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猫耳と王冠  作者: クーアウコ
第二部
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5話 猫耳の里

「フロート…アンタの言うことにも一利あるが、せめて数日待ってから行ってみるべきだ。

 もしかしたらインクは本当に外出中で、そのうち戻ってくるかもしれない。

 収集家のインクは本を大切にしていた。あの少年も他人にそうやすやすと本を触らせないかもしれない。」


 それもそうだとグリムが同意する。

 フロートは「仕方ないわね…」とつぶやき、とりあえず帰路についた。





「そういえば、このあたりは猫耳の里があったな。王様、知ってるか?」


「あることは知ってるが、我々トロルの国とは交流がない。

 知っての通りトロル族と猫耳族は互いの姿形を嫌悪している。

 更に文化の違いもある。たとえばトロル族は多少の汚れは気にせず受け入れるが、猫耳族はその不清潔さが気に障ったらしい。

 食文化にも違いがあり、トロル族は肉や獣の血を好むが猫耳族は魚や果物など、比較的穏やかな食材を好む傾向にある。

 その上猫耳族にはトロル語を使える通訳がいないし、我が国も同様に人間の言葉を使える通訳がいなかった。

 それに地理的に我々と猫耳族では生産物にもそれほど差がないので、貿易をするメリットや意味もあまりないのだ。ただ薬草についての知識は向こうのほうが上だと聞いている」


 フロートが口を挟む。


「行ってみましょうよ!!薬草に詳しいならマインドメルトについてもしかしたら知ってる人もいるかも知れないわ!!」


 エリックはなんだか漠然と嫌な予感がして気が乗らなかったが、フロートは乗り気だ。

 特に断る理由も思い浮かばなかったので猫耳の里に向かうことに決定した。



 猫耳の里は、トロルの国とは全く異なる雰囲気だ。


 道の両側には木造の家々が立ち並び、家々に窓辺には猫の置物や花が飾られている。

 人々は頭に猫耳があり、ゆったりとした足取りで歩いている。

 子供たちは猫のように駆け回り、じゃれ合う。


 フロートはそんな人々の様子を嬉々として見ていたが、しかし猫耳族の人たちはフロートから見られる都度、嫌な顔をして通り過ぎていった。


 猫耳族の人々の冷たい視線にフロートは気づいているのかいないのか、態度は変わらなかった。


「すみません、マインドメルトという薬について知ってますか」と

 エリックは、通り過ぎる人たちに声をかけ続けたが収穫はなく、皆一様に首を横に振る。


 エリックが感じた嫌な予感とはこれだったのだ。フロートに敵意の目が向けられ、収穫もない。時間だけが無駄に過ぎた。


 ところがフロートの態度は何も変わらなかった。

 あれだけ嫌な視線を向けられても好奇の眼差しをやめなかった。

 それはそうかもしれない。

 グリムの事を『誰からも愛されるような姿』とまで言った彼女だ。

 相当な目の保養になったのかもしれない。

 この時のエリックはそんな単純な考えでフロートのことを見ていた。


「アンミストお姉ちゃん?」


 その声で3人が振り返ると、人間でいうと10歳前後に見える、活発そうな猫耳族の少年がそこにいた。


「やっぱりアンミストお姉ちゃんじゃないか!!久しぶり!!」


「え、ええと……」


 グリムは返答に困っていた。アンミストの知り合いに会うなど想定していなかった。


「す、すまない。私は記憶が……」


 と言葉を濁すグリムに、少年は首を傾げた。


「あれ?アンミストお姉ちゃん、なんか変だよ。いつもはもっと明るいし、自分のことを『わたし』なんて言わないのに」


 少年はグリムの顔を覗き込む。


「なんかあったの?」


 グリムは困ったように笑い、


「すまない、ちょっと記憶が曖昧みたいだ」


 と答えた。


「…そっか……」


 グリムは顔を手で抑えながら頷く。


「それなら、アンミストお姉ちゃんがいつも行ってる場所に連れて行ってあげる。なにか思い出すかもしれない。ええと、そっちの人たちも一緒に来て」


 少年は一行を連れて歩き出した。


 猫耳の里の中心部には広場があり、その一角に猫耳族の信仰を集める小さな教会が立っていた。

 教会の周りには、色とりどりの花が植えられた小さな庭園があり、訪れる人々の心を和ませているようだ。


「ここがアンミスト姉ちゃんのよく来る場所だよ」


 少年はそう言って、20名ほどが収容できそうな小さな教会の前に立ち止まった。


「中に入ってみよう」


 グリムは少年に促され、教会の中に入る。


 中は厳かで静謐な空気に満ちている。

 先客が数人いて、神に祈っている姿が散見された。


 壁には猫耳族の神々の絵画や彫刻が飾られており、中央には祭壇があった。


「ここがアンミスト姉ちゃんの祈りの場だよ。」


 少年が説明する。

 グリムは祭壇の前に立ち、目を閉じて静かに祈った。

 エリックから見ると、その表情は恍惚としているようにも見える。


「何か思い出すことはない?」


 少年が心配そうに尋ねるも、グリムは首を横に振り――


「やっぱり、きおくそーしつって、なかなか治らないのかな…」


 少年は残念そうに呟く。


「だが、とても懐かしく感じるぞ…。

 ありがとう、少年……ええと、名前は……」


「それも忘れちゃったの?僕はレオだよ」

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