2話 依頼
数日が経過した。今日もグリムはトロル王の体が眠る墓の前で手を合わせていた。
「…王様」
はっとしたグリムは振り返る。
感情の濁流に飲まれていた王は、後ろからのエリックの声掛けで現実に引き戻された。
「久しぶりだな王様。やっぱりアンタもまだ自分の体に未練があるのか?」
「……無いといえば嘘になるが……」
「そうだな。アンタはフロートと違って体が目の前にあるもんな」
「時折、魔法でどうにか出来ないかと思ったことはあった」
「ハハハ……ゾンビの王様が収めてる国なんて笑えないな」
笑えないと言った割にエリックは楽しげに笑った。
「それで王様。頼みというのは?」
グリムは依頼をする為、ギルドを通じエリックを呼び出していた。
「マインドメルトだ。
私にはもう2重の意味で使えないが、フロートならまだ体が残っている可能性がある。
魔法書収集家のインクのところに行き、少しばかり融通してもらえないか聞きに行きたい」
エリックがきょとんとした表情で返す。
「いや、マインドメルトって王様…。あの薬は高価すぎて予備はないと言っていたはずだが」
「また作ったかもしれない。
その際は、少量なら私でも払えるくらいの金額かもしれない。
ともかく一緒に来てくれ」
「それに、確かヴォルグラスは言っていたはずだ。
フロートと身体交換をしたゴブリンは崖から飛び出した、と」
「死んだかどうかまでは明言していなかった。
どこかで生きて暮らしているかもしれない。
その件についてもギルドに依頼をして探してもらっている。
それに、そもそもそヴォルグラスが言っていたのはフロートとは別組の話かもしれない。
あるいはそれがフロートの話だったとしても、他にヴォルグラスによって身体を交換させられた被害者が何人いるか分からないのだ。
解決用に所持しておくのも悪くないだろう」
一連の流れをフロートに説明すると嬉々としていた。
「へぇー。そんな薬があるのね。
そのインクさんも面白そうな人ね、あたしも一緒に行く」
エリックは二つ返事で付いていくと言ったフロートの言動が不思議だった。
「アンタがまさか付いて行くなんて言い出すとは思わなかったよ」
あれだけ自分の姿に悲観し、暴れていたのが嘘みたいな言動。
ところがフロートは布を顔に巻き鼻と口が隠れるように覆い、リュックを背負う。
あらら。やっぱりそこは気にするんだな――
エリックは彼女の変化を喜びつつ、グリム達と共に魔法書収集家インクの元へと向かう準備を始めた。
エリックはフロートの変わりように戸惑いを隠せないでいた。
以前のフロートは自分の姿を嘆き、絶望に打ちひしがれていた。
しかし今のフロートは前向きで、新しい知識や経験に好奇心を抱いている。




