飛翔への雛鳥
「起きな央雅。 もう朝だよ」
「う、う~ん……あ、あぁ、すいません。 昨日は色々とやっていたら――」
「仕方がないさ。ここでやり残した事があったら、今まで頑張った事が無駄になっちゃうからね」
俺に話しかけてくる赤髪で小麦色をした妖艶な女性。
この女性はドワーフ族であり、『七人の覇片』であるヘイスさんである。
ヘイスさんは俺に鍛冶を教えてくれた師匠の1人である。
おかげで様々な物を作る事ができるようになった。
「支度ができたら朝飯を食べにきな」
「はい」
ヘイスさんはそう言うと、部屋から出て行く。
俺は外を見つめる。
外の世界は変わらず、綺麗で、そして、それとは裏腹に、残酷な世界でもある。
俺がこの世界に来て、5年の月日が経とうとしていた。
「よしっ! いきますか」
俺は身支度を済ませ、下に移動する。
すると、下から賑やかな声が聞こえてくる。
「おはようございます」
「おう! 央雅よ、起きたか」
元気よく俺に朝の挨拶をしてきたのは、第一師匠であるシルヴィさん。
「はい、すいません、遅くなってしまって」
「気にするでない。 今日はお主にとって大事な日でもあるのじゃからな」
「そうですね。でも、疲れを残しとくのは良くありませんよ」
そう言って俺の背中に手を添え、魔法で癒してくれる綺麗な女性は、俺の師匠の1人。
そして、ヒーラーでもあり、『七人の覇片』の1人でもあるエマさんである。
「あ、いや、エマさんの手を煩わせる訳には――」
「いいんです。 こうして央雅さんを診るのも今日で最後かもしれませんし」
「エマさんのおかげで、ちょっとやそっとの怪我は自分で治せるようになりました」
「そうですね……いつも怪我ばかりしていた央雅さんを治療していた日々が懐かしいですね」
「その節は大変お世話になりました」
「いえいえ。 私は央雅さんの治療をしていて楽しかったですよ」
「ははは……そう言っていただけると助かります」
そう言って俺の背中をポンッと叩くと、席へと座るエマさん。
キィィィ――
「む、起きたか?」
「あ、おはようございます。 バージルさん」
扉が開くと、片手に大きな大剣を持ち、鋭い眼光に屈強な体つきの男性が入ってきた。
こちらの男性はバージルさん。
イシスの皇帝陛下でもあり、イーサンさんのお兄さんでもある。
俺に剣を指南してくれる師匠の1人である。
「昨日は遅くまで起きていたみたいだが、それでもちゃんと決められた時間には起きるようにしなければ、体が鈍ってしまうぞ」
「あ、すいません。 気を付けます」
「まぁ、お前なら大丈夫だとは思うが、慣れとは時に身を滅ぼす要因となる」
「はい。肝に銘じます」
「あぁ」
「ほっほっほっ。 お主は相変わらず気難しやっちゃんのぅ」
「賢者らしからぬ言動はお控えてください……ガラハッド様」
こちらの白く長い髭を蓄えている優しそうなおじいちゃんは、大賢者であるガラハッドさん。
的確なアドバイスで俺を導き、様々な事を俺に教え込んでくれた師匠の1人である。
ガラハッドさんはシルヴィさんを除く皆さんの師匠との事です。
見た目では想像がつかないとは思いますが、みなさん口を揃えて、
『強い』
っと言っておりました。
みなさんが言うんだから強いんだろうなとすぐ感じ取りました。
「今日ぐらいは小言の1つや2つ言わんくってもよいじゃろうが。 お主がまだ――」
「分かりましたから、昔の事は言わないでくださいよ~、ガラ爺」
「ほっほっほ。 そう言う事じゃ、よかったのぅ央雅よ」
「あははは……すいません」
「おじいちゃんにかかったら、バージルは子どもも同然ね」
「な~にを言っとる。 儂からしたら、みな、まだまだ可愛い子どもじゃて」
「そうだね。ガ~ラ爺」
「ほっほっほ。 よしよし」
「へへぇ」
そうやってガラハッドさんに頭を撫でられ甘える毛がふさふさモフモフの綺麗な女性は、フェンリル族でもあり、バージルさんの奥さんでもあるガウェインさん。
皆からはウェインと呼ばれている。
ちなみに、ガラハッドさんに頭を撫でられて喜んでいるガウェインさんは武術の達人である。
「ウェイン! ジジイに甘えるのはそこまでにしとけっ!」
「なんでよぉ~?」
「そのモフモフ……いや、お前は俺の妻であり、皇女でもあるのだから」
「はいはい。 素直じゃないわねぇ~」
「うぐっ⁈」
「あ~らよっと!」
ガウェインさんは一瞬でバージルさんの背後へと移動し、バージルさんの耳元に息を吹きかけると、バージルさんはビクッと反応する。
そのせいでバージルさんはバランスを崩すが、ガウェインさんが受け止める。
「あ、ありがとう……」
「ふっ、気にするなベイビー」
ちなみにありがとうと言ったのは、顔を赤くしているバージルさんで、ベイビーと言ったのはガウェインさんである。
「はいはい。 仲がいいのは分かったから、そこをどいてくれるかしら」
「むっ⁈ すまないイオ」
「ごめんね~イオちゃん」
バージルさんとガウェインさんが見つめ合っていると、間から声をかけてきたのはダークエルフであり、シルヴィさん同様に俺に魔法を教えてくれた師匠であるイオさん。
見た目は幼い美少女なのだが、この方の年齢を聞いたら驚――
「オウ坊よ……それ以上は何も考えない方が身のためよ」
「うっ⁈ な、なんのことだか……」
「ならいいわ」
相変わらず感が鋭いイオさん……
「やぁ、みんなすまない。遅くなってしまった」
「あ、いや俺が寝坊してしまったので」
「あはは。 ならお互い様って事で……ね」
そう言って、俺にウィンクする爽やかイケメンが、この『七人の覇片』のリーダーであり、勇者でもあるイーサンさん。
俺に覚悟とは何かを教えてくれた師匠だ。
「さて、みんな集まったとこで、朝食を食べよう。 それと――」
みんな席に着き、一斉に俺に視線が集まる。
「今日が、央雅君と食べる最後の食事となる」
そう……俺は今日でみんなと食べていた食事が最後となる。
俺はこの5年間で、ようやく、自分の世界に戻る手段を得た。
そして、今日、俺は元の世界……地球に戻るのだ。