33話 王家の指輪
扉に叩きつけられ床に倒れ脳震盪を起こしたグリムは、眼の前で倒れているアンミストをボーッと見ていた。
指輪を握りしめながら、グリムは震える手で自分の顔を覆う。
――かつてこの指輪は一族の魂を宿し、私を導いてくれた。
だが今は、冷たい金属の塊にすぎない……
指輪に触れる度に、かつての力と栄光が虚無へと変わっていくように感じた。
――私がなぜこのような目に遭わないといけないのだ。
トロル族を滅ぼすでもなく、私を殺すでもなく、ただ苦しめるだけ……
グリムは涙が出てきた。
王家の指輪をギュッと体で抱きかかえ、横になる。
雨音が木に叩きつけられる音が、轟く鼓動のようにグリムの耳に響く。
意識は薄れ、現実と幻覚が入り混じり始める。
「なぜ……なぜ私が……」
呟きは、雨音に掻き消されそうになる。
それでも、グリムは必死に考えようとする。
王家の指輪。
それはトロル族の誇りであり、力そのものだった。
だが、今となってはただの飾り物。
いや、それすらも叶わぬただの重荷に感じられた。
かつて先代から受け継いだ指輪は輝かんばかりの光に満ち溢れ温かかった。
それは一族の重責と、王としての誇りを象徴していた。
だが今は、冷たく、重く、そして虚しい。
「こんな……こんなはずじゃ……」
グリムは、自分の人生を走馬灯のように何度も何度も見返した。
強大な力を持つトロル族の王として、一族を何度も守ってきた。
だが今、彼は何もかも失ってしまった。
指輪を握りしめながら、グリムは震える手で自分の顔を覆う。
かつては力強かったその手は、今はただ虚無を掴んでいるだけのように見えた。
「もう……いい……」
グリムは指輪から手を離し、ゆっくりと目を閉じ意識を遠ざけていった。




