遠離
「え、お待ち?」
「はい。 愛千様をお待ちしておりました」
次のステージへと進むと、目の前には美しい三つ目の女性が立っていた。
『こちらの女性から敵意は感じません』
脳内でジャズから敵意が無い事を伝えられる。
しかし、どことなく懐かしさをこちらの女性から感じるんだが……気のせいか?
「私は三つ目の妖怪で、名を遠離と申します」
「あ、ご丁寧に。 自分は愛千 央雅と……あの、俺の名前を何で知っているんですか?」
そうだ……俺がここに来てすぐに、遠離さんは俺の名前を言っていた。
「申し訳ございません。 失礼ながら、愛千様がここにお入りになった時から見ておりました」
遠離さんがそう言うと、額にある眼が怪しく光る。
この眼で見ていましたとアピールしているのが伺えた。
ここでまどろっこしい駆け引きは必要ないよな。
「あ、あの、それで俺を何で待っていたんでしょうか?」
攻撃をしてくるなら既に仕掛けてくるはず……きっと何か困っている事があるから、俺に攻撃をしてこないだろうと考えた俺は、何で待っていたのかを聞き出すため、単刀直入に聞くことにした。
「察しが早く助かります」
遠離さんは笑みを浮かべる。
「私達がいるここは、生前は風情ある城でありました」
城の名残があると思っていたが、やはりその通りだった。
「この城の主は、絶大な力を持つ陰陽師で、私達は主に忠誠を誓い、傍に居る許しをいただき、主の下で働いておりました」
「陰陽師?」
「はい……我が主は陰陽師として、悪鬼たちを倒し、そして人々を助け、名を馳せていきました」
「陰陽師って名前は聞いた事があったけど、本当に実在していたんだ」
テレビや映画などで聞いた事があったが、本当に実在していたんだ。
「主の他にも様々な陰陽師はいました。 しかし、主は他の陰陽師とは比べ物にならない程強く、そして、人にも、妖怪にも優しい陰陽師でした」
話をしている遠離さんの表情が優しさと悲しさが見え隠れしているのが気になった。
「話をしながら移動いたしますので、付いてきてもらえますか?」
「あ、はい」
俺は遠離さんの後を追うように付いて行く。
「主は人々から忌み嫌われている私達妖怪を快く、この城に迎え入れてくれました。 そして主たちに仕えていた人たちも、差別する事無く私達を迎え入れ、私達妖怪に生きる喜びを与えてくれたのです」
「主さんもそうですが、みなさん器の大きな方々だったんですね」
「はい。 主は人を見る目、妖怪を見る目が長けておりました。 そのおかげで、皆仲睦まじく暮らしておりました。 しかし――」
おっと、なんだかキナ臭くなってきたぞ?
「しかし、人と妖怪が共に共存していく事を快く思わない者が現れたのです」
でた、お決まりのパターン!
何も悪い事をしていないのに、何故か気に食わないって理由で邪魔をする奴ら!
どの世にもいるんだな……
「奴らは様々な嫌がらせ行為を行い、主、そして、ここに住まう者達を汚い方法で傷つけてきました。 それは人も……妖怪もです」
遠離さんの後ろ姿しか見えないが、きっと苦悶の表情を浮かべているに違いない。
「主は、いつかきっと奴らが分かってくれると信じ、私達に諭しながら今は耐えようと……主は希望を捨てず、主の諦めないその眼差しを見た私達もこの理不尽な状況を耐えようと決心し……そして皆一致団結し、主を支え、生きて行こうと決めた矢先に、奴らは……」
その語尾だけを聞いただけで、遠離さんの怒りが伝わってくる。
「奴ら……あいつらはとうとう超えてはならない一線を越えてしまったのです」
奴らからあいつらへと変換された言葉を聞くだけで、遠離さんから怒りが感じ取れる。
すると、大きな扉の前で遠離さんは止まる。
遠離さんが手をかざすと、重い音を立てながら扉が開いていく。
「こちらへ……」
「あ、はい、失礼しま、なっ⁈」
開かれた扉の先には、とんでもない数の管を体中に刺し、そして、夥しい程の呪符がそれの周囲に張り巡らされ、その一点に目を奪われる。
そこには皮と骨だけの人が鎮座していた。




