも、何も言わず、ただうつむいていた。リタが言うような「誇り」や「努力」が自分には重過ぎて、うまく受け入れられない。自分には、その言葉がどこか遠く感じられるのだ。


 リタの手が、優しくアルヴィスの肩に触れた。


 自分の価値が低いわけではないと、頭では分かっている。


 代々続いてきた仕事に携われていることにも誇りがある。


 でも、心がそれを受け入れることができない。


「ありがとう、リタ」


 アルヴィスは小さく呟き、ようやく顔を上げて、リタに微笑みかけた。その笑顔は、少しだけ硬いものだったが、それでもリタには少しだけ安心するものがあった。


 二人は静かに部屋に戻り、アルヴィスは再び窓の外に目を向けた。目の前に広がる景色に、何も答えられない自分を感じながら、静かに息をついた。



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