イレギュラー
『お……さ…』
う、う~ん誰かが俺を呼んでいる……
あれ?
体が動かない?
『央雅様起きてください』
「え、え、あれ?」
『ようやく起きてくださいましたね』
「あ、あぁ……俺気を失っていたのか?」
『はい。その様です』
「あれ、何でか体が動かないんだけど」
『それはご自身の目で確かめられた方がよいかと……』
あれ?
なんでこんなに視線が低いんだ?
周囲を確認するとここは森の中?
このじめっとした温かさは7月ぐらいか?
陽の高さから見ると時間はおよそ18時過ぎ?
「おい、これはなんだ⁈」
『気が付くと央雅様はこの様な状態でした』
「マジかよ」
俺は首だけを残し、残りは土の中に埋もれていた。
「な、なんで俺は土の中に埋もれてるんだ? いや、待てよ……まさか?」
俺は自分の記憶を思い返してみる。
いや、それはありえない⁈
だって俺は地球が崩壊する1年前に戻るのが精一杯だったはず!
「いや、その前に、この状況をなんとかしないとな」
『それがよろしいかと』
「しかし、これはどうやって……あ、今の俺なら――」
俺は土に埋もれている体に力を入れる。
「うん、いけるな……ふんっ!」
力を籠めて腕を引き出すと、簡単に土から腕が抜け出す。
それからは簡単だ。
状況さえ理解すればあっという間に土から抜け出せた。
「ふぅ……体中汚れまくってるな……おまけに体中痣だらけだ」
『央雅様が意識を戻される前から体中痣だらけでした』
「仕方がないさ……俺の記憶が確かなら……とにかく歩くか」
記憶を確かに歩く俺は、あっという間に森を抜け出す。
抜け出した先は小高い丘から見下ろす街並みが聳え立っていた。
『どうやら戻ってこれたみたいですね』
「あぁ……そうだな……地球に戻ってこれた……」
『どうなされましたか? せっかく地球に戻ってこれたというのに、浮かない顔をされておりますが?』
「ジャズ……俺達は地球が崩壊する1年前に戻るはずだったよな?」
『はい、左様でございます』
「たしかに俺達は地球に戻ってこれた……けど、ここは俺達が予定していた時代じゃない」
『なっ⁈』
俺がそう言うと、ジャズは驚く。
無理もない。
俺がそう言えば驚くのは当たり前だ。
「俺が土に埋もれていた状況……この街並みを見て、確信に変わったよ。ここは俺達が当初計画していた時代ではないってことが……」
『で、ではこの時代は? 我々はいったいどの時代に戻ってきたというのですか?』
「俺達が戻ってきた時代は……意識を戻した時の俺の状況……俺がまだ15歳……高校受験を控えていた頃だ」
『ま、まさか⁈ そ、そんなにも過去へと遡って……しかし、そんな事は――』
「ジャズが驚くのも無理はないよ……まさか17年も前に戻る事ができるなんて考えもしないさ」
地球が崩壊する1年前に戻るはずが、まさか17年前に戻る事になるとは俺もジャズも予想だにしていなかった。
俺はその場に座り、小高い丘から街を見下ろす。
「これは大きなチャンスだ」
予期せぬ大幅な過去への戻りに対し、俺は歓喜した。
「1年しか時間がなかったのが、まさかの17年……これなら何とかなる……いや――」
『央雅様が計画していた以上の事ができますね』
俺は広げられた手を空へ掲げる。
「あぁ……今度こそ……」
掲げられた手の平をギュッと、力強く握る。
「今度こそ救ってみせる」
俺は己に言い聞かせるように誓うのであった。