12話 防衛機制
エリックはハッとし、フロートを追いかける。
「王様ー!!フロートを捕まえてくれ!!マインドメルトを取られた!!」
会場に居たグリムがエリックの方を見て、とっさに状況を察する。
グリムはフロートを追いかけ始めた。
ゴブリンや猫耳族とただの人間の瞬発力の差は明らかで、エリックはどんどんおいていかれる。
「何故だ!!何故アンタは……グリムと身体交換すればいいだろう!!」
「冗談じゃないわ、あなたもルールは聞いてたでしょう!?マインドメルトは一人1回よ!!そんな無駄なことに付き合ってられないわ」
「じゃあどうする気……だ……」
そこから先のフロートの発言をエリックが聞くことは出来なかった。
グリムは森の中、フロートを追いかけ、とうとう川のほとりまで追い詰めた。
「はぁ……はぁ……返せ……!」
「冗談じゃないわ!!誰があなた達に渡すもんですか。
あなたたちだって叶えたい願いの一つや二つあるでしょう!?
あたしにとってはこれがそうなのよ!!この小瓶で私は人生をやり直すの!!
「お前はトロルの森での暮らしを気に入ってたんじゃないのか!?」
「それこれとは話が別よ!!
確かにあの森の暮らしはそれなりに気に入っていたけど、
猫耳の体とどちらがいいかと言われたら断然猫耳の方よ!
ふわふわしたピョコピョコ動く猫耳。
光を吸い込むような、それでいて潤んだ可愛らしいまん丸の瞳。
思わず頬ずりしたくなる、しなやかでやわらかいお腹。
肉球のプニプニ感がたまらない、思わず押したくなるふにふにの手と足!
気まぐれに揺れる、愛らしいくるんと丸まる可愛らしい尻尾!!
小さくて可愛いのに、生物として完璧なネオテニー。
猫耳のあなた達はあたしにとって理想なのよ!!
あたしは酸っぱいブドウをしてただけなのよ!!
トロルの森での生活も、まあ悪くはなかった。
自然に囲まれて、動物たちと触れ合って、
心穏やかに過ごせたのは確かよ。
でもね、グリム。
あそこで暮らしているうちに、
どんどん自分の醜さが際立って見えてきたの。
あなたたちの無邪気で愛らしい姿を見るたびに、自分の姿とのあまりの違いに絶望的な気持ちになったわ。
ああ、私はなんて醜いんだろう。
なんて可愛げがないんだろうって。
そう考えるうちに、森の動物達の私を見る目も変わった気がした。
『また来たよ、あの化け物』
『気持ち悪い』
『あんな顔、見たことない』
そんな声が聞こえてくるような気がして、
毎日針で刺されるような痛みに耐えていたわ。
それが辛くて、悲しくて、
毎日泣いて過ごしたわ。
手に入らないから要らないと言い、欲しくないふりをする!!
手に入らないから!!要らないと言い、欲しくないふりをする!!!!
そんな生活、私にはもう耐えられない。
やっぱり私は、おしゃれがしたい。
それに猫耳の可愛い姿で、みんなにチヤホヤされたい。
あなたには分からないだろうけどね」
グリムは愕然とした。
――そんな事を考えながら暮らしてたのか…――
「いや、分かるさ……私も似たようなことをやろうとした」
「じゃあ、あたしの気持ちも」
「その時、友が止めてくれたんだ……わたしも、それに倣いたい!!」
グリムはフロートに飛びかかった。
フロートは思わず左手でグリムの顔を殴る。
「来ないで……!!」
殴られたグリムはやり返さず、フロートの両手を押さえつける。
フロートの右手に握られた小瓶の中身がたぷたぷと揺れ動く。
「その時彼女は言った!!やれることを全部やってからにして、今のボクたちにできることを考えて、と。」
フロートに馬乗りになり、グリムは続ける。
「お主にも言うぞ。やれることを全部やってからにするのだ!!嫌がる人間に薬を無理やり飲ませて体を奪うのは止めるのだ!!」




