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猫耳と王冠  作者: クーアウコ
第二部
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1話 再会(ここからは蛇足です。至極出来が悪いので、この先は読まないでください)

「そうか……私の部下はあの時に……」


 茶色い長髪の猫耳少女アンミストの言葉にグリムの瞳は遠くを見つめた。

 長年の時が、まるで昨日のことのように脳裏に蘇る。

 あの日、部下は決死の覚悟でマインドメルトを飲んだのだ。


「ごめんね……」


 アンミストの震える声が、グリムの心を締め付ける。


「仕方ない。部下も覚悟の上だった。それより長い時間をかけて、よく私を探しに来てくれた。君の無事が確認できただけで私はもう……」


 グリムの発した言葉は見た目からは想像できないような、どこか達観、諦観したような声色だった。


「ボクだけじゃないよ。みんなグリムちゃん…ううん、王様を探してたんだよ」


「いや、私はもう王では……」


「グリムちゃん……いまあなたの頭に乗っかってる王冠はみんなで作ったものだよ!!」


 アンミストは、グリムの頭に乗せられた手作りの王冠を指差した。


「……!!」


「みんな」という言葉に、グリムはハッとする。

 国の民は、未だに彼のことを慕っていたのだ。

 グリムがトロルの国を築き、民を導いてくれた日々は、彼らの心に深く刻まれていた。


「帰ろうよ、グリムちゃん。あなたの本当のおうちへ」









 森を抜け晴れた空の中、踏み固められた茶色い道を歩く二人。


「ところで、なぜ君はあの後入れ替わることができたのだ?マインドメルトは1回しかつかえないはずじゃ…」


「収集家のインクさんいわく、一回飲んだあとの3分間は何回でも入れ替われたらしいよ」


 その後アンミストより、空白の期間でトロルの国に起きた様々な出来事を聞かされた。


 王様が旅立った後にアンミストが目覚めたこと。

 約1年もの間、エリックやアンミスト、トロルの民達はグリムを探し続けたこと。


 アンミストという通訳を迎えて外交や交易が以前よりスムーズにいき、コミュニティ不足によるトラブルが減った事。


 そのような話を聞きながら、グリムはトロルの国に向かった。







 彼らは、グリムがいつか帰ってくると信じていた。

 そして、その願いは遂に形となった。

 グリムの帰還を願った民たちは指輪を王冠にしたのだ。

 それは、彼らのグリムに対する信頼と変わらぬ忠誠の証だった。


 民たちは、グリムが再び王としてトロルの国を治めてくれることを、心から願っていた。

 そして、その願いが遂に叶う。








 国に戻ったグリムはまず民から盛大な歓迎を受ける。


 歓声を上げた民がひっきりなしに握手を求めてきたり、抱きついてきたりするのだ。

 最初は笑顔で応えていたグリムも、

 時間が経つにつれて苦笑いを浮かべるようになった。


「グリムちゃん、1年も探させたんだからこれくらい我慢してよ」


 同じく苦笑のアンミストはそう答える。


 グリムは民衆から贈られた数々の品々を抱えながら、そう言われても困ったような顔をした。

 食べ物の入った袋、手工芸品が入った籠、そして様々な種類の服。


「1年分は重いんだな……」



 そこに、背はグリムくらいの見覚えのあるようなゴブリンがやってきた。

 尖った耳と大きく膨らんだ鼻。

 デコボコで色ムラがある灰色の肌だ。



「久しぶりね、王様。あなたの言う通りお世話になってるわよ」


「君は…ええと…」


「ここは居心地いいわね。なんだかんだあって結局来ちゃった。あの時お誘いされててよかったわ。ありがとうね」


 ゴブリンは、にこやかにグリムに話しかけた。


 ――ああ、そうか。このゴブリン…元人間の女性は、ヴォルグラスの情報を聞きに行った時の…

 確か名前はフロートと言ったな。訪問しに行ったのは無駄ではなかった――


 グリムは込み上げてくるものを抑えながら彼女の活躍を聞く。


 その器用な手先と元人間ならではの知識を活かし服や工芸品などを編んだり、トロルでは取りにくい場所にある果物を回収したりと言った仕事をしているそうだ。

 アンミストに通訳をしてもらったりトロル文字に残し、その技術や知識をトロルに伝えているようだ。

 アンミストにトロル語で書いてもらった本も1冊あるとの事。






 次の日――

 王冠を被ったグリムは自分の体が眠っている墓の前に来た。

 彼には読めないが、墓にはトロル語で彼の部下の名前が刻まされている。

 彼は手を合わせ、部下との様々な思い出に頭を巡らせる。



 ――険しい山々を越え、深い森を抜け、貿易できる国を広げてきた。

 私達は幾度となく肩を並べ、魔物や悪しき人間たちと刃を交えた。

 祭りの夜には、互いに酒を酌み交わし、酔いどれながらもどちらが強いかを競い合ってきた。

 腕相撲、剣術、時には奇妙なゲームまで、勝負の方法は様々だ。

 ある時は私が辛勝し、またある時は部下が豪快に笑う。

 ある時、グリムは辛うじて部下を打ち負かした。

 しかし、それは本当に僅差の勝負であり、紙一重の差でしかない。

 もしかしたら、次に対戦したならば、結果は逆になっていたかもしれない。

 部下は私にとって手強い存在であり、また良き友でもあった――


 そして部下への思いが一通り巡った後、グリムは1年前に手を合わせたときと同じ奇妙な感覚に陥った。


 まるで自分が死んだような感覚だった。


 恐怖、悲しみ、自我の欠落。

 様々な感情や思考がグリムの心を駆け巡り、そして消えていった。

 まるで嵐のように激しい感情の波……。

 夢と現実の境界線が曖昧になり、自分が今何処にいるのか、何をしているのか分からなくなった。

 ただ時間がゆっくりと流れるのを感じながら、グリムは深い濁流へ飲まれていく。

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