表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫耳と王冠  作者: クーアウコ
第一部
33/52

33話 王家の指輪

 扉に叩きつけられ床に倒れ脳震盪を起こしたグリムは、眼の前で倒れているアンミストをボーッと見ていた。

 指輪を握りしめながら、グリムは震える手で自分の顔を覆う。

 

 ――かつてこの指輪は一族の魂を宿し、私を導いてくれた。

 だが今は、冷たい金属の塊にすぎない……


 指輪に触れる度に、かつての力と栄光が虚無へと変わっていくように感じた。


 ――私がなぜこのような目に遭わないといけないのだ。

 トロル族を滅ぼすでもなく、私を殺すでもなく、ただ苦しめるだけ……


 グリムは涙が出てきた。

 王家の指輪をギュッと体で抱きかかえ、横になる。

 雨音が木に叩きつけられる音が、轟く鼓動のようにグリムの耳に響く。

 意識は薄れ、現実と幻覚が入り混じり始める。


「なぜ……なぜ私が……」


 呟きは、雨音に掻き消されそうになる。

 それでも、グリムは必死に考えようとする。

 王家の指輪。

 それはトロル族の誇りであり、力そのものだった。

 だが、今となってはただの飾り物。

 いや、それすらも叶わぬただの重荷に感じられた。


 かつて先代から受け継いだ指輪は輝かんばかりの光に満ち溢れ温かかった。

 それは一族の重責と、王としての誇りを象徴していた。

 だが今は、冷たく、重く、そして虚しい。


「こんな……こんなはずじゃ……」


 グリムは、自分の人生を走馬灯のように何度も何度も見返した。

 強大な力を持つトロル族の王として、一族を何度も守ってきた。

 だが今、彼は何もかも失ってしまった。

 指輪を握りしめながら、グリムは震える手で自分の顔を覆う。

 かつては力強かったその手は、今はただ虚無を掴んでいるだけのように見えた。


「もう……いい……」


 グリムは指輪から手を離し、ゆっくりと目を閉じ意識を遠ざけていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ