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猫耳と王冠  作者: クーアウコ
第一部
16/52

16話 魔法書収集家インク

 ついにエリック達は、魔法書を収集しているという魔法使いの住む町にたどり着いた。

 街は魔法書に関する店や施設で賑わっており、独特の雰囲気を醸し出していた。

 晴天の中、エリック達はまず魔法使いの容姿を確認するため、噂の魔法使いの住む家の近くで張り込む事にした。

 高い生垣に囲まれた邸宅は、まるで中世の城塞のようでありながら、どこか温かみのある雰囲気を醸し出していた。


「王様。アンミスト。仮にこの家に住んでいるのが白ヒゲクソジジィ……つまり"わるい魔法使い"の場合だが、出来れば正攻法ではなく、隙を見て後ろから襲いかかり無力化したい」


 声に全く抑揚がなく、まるで感情の波紋一つ立てない水面のような平坦な声で、アンミストは告げた。


「ボクにやったように、ですか?」


 ――まだ根に持ってるのかコイツは……


 エリックは再度アンミストにあの時の謝罪をして話を続けた。


「だが相手はアンタ達の体を恒久的に変えるほどの人間だ。自分の姿を偽ってないとも限らない。もしここで張り込んだ結果アンタ達の記憶と一致する人物が屋敷を出入りしなかったとしても、色々話を聞くのは顔が割れていない俺一人だ」


 二人は頷く。


 そして家から出てくる人物を確認した。

 2日ほど待ったが、出入りは2人のメイド、本を売り込みに来た商人、日用品を売る行商人くらいだった。いずれの人物にも二人は反応しなかった。

 エリックは二人から"白ヒゲクソジジィ"の特徴を聞いた上でエリックは魔法書収集家の家を訪ねた。


 門を開けると、緩やかな石畳の道が左右に広がる庭園へと続いていく。

 手入れの行き届いた芝生の上には、色とりどりの花々が咲き乱れ、甘い香りが辺りに漂っていた。

 正面玄関は重厚な木の扉で、両側にライオンの彫刻が鎮座している。

 扉の上にはステンドグラスの窓が嵌め込まれ、陽の光を浴びて美しく輝いていた。

 扉を叩いて応答したメイドに、とある魔法書を探しているので、あるならば読ませてもらえないかと伝えた。

 20歳代くらいの若いメイドは了承し、主人に話を通す事無く奥に案内した。



 天井まで届く書棚がびっしり並ぶ、暗く静かな書斎に通され、小さな天窓からはかすかに光が降り注ぐ。

 そして荷物を横に下ろし椅子に座り待っていたエリックの前に、着替えを済ませたさっきのメイドが現れた。

 長髪で黒髪の彼女は、革張りの椅子に腰掛けた。

 彼女は黒色のローブを身に纏い、肩には何百年も使い込まれたような革のマントが掛けられていた。

 エリックは怪訝な顔をしてメイドに聞いた。


「まさか、アンタが……」


「私がその主人だけど何かな」


 天窓からの淡い光に照らされた豪邸の主はどうだと言わんばかりの顔を見せた。

 仙人みたいな容姿を想像していたエリックは、まさかメイドが主人を名乗ってくるとは思わず、虚を突かれた。


「ようこそ。私の名前はインクだ。どうだい、私の茶目っ気は」


 インクは二人分のカップと菓子を持ってきて、エリックとインクの前にそれぞれ並べた。

 カップからは湯気が立ち込め、甘い匂いが漂う。

 エリックはインクに自分の名前を名乗った後、さっそく並べられている本から目的の魔法書を探そうとしたが止められた。


「ちょっと待ってエリックくん。他人に好き勝手に本を触られるのは好きじゃないんだ。本が傷んでしまう」


 カップを持ちながらインクは明るい口調で言う。


「ではエリックくん。どんな本を探しているか私が今から質問する。君は、『はい、いいえ、どちらでもない』で答えてくれ」


 カップの中の液体を転がしながらインクは喋る。


 ――は?


「だって君が私の質問に素直に答えるだけじゃつまらないだろ?私を楽しませてほしいんだ。

 たのむよー。

 そうだな。15問としよう。その質問の後に君の探している魔法書を私が1回だけ答える。

 当てられなかったら魔法書を見せてあげよう。

 必要なら写本もしてあげよう。

 ただし私が勝ったらこの話は無しだ」


「……なんだと?」


「この魔法書のコレクションは私が大金をだして買ったんだよ?

 そう簡単に見ず知らずの他人に見せられると思うかい?

 魔法書はすごく高いんだ。

 私は他人のためにボランティアで本を買ってるんじゃないんだよ?」


「な、なら金を出す!!」


「うん、君の身なりを見る限り、多分私の求める金額は払えないかな」


 エリックは肩を落とした。


 ――畜生、これが格差社会か……





「じゃあ行くよエリック君とやら。

 1.その魔法書は、戦闘に使うような魔法かい??」


「いいえ」


「ふーむ……まあありきたりすぎたか。

 2.不老不死に関係ある?」


「いいえ」


「3.金や地位がほしいのかな?」


「いいえ」


「うーん、どれかだとおもったんだけどな。特に君の身なりでは」


 エリックは若干不快に思った。


 ――だが、これまで3問とも外している。これは行けるかもしれない。


「4.なにか探し物をするための魔法だろ?」


「いいえ」


「5.人に使うような魔法かい?」


「はい」


 エリックは若干焦った。


「6.怪我や病気の回復に関係がある」


「いいえ」


「ふむ、面白くなってきたな。

 7.愛や感情、知能や思考に変化がある魔法かい?」


 エリックは少し躊躇したが答えた。


「どちらでもない」


 今求めているのはあくまで身体交換の魔法だ。

 グリムが"白ヒゲクソジジィ"に受けて喋れなくなってしまったトロル語の事は除外する。

 それでも、身体交換によって知能や感情に多少変化はあるかもしれない。

 エリックはそんな事を思った。


 収集家は首を傾げる。


「君が求めるのは力でも財産でも治癒でもない。知能や愛などに多少は関係はしてるかも知れないが言い切ることはできない程度、と。ふーむ……ああ、そうか。なるほどね。このパターンね。

 8.君にはパーティメンバー、もしくは仲間がいるかい」


 インクは、まるでエリックの心の奥底まで覗き込むような鋭い眼光を向けてきた。


 ――……仲間……そうだな。

 グリムにとって俺はただ依頼を引き受けた冒険者かも知らないし、俺も半ば同情心から引き受けただけの関係だった。

 それにこれまで一緒に旅をした期間はとても短い。

 でも……それでも、今の俺にとってはもうグリムは単なる依頼者ではなく――


「仲間だ」


「ふむ……先ほどより良い顔になったね君は。じゃあ、

 9.その魔法書は、君の仲間にとって特に重要なものかい?」


「……ああ!」


 ーそのとおりだ!どれだけグリムが苦しめられたかー


 エリックは瞳を輝かせながら力強く頷いた。

 彼の表情は決意に満ち溢れていた。


「いいねー君の表情、とってもいい!私はそういうの好きだな。

 10.その魔法書を手に入れれば、君たちの望みはかなうのかい?」


「そうだ!そのとおりだ!俺達のゴールだ!!」


「11.その魔法書を使うことで、何か取り返しのつかないことが起きる可能性はあるかい?」


「むしろ取り戻しに行くんだ!!」


 エリックは、自分の言葉が軽率だったことを悟り冷や汗をかいた。

 インクの瞳は、まるで深淵を見ているような深さを湛えていた。


「熱いね君……何が起きたかはわからないけど、ちょっと感動しちゃったかな。

 12.その魔法書は君たちの手に渡れば、幸せをもたらすものだと信じているかい?」


「間違いない!!」


「いいね!!エリック君。私は君のひたむきな様が気に入った。

 病気でも怪我でもない。ならこれだ!

 13.死者蘇生に関係がある」


「いいえ」


「……何?」


「いいえ、だ。あてが外れたか」


 そんなはずは……インクはそういう顔をした。


 ーもう殆ど確定されかかっている気がするが、あと2問だ。逃げ切れるかもしれない。ー


「ふむ……これしか無いと思ったんだが……いよいよ後がなくなってきたな。

 人に使う魔法だが怪我や病気、死亡などではない。戦闘に使う魔法でもなければ不老不死を求めているのでもない。さらに知能や思考、愛や感情などに多少の影響はあるかもしれない。とすると……うーんそうだな……

 14.変身魔法かい?」


 インクは慈愛に満ちた眼差しで質問した。


「いいえ、だ……」


 エリックは冷や汗をかいていた。


 ――あと1問……多分彼女は当ててくるだろう。もうおそらく可能性はアレしかない。これほどの量の魔法書があるんだ。きっとこの中に探していた本はあるはずだ。あと少しだったのに……


「次が15問目。最後の質問だ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 ――なんだと?


「ほらエリックくん、早く答えてくれよ、最後の質問だよ」


「……その質問はなんなんだ?ふざけてるのか?」


「私はとっても大真面目に聞いているのだよエリックくん。さあ、答えてくれ。……()()()()()()()んだろ?」


 エリックは息を大きく吸い込み――


「ああ!!助けてほしい!!」


 その言葉は、エリックの心の奥底から自然と溢れ出たものだった。

 魔法書を手に入れること。

 それは、ただ単に仲間を助け目的を達成することだけではない。

 自分自身の成長へと繋がる、大きな一歩だと確信していた。


 インクは満面の笑みを浮かべ、まるで子供が宝物を見つけたような表情をした。


「……エリックくん、君はいい奴だ。私の負けだよ。聞こうか、君たちの欲しがっている魔法書を」

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