マナ
俺はその場に座り、ジャズと話し合っていた。
『――という事でよろしいですね』
「あぁ……その方向で今後は進めて行こうと思う」
『かしこまりました』
ジャズとのおおまかな話し合いが終わり、俺は陽が沈み行く街並みを見下ろす。
それと同時に目を閉じ、神経を研ぎ澄ます。
「スゥゥゥ―――」
俺は異世界で教えられた呼吸法を行う。
この呼吸法は細胞の活性化、及び、大気中にあるマナを体内に入れ、体中に循環させる呼吸法である。
細胞の活性化を行う事で、筋力、骨格、体力、回復力が上がるのだ。
しかし、マナを循環させるとは言っても、大気中にマナがなければ循環も何もないではない……かと思うのだが、地球に帰ってきた事で驚いた事がある。
なんと地球はマナが溢れかえっていたのだ。
「これなら魔力が減っても、マナを吸収すれば魔力には困る事はない!」
俺は師匠達に教えられて、マナを魔力に変換し、自身の魔力へと吸収する方法を教えてもっらた。
その事により、魔力が枯渇する事はなかったが、結構大変だった。
あ、それと、師匠達の話では、俺には魔力の器の底が見えないという事だったので、自分ができうる事をやり、魔力量を増やしていた。
だが、異世界を発つ時に、師匠達から大量の魔力を貰って、貯金ができたと嬉しくは思っていたが、俺がやろうとしている事は膨大な魔力を消費するだろうと考えていた俺は、元の世界に戻ったらどうしようかと悩んでいたところ、地球に戻ったらなんとマナが溢れかえっていたのだ。
何でマナが溢れかえっているのが分かるのかと言うと、師匠達の修行により、俺は一時期超越者となった俺は、レベル100を超えた瞬間、マナが見えるようになったのだ。
「まさか、レベルが5なのにも関わらず、マナが見えるとはな……これもフォーリナーだからなのかもしれないな」
『そうかもしれませんね。 しかし、地球にここまで純度の高いマナが溢れかえっている事には驚きました』
ジャズの言う通りである。
異世界のマナは地球に比べて、何と言ったらいいのか……そう!
不純物が混じった感じなのだ!
それに比べ地球のマナは不純物が見受けられないほど澄み切っていた。
「恐らくあちらの世界では魔法という概念が存在していたからだと思うな」
『こちらの世界では魔法自体が存在しませんし、使いようがありませんからね』
「なら、俺が有効活用してあげようではないか!」
『そうですね。 使える物は有効活用しなければいけませんね』
先程、マナを魔力に変換して吸収する事に対し、結構大変だったと言ったと思うけど、異世界に居た時は、その作業に四苦八苦していた。
あちらの世界のマナには不純物があったため、不純物を取り除く作業が手間だったのだ。
しかし、地球のマナは不純物がないため、簡単にマナを魔力に変換し、スムーズに吸収する事ができた。
そんなこんなで、呼吸法続けていると、俺の体が熱くなり始める。
『央雅様の精神、そしてマナを魔力回路へと無事接続完了いたしました』
「ふぅ……まずはこれでOKだな。 ほいっと!」
ボフッ
俺が片手を上げると、近くにあった木の面が焼け焦げる。
「水よ」
ジュゥゥゥ―――
木が燃え、水を出し消火をする。
「うん。 思っていた以上に魔法の発動が早い……これならすぐに何とかなるかもしれない」
『央雅様……この近辺にダンジョンが存在致します』
「マジか⁈」
こいつは驚いた……
マナだけではなく、ダンジョンまであるのか!
こいつは願ってもいないチャンスだ!
「これならレベルアップも可能だし、近い内に父さんを助けられる」
『央雅様のお父様が生きていても、未来には何ら影響はございません。むしろ早めに治療を終えられた方がスムーズに事が運ぶかと思われます』
ジャズに父さんが生きていた場合に、過去に何らかの影響はあるのか確認してもらっていたのだが、未来には何ら影響がない事が分かった。
「これも【瞬神の末裔】のおかげでもあるな」
俺が得た力である【瞬神の末裔】には、分からない部分が多くあるが、地球に戻っている途中で力についての情報が一部解禁されていた。
【先見の明】:01
この力はなんと、時間軸において、変動を及ぼさないかを見通すというものだ。
ようは、この先、俺の起こす行動により、未来に影響を及ぼすか及ばさないかを見抜く力があるということが分かったのだ。
まぁ、未来を変えてしまった場合、妻である実佳にも会えなくなると同時に、娘の碧桜が産まれなくなってしまう。
そんな事はあってはならい!
この先、俺が成し得なければならない事は沢山ある。
それに伴い、障害も増えてくる。
それは未来を変えてしまう様な事も……
しかし、二人に会えなければこうして帰ってきた意味がなくなってしまう。
だがそういった、あらゆる岐路・観点を冷静に見定め、管理をしていかなければ、今後の動きが制限されてしまう。
果たして俺にそんな複雑な管理が……俺にできるであろうか?
これからは様々な管理が必要になってくる。
いったいどうしたらいいのか――
『その仕事は私が適任化と』
そんなことを考えていたら、ジャズから鶴の一声が飛んできたのだ。
こういった複雑な管理はジャズが得意とする分野だという事を俺は失念していた。
俺には優秀な仲間がいた事に!
そうして、複雑な管理はジャズに任せる事になり、早速ジャズに確認してほしい事を頼む。
それが俺の父である愛千 正明である。
早速ジャズに父さんの事を確認してもらったところ、問題はないと判明した。
俺の父は今から2年後に、癌でこの世を去る。
父さんは教師をしており、とても仕事熱心な人だった。
だが仕事熱心も度を超すと、自身の体の異変に気付かない事もある。
父さんが働く高校では定期的に健康診断は行われていた。
父さんはちゃんと健康診断を受けていたが、とくに問題は見つからなかった。
しかし、それは大きな間違いだった。
いつも健康そのものだった父さんが体調を崩す。
その日は風邪であっても次の日には治っている様な人が、突然立てなくなり、衰弱し始めたのだ。
いつも通っている病院で検査をしてもらったが、ただの風邪だと言われる。
けれども、どうしたっておかしい。
病院を変え、再度検査してもらったところ、胃に癌が見つかる。
それもよく見なければ見落としてしまう程の場所に癌があったのだ。
そして、検査を進めていくと、既に所々へと転移が見つかる。
医者曰く、持って2カ月と宣告される。
だが、父は医者に言われた宣告を1年へと伸ばす。
父の治療方法は抗がん剤投与になった。
抗がん剤治療には幾つもの種類があり、その人に合った抗がん剤があるのだが、一時、癌の数値が下がったとしても、また上がったりする。
そうしてまた薬を変え、自身の体に合う物を探すのだが、それは想像を絶する痛み、苦しみに耐えなければいけないのだ。
俺はそんな苦しそうな父さんの姿を忘れた事はない。
父さんは生きるために抗い続けた。
毎日苦しくとも、優しく笑ってくれていた父さん……
俺は目を閉じ、あの頃の記憶を思い出していた。
「あなたはここで死んでいい人間じゃない」
地球に戻ってきた俺の、最初にやるべき事!
それは父さんを助ける事だ。