6話 教会
「やはり猫耳族とトロルは交流を持つべきだ」
トロルの森に入るなりそのようなことを口にしたグリムに対して、エリックは耳を疑った。
「何故だ王様…。アンタ里に入る時に言ってたじゃないか。
美醜の差だの交易品が似通っているだの……。メリットがない、意味がないとも言っていた」
「あの里はとても心地よかった。それにだな…我々トロル族もそろそろ変わる時が来ているのかもしれない。意味など後からついてくるものだ。まずは交流してみる。そこから何かが生まれるかもしれん」
「王様……アンミストの身体に影響されたか……?」
「確かに影響されたのかもしれん。あの里……とくにあの教会は、なぜかとても心地よかったのだ。しばらくその場から離れられないくらいに」
グリムはエリックと別れトロルの森に帰るなり、アンミストにこの話をし教会の荘厳な雰囲気を褒めた。
「信心深くもない私が、何故か祈りを捧げる気になれたほどだ。
あの場所は素晴らしい。
是非ともこの地にも建てたい」
しかしアンミストからは意外な返答が帰ってきた。
「グリムちゃん、その教会ってマタタビ教会のことだよね」
「またたび教会?」
「マタタビの神は、猫耳族がまだ小さく他の種族から迫害されていた時代に、猫耳族を助けるために天から降りてきたんだよ。
それで猫耳族にマタタビを与え、その力で心身を癒し、団結力を高めたんだ。
そしてマタタビの力で他の種族を退け、猫耳族の平和を守ったとも伝えられてるよ。
猫耳族は、毎年マタタビの花が咲く季節に盛大な祭りをするんだ。
祭りでは、マタタビの葉で作られたお酒が振る舞われ、猫耳族は歌い踊りながらマタタビの神を讃えるんだよ。面白そうでしょ」
「それはさぞかし楽しそうな光景だろうな…」
「でしょ?ここで種明かし。マタタビは植物の一種で、庭にも植えてあるはずだよ。
その匂いを嗅ぐとうっとりしちゃうの。
本物のお酒ほど害はないんだけどね。
でも教会依存症の人とかもいて少しばかり問題になってるんだ。
粉末状にしたものも、そこらへんの店で売られてるよ」
「なんだと?
わ、私は酒に釣られたようなものなのか……」
グリムは、てっきり猫耳族の文化に触れて感銘を受けたのだと思っていた。
しかし実際は、ただマタタビの匂いに誘われただけだった。
「別に悪いことじゃないよ。猫耳族の間では一般的なものだし」
アンミストは苦笑いしながらフォローした。
「しかし…」
グリムはまだ納得できなかった。
本当にただの匂いに釣られただけなのか。
他に何か理由はなかったのか。
後日、グリムの部下が埋められている墓の前に数本、マタタビの植物が植えられることとなった。
グリムとアンミストは時々そこに入り浸り、恍惚とした表情で墓に祈りを捧げ、また互いにじゃれ合うのだった。




