3話 魔法書収集家再び
アンミストは仕事の関係上来られず、グリム、エリック、フロートの3人でインクを尋ねることとなった。
やがて、グリムたちは魔法書収集家インクの住む街に到着した。
以前と同じく街は魔法書に関する店や施設で賑わっており、独特の雰囲気を醸し出している。
魔法書収集家インクの家を尋ねると、歳にして17くらいの中性的な面持ちの少年が出てきた。
シャツの胸元には、刺繍された小さな魔法書のデザインがあった。
魔法書は開かれた状態で描かれており、中には様々な魔法記号が描かれていた。
この刺繍は、魔法書収集家であるインクの助手であることを示すためのものだろう。
少年はフロートを見ると瞳が揺らめきうろたえるも、すぐさま平静に戻った。
「こんにちは。何かご用ですか?」
3人に笑顔で話しかける。
「インクさんに用があって来たのだが…」
グリムが答えると、少年は少し困ったような表情を浮かべた。
「わ…主人はちょっと急用がありここ数日外出中で…要件なら私が承りますが」
少年は申し訳なさそうに答えた。
「詳しいことを聞いても?」
グリムは念のため尋ねてみた。
「いえ大したことは…ただ、少し忙しく…ところで要件は何でしょうか」
「マインドメルトの残薬がないか聞きたいのだが」
「マインドメルトなら、前にそちらの…えーと、背格好からするに多分後ろのあなたがエリックさんですよね?あなたに渡したものが最後になっています」
エリックは少年の言葉に注意深く耳を傾けていた。
その言葉遣いや表情、そしてわずかな仕草の端々に、何か不自然なものを感じ取っていた。
――直感した。この少年はおそらく何らかの嘘をついている。
グリムたちはインクの屋敷から離れて道端で話していた。
「しょうがないな。また日を改めて尋ねるか」
「そうね、仕方ないわね」
そこにエリックが反論する。
「いや、それはどうだろうな。日を改めてもまた別の話になって延々会えないかもしれない」
「…どういうことよ」
「証拠はなにもない、妄想に近い話だから話半分に聞いて欲しいんだが。あの少年はインクさんの変装である可能性が考えられる。中性的な顔立ちで、実は女だったと言われても納得の顔だった。1年前に一度会っただけだから自信はないが、思い返せばインクさんに似ていた気が」
「インクさんの変装!?何のために?そんなことをあたし達にしてどういうメリットが?」
「それはわからない。借金取りにでも追われてるとか、誰かに命でも狙われてるか、とか。その場合は障害を排除しない限り延々同じ態度を取られる可能性がある」
「どういう妄想よそれ…数日たったら何事も無く会えるかもしれないのに」
「だから話半分だと言った。前にもメイドの変装をされてうっかり騙されたことがある。少年に化けても不思議じゃない」
「いや、それは飛躍しすぎてるって!メイドと少年じゃ全然難易度が違うわよ」
フロートは声を荒げ反論した。
エリックは続ける。
「少しばかり見張ってみよう。何かの拍子にうっかり変装を解く可能性もある」
3人は小高い丘から屋敷を見張った。ここからなら高い垣根があろうとも家の中が覗ける。
そうして小1時間経った頃……
「ねえ、アレは何?」
フロートが疑問を口にして、二人に問いかける。
なんと、窓越しにあの少年の子と女性らしき人物が歩いているのがチラッと見えた。
「あれはインクさん?ねえ、王様、エリック。答えて!」
「……一瞬だったし、しかも遠すぎてここからではなんとも……」
「私はそもそもインクに会ったことがないから分からない……」
「でも、今の光景で変装説もゆらいできたんじゃないの?エリック」
「……ではこういうのはどうだ。インクさんは今大病をわずらっている。
しかし何らかの理由でそのことを世間に公表したくない。
商売敵に知られたくないだとか、もしくは世間にバラすのが憚られる病気だとか。
それで療養しているのだとしたら?」
「なるほど、それなら辻褄が合うわね。
でも、それならそっとしておくべきじゃないかしら?
病気療養中なら邪魔しちゃ悪いわ」
「ああ、そうだな。
しかし病状が思わしくないとなると、いつまでこの状態が続くかわからない。
会える保証はない」
「じゃあどうするの?『窓越しにインクさんが見えたから会わせろ』って言う?」
「それも乱暴な話だな…」
結局どうすることも出来ない3人は一度森に戻ることにした。




