速さとは時に
翌日俺はばあちゃんと昨日と同じやり取りをし、今はダンジョンに来ている。
ゴゴゴォォォ――
「おぉ……自動的に開くシステムか! 俺だけが知るダンジョン……いや、それよりも遠離さんに挨拶をしないとな」
俺は遠離さんが居るであろうフロアへと移動する。
フロアに着くと、遠離さんは縁優さんの下で座っていた。
「おはようございます」
「おはようございます、 央雅様」
遠離さんは俺の方を向くと、軽く会釈をし、笑みを見せてくれる。
あれ?
昨日よりも顔色が良くなっている様に見える。
「遠離さん、昨日より顔色がだいぶいいですね」
「ふふふ。 長らく悩まされていた問題を央雅様が現れた事により解決できそうで、昨夜は縁優様が夢に出てくる程、良い睡眠が取れました。 央雅様、大変感謝しております」
「いやいや、俺は何も」
「そんな事ありません! 縁優様と会話ができなくなってから、もうかれこれ1000年以上睡眠という物をとれていませんでしたので」
「ははは、そうなんですかぁ……は?」
遠離さんの発した言葉が若干聞き取れなかった。
「私ったら、縁優様の部屋にいたんですけどね! 縁優様の顔を見ていたらいつの間にか眠っていたんです。 起きた時は、私ったらはしたないなぁ~とは思いましたが、夢の中で、縁優様が長い間ありがとうと言ってくれたんです。そしたら、そんな事どうでもよくなっちゃって――」
すげぇ喋るな……遠離さんってこんな喋るんだ……いや、そんな事を聞いてるんじゃなくて!
「――それで、縁優様ったら、私の頭を撫でてくださいまして、私の心は爆発寸前まで――」
「え、遠離さん、興奮しているところすいませんが、あの、遠離さんはどの位睡眠を取れてなかったんですか?」
「はい? 1000年と言いました。 そんな事よりも、昨夜は意識がスゥ―っと途切れる様に眠りに付けましたぁ」
そんな事で片付ける遠離さん……1000年という間睡眠が取れていなかった遠離さん‥‥不眠症を克服した事よりも、縁優さんが夢に出てきた事の方が嬉しいみたいだ……いや、まぁ、悩みの大きさは人によりけりだけどね。
しかし、不眠症に悩まされる人はいるとは思いますが、遠離さんの不眠症はスケールの桁が違いすぎますって……
本人全然気にしてないし、これ以上話はしない方がいいか……
「あ、あの俺は早速浄化に回ろうかと思いますがよろしいですか?」
「早急に動いていただきありがとうございます。 私でよければ、何かお申し付けください」
「わかりました。 けど、今は何も無いので大丈夫です」
「承知いたしました。 私はここにいますので、何かあればこちらにお越しください」
遠離さんと別れ、俺は3階に移動する。
「さて……今度は何が出てくるやら……お? 早速お出まし――」
「ギヤ――!!」
「おっと!」
視界に入った瞬間黄色い鬼は俺の目の前に迫ってきていた。
右手には短刀を持ち、俺に切りかかってきた。
俺は短刀を避け、距離を取る。
「いきなり視界に捉えたと思ったら、一瞬で目の前に現れたぞ」
『この鬼は早鬼という鬼です。 とても早く、相手を掻き乱し、攻撃を主とするモンスターです』
「なるほど……まぁ、対応はできる」
その後から早鬼が続々と出てくる。
奴らは、涎を垂らしながら、厭らしい笑みを浮かべ始める。
「その笑みは俺を食べられると思っているのか? それはチィっとばかし笑えない冗談だ」
「ギギィ~」
言葉は分からなくとも、今何を言ったのかは想像が付く。
「ギギィ――!!」
一匹が叫び出すと、それを皮切りに一斉に襲いかかってくる早鬼共。
俺は【身体強化】・【鳴】・【制】を同時に発動する。
【身体強化】で身体能力を上げ、更に【鳴】で雷の如く速さをイメージし、【制】で距離を制御する。
「【区切られた時空移動】」
ドゴッ
「ギイッ⁈」
俺は一瞬で早鬼共の背後へと移る。
速さに自身があったのだろうが、それはあくまでも身体的な速さ。
俺にはお前らとは違う速さを用いている。
「それに、お前らが必死になって動いても、ウェインさんには遠く及ばない」
「ギギィ……」
馬鹿にされたことに気付いたみたいだが、それはお前らも同じだろう。
俺を見た瞬間の顔は、俺以上に酷いもんだったぞ。
「ギギィ――!!」
「さいなら」
「ギイッ⁈」
一匹を仕留めると、周りにいた早鬼共は、あまりの事に困惑しだす。
まるで自分達以上に速い者が現れた事に対し、驚きを隠せずにいる。
まぁ、お前達はショックは手を取るように分かる。
けど――
「立ち直るのを待つほど俺の時間は安かねぇんだわ」
「ギイッ⁈」
俺は次々と早鬼共を消していく。
早鬼共は周りにいる仲間の頭が消し飛んでいく姿を見て、怯えだす。
中には逃げだし始める者も現れる。
だが、俺が逃がすとは思わない事だ。
「お前らは俺の経験値になるんだ……一匹残らず食らい尽くしてやる」
+++++
ドサッ
「はい、3階も終わりっと!」
俺の目の前に小さな早鬼共よりも2.5倍頭がデカい鬼の首が転がっている。
こいつはこの階のボスである。
俺はゲートを壊し、その場に座る。
「さっきのボス、思っていたよりも速くはなかったな」
『そうでしょうね。 央雅様はウェイン様に鍛えられておりますゆえ、あの方の速さが目に焼き付いておりますので、そんじょそこらの速さでは物足りないのかもしれませんね』
「あの人の速さ、そして反応速度は異質だからね……俺が時空に逃げてもあの人は追いついて来るし……まさに野生の感がもうビンビンに張り巡らされてるからなのか、逃げ場なんてなかったよ……『ここだね~』とか『はい、そこ~!』って、笑顔で殺りに来てるから尚更怖かったな……」
『そのおかげで、こうして順調に成果が出ているのでしょう』
「そ、そうだな」
俺のレベルはこの階で5上がった。
愛千 央雅(男)
レベル:27
Job:瞬神の末裔/Lv.1
HP:3032/3032
MP:180/185
力:105
魔力:81
体力:108
精神:69
運:59
すばやさ:88
SP残高:115ポイント
スキル
JAZ【賢】:03 ・ 身体強化:05 ・ 炎:03 ・ 鳴:03 ・陸:03 ・ 海:03 ・ 空:03 ・ 癒:03 ・ 制:03 ・ 循:03 ・ 創:03
称号
〇万能:02
〇旅人:01
〇時空移動者:01
この階を制圧するのにかかった時間は約1時間。
前回よりも早く制圧が完了し、更にはレベルが5も上がった。
「階が上がるにつれ、得られる経験値も高くなっている……けど、それに伴うリスクが俺には感じられない」
そう、階が上がるにつれ、難易度も高くなっていき、ピンチも多くなっていくのが普通だと思うのだが、今のところピンチというピンチを感じられない。
『おそらく、央雅様の持つ力がこちらの世界では異質なのでしょう』
「異質かぁ……それは俺にとっては良い事だよな?」
『そうですね。 そう捉えるのが自然かと』
「まぁ、異世界から帰ってきた俺は、あっちの世界で、すごい人達にしごかれ、こうして難なく戦えてるんだ……感謝と同時に、浮かれるのは良くない」
『はい。 何事も順調に進んでいる時こそ、常に最悪の事を想定して動かなくてはなりません』
「俺が天狗になっている時、そういった時はジャズ……お前が俺に忠告するんだぞ」
『承知しております』
「よろしく! さて、休憩も終わりにして、4階に進もう!」
俺は次の階へと進む。
浮かれる時間など俺には無い。




