歪みの形
「外鬼は人間だけではなく、妖怪までも狙い出しました」
ある意味想像はしていたが、当たってほしくはなかった。
しかし、それはつまり――
「そうして、外鬼は妖怪がもっとも集まっているここを狙い始めました」
「悪鬼と言い、外鬼といい、それよりも鬼の欲っていうのは終わりがない……まるで人間が悪鬼となって鬼を助けているみたいだ」
「はい……鬼は人間の欲を糧に成長していきました……鬼が人間を襲う理由がよくわかります。 まるで表裏一体……こうして大量の外鬼が続々と縁優様の城へと攻めに来たのです……ですが――」
「ですが?」
「ですが、妖怪を食い、力を付けた外鬼達がこぞって集まっても、縁優様には敵いませんでした。 それも完膚なきまでに」
「す、すごい……」
てっきりピンチなのかと思っていたら、一蹴しちまうとか、縁優様は怪物かと考えてしまった。
もしかしたら師匠達と同等の力を持っているかもしれない。
そう思ったら鳥肌が立った。
「縁優様は妖怪を取り込んだ外鬼さえも倒す程、余裕がございました。 しかし、そんな姿を見た周囲の陰陽師達は、悪鬼達、いえ、それ以上に縁優様を恐れだしたのです。 縁優様はただ、ただ皆と仲良く過ごすため必死になって頑張っていたというのに……」
自分よりも強い者、優秀な者を良く思わないのも人間の欲の1つでもある。
そういった人の思いというのは気付かないのか、はたまた、気付いてはいるが、現実を直視したくないのだろうと思えた。
こんな酷い時代に、助け合えない事に、俺の心は酷く落ち込んだ。
「縁優様は助けてくれと言われればすぐ駆け付け続けました。 人々は縁優様を慕い、悪鬼に怯えない生活が続いていくと、徐々に陰陽師、陰陽連は縁優様への態度を変えてきました」
おぉ!
これは心を入れ替えるパターン――
「とうとう縁優様が邪魔だと思い、陰陽連を辞めさせ出すのです」
違うのかよ!
ここはそうじゃないだろう!
縁優さんの頑張りを見て、そこは俺もとか、私も頑張ろうとか、あぁなりたいとか思うのが普通なんじゃないのか?
この世界は腐りきっている……あ、こっちの世界も変わらない様なもんか……
俺は縁優さんの方を見る。
何故だか胸に痛みが生じた。
「縁優様は陰陽連に属してなくとも、悪鬼退治を止めませんでした……身を粉にして無償で人、妖怪のために働き続けました。 しかし、陰陽連の連中は、縁優様の行動が目障りになってきました。 そうして、とうとうその時がやってきました……縁優様がいない隙を見計らい、陰陽連、そして……」
遠離さんの顔が曇る……そして、空気も一瞬で重くなる。
「そして、外鬼たちを従え、縁優様の城へと攻めて来たのです」
陰陽連は人々を守る事が仕事なのに、人々を苦しめる悪鬼たちと手を組むとかもう終わっている。
これも縁優さんが持つ力に対し、恨み、妬み、嫉み、そう言った感情が積りに積り、とうとう超えてはいけない一線へと突き動かしたのかもしれない。
そして、縁優さんが居ないのを見計らい、一番縁優さんが大事にしている人達を狙い、縁優さんの動揺を誘おうって魂胆だろうな。
そうでもしなきゃ縁優さんに勝つ事なんてできやしないだろう。
「しかし、縁優様はこの状況を想定していました。 敵意剝き出しでこの城に来る者がいれば、強力な結界を張る様にしていたのです」
「さすがですね」
「はい。 縁優様はそう言った状況が来るかもしれないと考えていました……いえ、縁優様は悪鬼達が攻め入ってくる事だけを願っていました。 しかし、ここ最近、陰陽連の動きが怪しく、もしもの事を考え、結界のプログラムを組み換えたのです」
「ほっとしました……このまま簡単に攻め入れられて終わってしまうのかと――」
「はい、簡単に攻め入れられてしまいました」
「はい? い、今何て?」
「簡単に攻め入れられてしまいましたとお伝えしました」
遠離さんは表情を変えず、淡々と攻め入れられるたと言う。
俺は何を言っているのか、正直理解するまでに数秒時間がかかった。
だって、ちゃんと縁優さんの結界は発動した。
縁優さんを超える者はいないって遠離さんは言っていた。
なら何故……まさか⁈
俺の心臓音が高鳴り、耳鳴りが聞こえだす。
「お気づきの通り、縁優様の結界を破壊した者が現れたのです」
「破壊って⁈ い、いたんですか⁈ 縁優さんの結界を壊す程の手練れが⁈ だ、だって、さっきは――」
「はい……いないとお伝えしました。 しかし、もし、何の情報もなく、前触れもなく、突如最強だと思われていた縁優様と同等の、いえ、怪物が現れたとしたら?」
とんでもねぇ……心がずっと休まんねぇ……
しかし、どうしたら縁優さんを超える陰陽師……いや、人とは言っていない……遠離さんは怪物と言っていた。
外鬼が相手にならないのに怪物とは大それた事は言わないはず……以前からいたとしたら、縁優さんだって警戒をするはず……だとしたら、急遽作られた可能性が高い……だが、そんなすぐに縁優さんと同等の力を手に入れられるだろうか?
「もし、鬼血の副作用に耐えた外鬼を喰らったとしたら? ましてや、妖怪を食い、さらに力を付け、進化した外鬼を喰らう者が現れたら?」
俺は遠離さんの言葉を聞き、そんな事……でも、妖怪を食い、さらに力を付けた外鬼だとしても、縁優さんには敵わないと言っていた……完膚なきまでに……なら誰が食らう……待てよ? 陰陽連は外鬼達と手を組んで……いがみ合っていた者同士が手を組む……お互いの関係が変わる程の事が起きた? ……って……まさか――
「人は一度一線を越えてしまえば、簡単に罪悪感は薄く、そして消え失せていってしまいます……ましてや、成果がでれば、なお欲は加速していくものです」
「そ、そん、な……それでも、だって、人を守――」
「秘密裏に計画していたんでしょう……縁優様に気付かれてしまう前に、辞めさせ、そして孤立させ、情報を遮断し、この時を待っていたのでしょう……陰陽連の連中は」
俺はすぐに悟る……陰陽師が外鬼を喰らったんだと……
新たな鬼が産まれたんだと……




