6話 朝日
大樹の穴に朝日が差し込んできた。
遠くから鈍い衝撃音が聞こえる。
5回……6回……エリックが思わず目を覚まし、外を見ると大樹の外で白い髮の猫耳少女が床を叩きつけるような力強い音とともに腕立て伏せを繰り返していた。
「……は?」
エリックは思わず目を擦り、再び猫耳少女を見た。
どうやら幻覚ではないらしい。
尻尾がピンと上がっていて、腕立て伏せに呼応するように上下動を繰り返している。
そのシュールな様にエリックはこみ上げるものがあったが、すんでのところで抑えた。
――王様、あんた何をやってるんだ。
思わず声に出てしまったのだろう。
猫耳少女は、にやりと笑って答えた。
「何って……体を鍛えてるのだエリック。トロルの血が騒いでいるんだ。それに少しでもあの"わるい魔法使い"に勝つ可能性を挙げておきたいからな」
「ちょっとまってくれ王様……その、もしかして付いてくる気か?」
――ありえない選択肢だ。こんなのに付いてこられたら足手まといになるのが目に見えている。
「当然だ。私の人生とトロル族の未来がかかっている。
それにあの"わるい魔法使い"がいつ何時森に攻めてくるかもわからないし、"わるい魔法使い"が来なくともトロルの森に危機が訪れるかもしれない。
対立関係にある人間達が森に何度か攻めてきて、そのたびに撃退している。
エリック、お前が失敗したら次の冒険者に依頼、と悠長にはいかないのだよ。
そもそもお前が途中で失敗したとしても私にはわからないのだから。
それに……私は確かに魔法使いとの戦いは経験不足だ。
ただ私は過去、他国と交流を持つ時などに時間短縮のため危険なルートを進み、遭遇したオーガやグリフィン、ドラゴン等、数多の怪物と戦ってきた事もある。
その経験はお前の役に立つと思うが」
――たしかに王様にとってもこれは最初で最後のチャンスになるかもしれない。
そんな覚悟を持ってる人に、俺は付いてくるなとは言えない。
グリム王は、どこか寂しげな笑みを浮かべながら続けた。
「大丈夫だ、そうはいってもいざとなったらお前を捨てて逃げる。今の私はトロルの時より少し……臆病になったんだ」
――ああ、そうだな。言わなくても分かるよ
切ない答えにエリックも少し表情を曇らせる。