悪鬼
「こ、これはいったい……」
「こちらが私達の主である、愛守 縁優様でございます」
この異様な光景を前に、遠離さんは表情を変えず、俺にこの人が主だと紹介してくる。
しかし、この状態の人を主と言われても、どう言えば……
正直困惑してい――
『央雅様、こちらのお方は既に生きてはおりません』
「何っ⁈」
さらにジャズからとんでもない情報が入る。
主さんは既に息絶えている……ならなぜこの状態のままなんだ?
安らかに眠らせてあげないのか?
しかし、この様な姿になっても遠離さんは主さんの事を思っているのは感じるが、わざと死体をこのままにする様な人には見えない。
『管から大量のマナと魔力がこちらの方の体を媒体とし、循環、結合し、強力な結界を張り巡らされております。 しかも死してなお稼働できるよう緻密に計算されているのが伺えます』
「循環……媒体……永久的に稼働……まさか生贄?」
「左様でございます」
俺が疑い溢した言葉を拾うように、遠離さんは答えてしまう。
「先程もお伝えした通り、縁優様の考えを快く思わない輩が、超えてはならない一線を越えてしまったとお伝えしたかと」
「はい、聞きました。その超えてはならない一線とは……」
「それは悪鬼の力を、自身の体へと取り込み始めたのです」
「そんな事が……可能なんですか?」
「はい……倒した大量の悪鬼を集め、その死体から出る鬼血と妖力……それと……」
遠離さんの表情が曇る。
「それと生き人を生贄にする事で、一般の人でも陰陽師と同等の力を手に入れる方法を編み出しました。 平凡な人間が鬼血を取り込めば、常人以上の力を。 強欲な者が鬼血を取り入れればより傲慢になり――」
「さらに強力になってしまう」
「ご名答です。 しかし、鬼血を手に入れる事で、強力な力を得る代わりに恐ろしい副作用がありました」
「副作用ですか?」
「はい……鬼血を取り入れた者は悪鬼に心を蝕まれ、自我を失っていきます。 そして自我を失わないために、より力を手に入れるため、鬼血を取り入れた者は人の血肉を欲するようになるのです」
「とんでもない副作用ですね」
「鬼血で力を得た者は、一度得た力に酔いしれ、自分の過ちを正当化します。 自分さえよければいいんだと。自分は特別なんだ。だから、自分以外の人間は自分の糧になるべきだと考えだし始めました……人間の欲は死してなおも悪鬼たちの餌でもあったのです。 徐々に鬼血は人間の心を蝕んで行き、そして、新たな悪鬼を生みだしたのです。ですが、人間の血肉を食べても成長が止まり、そして自我を失った者は程なく陰陽連の者達に駆逐されていきます」
歴史の教科書にも書かれていない歴史があった事に驚いた。
そもそも、何故こんな大っぴらな事があったのに、記録に残されていないんだ?
何か大きな闇を感じるぞ……
いやいや、今はそんな事より、悪鬼だけでも大変な状況なのに、人間が新たな悪鬼になって人間を襲うとか本末転倒だ。
俺は余計な考えを振り切り、遠離さんの話に耳を傾ける。
「しかし、稀に人間を食い続けても成長は止まらず、力を付け続ける者もいます。悪鬼であり、人間だった者……人の理を外れた者……私たちは奴らを外鬼と名付けました。 外鬼達は人間を食い漁り、力を付けると共に、ある事に気付きます」
嫌だなぁ……これ以上聞きたくないけど、聞かないとダメな空気が充満している。
聞かなくちゃなぁ……
「外鬼は偶然居合わせた妖怪に手を出します。 そして、人間の代わりに妖怪を食べたのです」
「人間に飽き足らず、妖怪までですか⁈」
「はい……そして、妖怪を食べた外鬼にある異変が起きます」
「さすがにお腹を壊した……であってほしいなぁ」
「いいえ、違います」
真顔で俺の答えを否定する遠離さん……言わなきゃよかった。
ここまで来たらきっと――
「外鬼は人間を食するよりも、妖怪を食する事で、更に大きく力を付けだしたのです」
「ハァぁぁ……間違っててほしかった」
俺はその場で肩をガクッと落とした。
一難去ってまた一難・・・・・・
きっとまだ問題が出てきそうだ。




