28話 決戦へ
3人はフロートの住む村より時間を掛け、トロルの森に戻った。
その次の日……柔らかい朝日が森を照らす。
トロルたちが騒いでいた。
アンミストが言うところによると、
「グリムちゃん……。トロルの人がひとり……今日の朝から行方不明って……」
グリムがざわめき出す。
「なんだと……私の民が!?まさか、トロル排斥同盟の残党が夜中に……?」
「……前にグリムちゃんに抱きついてた、"ぶか"とかいう人らしいよ……」
例の直属の部下の家に行くと、紙が置いてあった。そこには人間の文字で
「グリム君、エリック君、アンミスト君。君たちに見せたいものがある。3人だけで来なさい」
と書かれ、このあたりの地図らしき図のとある場所にバツ印があった。
エリックは背筋が凍った。
直感した。
――奴だ。
……これは……罠か?
いや、そもそも殺す気ならこんな回りくどいことをせずとも、最初から奴は王様やアンミストをやることが出来たはずだ。
では一体これは………
人間の言葉で書かれた紙を読んだグリムとアンミストは言葉を失った。
グリムは紙を掴みながらブルブル肩を震わせている。
「エリック……」
グリムは、震える手で紙を握りしめ呟いた。
その声は枯葉が風に吹かれるような、かすかな音だった。
まるで、心臓を抉り取られたような痛みを感じているようだった。
部屋の中は、重苦しい空気に包まれていた。
窓から差し込む光だけが、その静けさを破るように部屋の中を照らしていた。
しかし、その光はグリムの心の闇を照らすにはあまりにも弱々しかった。
エリックは、グリムが幾度も発狂し苦悩し涙したことを思い出した。
彼は今その事を思い出しその元凶に恐れおののいている。
直接会ったことのないエリックですら恐怖で逃走しかねないほどの相手。
まさかグリムは……
「エリック。私は……」
……怖くて逃げ出したい。
その言葉をエリックは待っていたのかもしれない。
――王様とアンミストと3人で、楽しくこの先もずーっと、"わるい魔法使い"を避けて体を戻す、当てのない旅をする。
王様が泣いてたら、俺とアンミストがヨシヨシとたしなめる。
良いことがあったら喜び合おう。
怒ってたらなだめよう。
それから、たびたびトロルの森に帰って住民と戯れる。
それでいいじゃないか。何が悪い?
別に恥ずかしいことじゃない。壊されるよりよほど良い。
「エリック……私は民を、部下を救いたい。そして………
元の体を取り戻したい!」
まあ、今のアンタならそう言うと思ったよ。
しかたない、約束したもんな……一緒に行こう。
「グリムちゃんがそう言うならボクもいく!」
静寂を破るように背後から金属音が響き渡った。
エリックが振り向くと、決意を新たに王の鎧に身を包んだアンミストの姿があった。
アンミストは、王家の指輪をグリムに返す。
「それとこれ……グリムちゃんが持っていて。これまでずっと一緒に戦ってきたんでしょ。だったらボクじゃなくて……グリムちゃんが持つべきだよ」
グリムは渡された指輪をしばらく見つめていた。
その指輪は猫耳少女にとっては大きすぎて、指輪どころか腕輪にすらならない。
彼はしばらく王家の指輪を腕にはめ、感触を確かめていた。
その後に王家の指輪を腰に下げた袋に入れると、
「今の私には大き過ぎるな……だがこの戦いが終わったらきっと……」
大きく成長して指輪に認められる身体となる。
エリックは握りしめた拳に力を入れた。
この先に何が待ち受けているのか、全く見当がつかない。
だが、グリムとアンミストを置いて一人で戻ることはできない。
彼はそう心に誓った。
複雑な感情を必死に抑え込みながら、彼は前を向いた。
それぞれの思いを胸に秘め、重たい荷物を背負いながら3人は地図に指定された廃墟の城へ向かう。




