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猫耳と王冠  作者: クーアウコ
第一部
12/52

12話 数珠(じゅず)つなぎの身体交換

 アンミストは旅の準備があり自分の住む場所に1回戻るとのことで、エリック達が指輪を鑑定してもらった町に3人で一緒に移動した。

 グリムは、街の入口付近で不満を漏らす。


「私は国に戻れないのに、お前は戻れるのか…」


 エリックもグリムと同じ疑問にたどり着いた。


 ――王様と同じ目に遭わされたというのに、コイツからはあまりそれが感じられない。

 そもそもこの男が王様と同じ目に遭わされたと言うなら、王様がトロル達と会話ができなくなったように、こいつも人間の言葉を取り上げられ……?


「……アンタ、なぜ人間の言葉がわかる?」


 アンミストがどういうことです?という顔をする。


「王様はあの猫耳の少女の体になった後、元のトロルの言語を話せなくなってトロルとのコミュニケーションが出来なくなっていたらしい。アンタはなぜ話せる?」


「そんな事ボクに聞かれても……あの白ヒゲクソジジイに聞いて下さいよ、エリックさん」


 ――なるほど。コイツは王様と違って身体交換後も会話ができた。つまりグリムよりはある程度元の生活が保てた。


 町の入口に来ると、アンミストは一人で行くと言い出す。

 はぐれたらまずいと感じたエリックは一緒に行くことを提案したが、拒否された。



 夕焼けが辺りを茜色に染める中、エリックとグリムは町の入口でアンミストを待ち続けていた。

 時間だけが刻々と過ぎ、二人の心には焦りと不安が募っていた。


 ようやく遠くに人影が見えた。

 近づいてくるその姿はまさしくアンミストだった。

 しかし、彼の背中には所々つぎはぎされた大きなバックパックが揺れ、足取りは軽快でまるで子供のようにスキップしていた。


 エリックはその光景を見て思わず頭を抱えた。

アンミストは無邪気にこちらに向かって歩いてくる。

 一方グリムはアンミストの姿を見て「あれだけ言ったのに王の威厳が傷つけられた!!」と、怒りを露わにした。







 深夜、エリックとアンミストは、静かに眠るグリムとは少し離れた場所で対峙していた。

 あたりは虫のささやきと遠くから聞こえる川のせせらぎだけが響き、

 二人の会話は、まるで森に飲み込まれてしまうかのように静かに響いていた。


「アンミスト、アンタにいくつか質問と確認をする。

 ……アンタはこの旅をピクニックかなにかと勘違いしてるんじゃないか?

 脅すようで悪いんだが、道中はもとより、"わるい魔法使い"の攻撃魔法を見たんだろ?

 あんな魔法を使う奴と対峙するんだ。

 死ぬかもしれない。

 アンタの今の体であるトロル王の力は絶大だ。強力な戦力になるはずだ。

 正直アンタにはついてきてほしいが、どうにもアンタはその体でいることをそこまで気にしてるようには見えない。

 俺たちと来るのはオススメしない」


 と確認をした。

アンミストによると、自身は特に"わるい魔法使い"の発動した攻撃魔法は確認しておらず、後ろから突然襲われ手足を縛られ、その際後ろを振り返ると"白ヒゲクソジジィ"の顔が見えたとのこと。

 その後に気を失い、意識が戻ったらトロルになっていたという。

 そして、グリムが見たバカでかい炎の魔法の説明を受けてもなおアンミストはアッケラカンとした様子で、


「だいじょうぶですよエリックさん。ボクにはこの……」


 と、古びた斧をバックパックから取り出す。


「斧がありますし、グリムちゃんからもらったこの無敵の体がありますから!そうそうやられませんよ。あのトロルの王様でしょ?」


 にこやかとした表情で力こぶをつくり誇示する。

 その自信満々な表情に、エリックは思わず苦笑いを浮かべた。


 ――その"無敵の体"が昼間俺達になにをされたか、もう頭にないらしい。能天気すぎる……

 そもそもこの男は何を考えているのかわからない。

 斧があってもバックパックに入れていたらとっさに対応できないし、昼間も常に手元に斧を置いておけばまだ対応できたのに完全に無防備だった。



「アンタは昼間、なぜ斧が置かれている方向とは逆に逃げた?斧があれば俺たちとまだ戦えたはずだ?」


「そ、それはあなたが斧の近くに居たから取れなかったんです!!」


 エリックは訝しげにアンミストを見た。


「……まあいい。アンタも気づいてるかもしれないが……アンタらが掛けられた魔法は……俺の想像になるが、おそらく複数人を対象に数珠繋(じゅずつな)ぎに体を入れ替える魔法だ。効果は下手したら永続。その間、アンタの元の体が無事とは限らない」


 エリックはグリムがこれまでやらかそうとした自傷行為を簡単に説明した。


「つまりアンミスト。俺たちが"わるい魔法使い"を倒してしまうとアンミスト、アンタは戻る体が無くて死ぬ可能性もある」


「まあ……きっとだいじょうぶですよエリックさん」


 まるでアンミストはこの状況を楽しんでいるかのように微笑む。

 エリックは耳と目を疑った。


 ――なんだこいつは……さっきからそんな一言で済ませて……軽すぎる。


「それと、アンタはどこで"わるい魔法使い"に会った?魔法を掛けられた日と目覚めた日は同じだったか?眠らされた時間は?」


「なぜそんなことを聞くんです?」


「敵の数を確認するためだ。俺達はアンタと合うまでは"わるい魔法使い"に変身魔法をかけられたものだと思っていた。

 だが数珠繋ぎで精神を入れ替える魔法というなら話は変わってくる。

 たとえばアンタがこのあたりでやられたというなら敵は気を失った複数人を何十キロも離れた特定の場所まで移動させ、精神を入れ替えたたことになる。

 移動にせよ気絶を保つ魔法にせよ精神交換にせよ、これらを一人の人間が行うとしたら膨大な魔力が必要だ。さすに現実的とは思えない。

 もしアンタがこのあたりで倒れてたり、気を失っている時間と日にちにラグがあるなら"わるい魔法使い"を一人倒してはい終了というわけには行かなくなる」


 エリックは地図を出してアンミストに確認する。


「この、トロルの森の近くの道ですね。ちょっとボクは日付とかわからないんですけど……」


 エリックは疑問に思った。


 ――町に住む人間がスケジュール通りに動くのに必要な日付を気にしない、なんて事があるだろうか。


 だがそれは今は置いといて、場所だけでも知ることができたのはありがたかった。

 アンミストの襲われた場所とグリムから聞いた"わるい魔法使い"が喋った内容からして、どうにも王様以外は数合わせでランダムに襲われた感じに思えた。


「……なんとも言えないが、まだ敵が一人である可能性は消えていないようだ。

 それと……アンタ、さっきも言ったがなんでそんなに余裕なんだ……?」


「よゆう、とは?」


「アンタがこれまでどんな人生を送ってきたかは知らないが、少なくとも王様は肉体の変化で精神をズタボロにされていた。

 俺が来なかったらおそらく死んでいたと言えるレベルだ。だがアンタは……」


「ああ、グリムちゃんは顔や体にこだわってましたからね」


「アンタも今の身体を醜いと言ってたじゃないか。それで精神を……」


「なあ、アンミスト……アンタなぜそんなに平気なんだ。昼間はトロルの姿が醜くて嫌だといってただろ?」


「うーん……平気に見えるのは……グリムちゃんとエリックさんが面白いからかな」


 アンミストは寂しそうな笑顔を見せる。


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