13話 訓練
「起きろこの豚が!」
グリムの怒声が響き渡り、エリックは飛び起きた。
振り返ると、アンミストが蹴り飛ばされていた。
「アンミスト貴様、この腕、この腹はなんだ!柔らかくなっているではないか!
私の体になった日から全く鍛錬を積んで居なかったな!
このままでは私はトロルではなく豚になってしまう!
起きて鍛錬しろ!私と約束しただろう!!
王の威厳を保つと!!」
アンミストは、面倒臭そうに目をこすりながら、起き上がる素振りを見せた。
「……ああ、そんな約束したね。しょうがない。やってあげるよ」
二人は約1時間、汗だくになりながら腕立て伏せやランニングを繰り返した。
アンミストは最後までペースを落とすことなく続けたが、グリムは途中でバテて仰向けに倒れてしまった。
「ひゅー……ひゅー……貴様……やるではないか……」
だらしなく大の字になったグリムは息も絶え絶えだ。
「えらそうにボクを蹴って運動させたのに自分はそれだけで終わり?
トロルの王様って他の人にえらそうに命令する割には自分はなんにもしないんだ」
深呼吸をしてようやく落ち着きを取り戻したグリムは、体を起こし答えた。
「……この怠け者の体の持ち主が全部悪い。
少し運動しただけですぐ息を切らせるのだ。
そもそも鍛えに鍛えた私の鋼の肉体と、この筋肉がまったくないナメクジみたいな身体では勝負にならない。
むしろその体が勝利したということは、実質私が勝っていると言えよう」
「グリムちゃん、覚えてる?女の子らしい言葉を使うんだよ。約束したよね」
アンミストは、悪戯っぽく笑みを浮かべた。
「いい?ボクの言う通りにいってね。『アンミストお兄ちゃんに負けちゃったー。お兄ちゃんすごいねー』はい」
グリムがブルブル顔を震わせながら無理やり作った笑顔で言う。
「ア……ア……アンミストお、お兄ちゃんに……負けちゃ……」
途中で言葉が途切れ怒りの形相となった。
「ふざけるな!!私はトロルの王だぞ!!
もうこんなのやっていられるか!!
恥を晒したければ晒せ!!」
「あーあーいいのかなー。ボクの町の人達に恥ずかしいこと言っちゃうぞー」
「街の人間だと?勝手にしろ!!私の知らぬ赤の他人に何を言おうが、痛くも痒くもないわ!!」
「グリムちゃんの森にも行こうかなー。ボク、グリムちゃんのすんでるところ知ってるんだー」
「……ぬぬ……」
グリ厶がエリックを睨みつける。
ーいや、本当にスマン、王様……ー
エリックは心のなかで手を合わせグリムに謝った。
「……いや、貴様……貴様はトロル語を喋れない!!
貴様が出来るのはせいぜい阿呆みたいな格好で踊るだけだ。
いくら私の格好をしたところでトロル語を全く喋らないお前など私の民や部下が不審に思わないわけがない!!お前は即座に偽物扱いされ森から……」
「へぇ……ボク、トロル語しゃべれるよ」
アンミストはニヤついていた。
「……!!!」
グリムは形相を一変させ、白目をむき、泡を吹きながら倒れた。
「お……お兄ちゃんに……ま、ま、負けちゃった。
お兄……ちゃん、強いね……これでいいか!!」
一口食べたら辛味で倒れそうなほど毒々しい色をした唐辛子のような顔になったグリムはようやく言い切った。
「たった一言?それだけ?ボクはあんなに頑張ったのに?」
グリムは顔をゆがめ、歯を食いしばりながら言葉を発した。
「き、ききき貴様……今ならこの茶番も許してやる。
私は寛大なのだ。
だが、この茶番を続けるというなら元に戻った時、どうなるか分かってるだろうな小僧……」
彼は尻尾をこれ以上ないほどブンブン揺らし青筋を立てている。
相当イライラしているようだ。
「ボクの本当の顔も名前も知らないのにー?」
グリムは怒りを爆発させ、アンミストに飛び掛かった。




