15話 その後
赤い霧が霧散し、人々の意識が戻り始めた。
「グリムちゃん、集合知って何?神様とどうちがうの」
「そうだな……集合知は、多くの個々の知識や意識が集まり統合された知性のことだ。
神様はもっと絶対的で、全知全能の存在とされる事が多い。
集合知は、あくまで人間の知識や経験に基づいている点で神様とは異なるのかもしれない」
「マインドメルトを作り出した人は、神様を生み出そうとしてたの?」
グリムは、空を見上げた。
「マインドメルトを作り出した人が、本当に神様を生み出そうとしていたのかどうかはわからない。
ただ、人間の知識や意識を統合することで、何か新しいものを生み出そうとしていたのかもしれない。
もしかしたら、それが彼らにとっての『神』だったのかもしれない」
「集合知って人は敵だったの?」
「集合知はただ、自分の存在を守るために、自分を守っただけだと思う。
人間だって、同じようなことをするだろう?
生きるために、必死になるのは当然のことだ。
敵だったとか悪かったとか、簡単に決めつけられるものではない。
ただ奴は、やはり間違っていた。
人間の意識を奪い無理やり知識を統合するなんて、許されることではない
……私は、奴のやり方を否定した。
そして、皆が救われた。それだけだ」
エリックは飛び起きた。突然赤い霧に包まれ、その後は夢を見ていたようだった。
ふとあたりを見渡すと、倒れている人間、猫耳族、トロル族を介抱しているグリムとアンミスト、少年が見えた。
訳が分からないが、自分が寝ている間になにか重大なことが起きた気がした。
中止された交流会。
『人が一様に倒れる』という、結果だけ見れば異様な光景で、要は大失敗だ。
だが不思議と人々は蟠りのない笑顔だった。
少年…インクはエリックたちに語った。
「今回の出来事は、実に興味深い現象だった。
マインドメルトという未知の力によって人々は一時的に意識を共有し、通常ではありえないような心の交流を体験した可能性がある。
それはまるで夢の中で様々な人々と出会い、語り合い、感情を分かち合うようなものだったのかもしれない。
夢は私たちの潜在意識が作り出す仮想の世界であり、そこでは現実世界の制約から解放された自由な交流が可能となる。
今回の現象も、それに近いものだったのかもしれない。
マインドメルトは人々の意識を繋ぎ、心の壁を取り払う力を持っていた。
普段は言葉にできないような感情や想いも、共有された意識の中でなら自由に表現できたのだろう。
だからこそ交流会が中止になっても人々は蟠りを残さず、笑顔で帰っていったのではないだろうか。
この現象は、私たちに多くの示唆を与えてくれる。
人間は意識を共有することで、より深く理解し合い繋がりを深めることができるのかもしれない。
そして、それは現実世界での交流にも良い影響を与える可能性がある。
今回の出来事は単なる事故ではなく、新たな可能性を秘めた貴重な経験だったと言えるだろう。
今後、この現象についてさらに研究が進めば、人間の意識や心の仕組みについてより深く理解できるようになるかもしれない。
そして、それは私たちの未来を大きく変えることになるかもしれない。」
と、前向きな回答が得られた。
フロートは起きるなり謝罪をしてきた。
あんな事をして申し訳なかったと平謝りし、グリム達は快くそれを許した。
しかしフロートは、まだ申し訳なさそうな顔をしていた。
「もう終わったことだから、気にするな。それよりも、これからどうするかを考えようではないか」
グリムは、そう言って、周囲を見渡した。
交流会は中止になったものの、人々は思い思いに交流を楽しんでいるようだった。
「せっかくの機会だから、私たちも交流を楽しもう」
グリムはそう言って二人を見る。
「そうだね。ボクも、もっと色々な人たちと話してみたい」
アンミストは、目を輝かせる。
「俺も、今回の出来事について色々な人に話を聞いてみたい」
エリックは、興味深そうに言った。
今回の交流会は、彼らにとって忘れられない思い出となった。
そして彼らはこの経験を糧に、これからもそれぞれの道を歩んでいく。




