表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Fly Daddy Again  作者: 正導日明
1/22

20XX年――

彗星が地球の近くを通過するというニュースが世界を大いに賑わかせた。

彗星が地球の近くを通り過ぎる際、幻想的な光景が見れると報道され、世界中のみんなは彗星が近くに来るのを楽しみにしていた。

それと共に皆既月食も起こるのだ。

この二つが重なる事は今後起こらないだろうと言われている。


だが、話題性では彗星の一部が地球の近くを通り過ぎるというニュースが多く報道される。

彗星の一部は大気圏に突入をすると燃えて消えてしまうと言われており、空を見ると、彗星の一部が地球に向かって来ていた。

世界中はその光景を見て綺麗だと思ったにちがいないだろう。

彗星の一部は赤く燃え上がり、上空で消えるは・・・ずだった。

しかし、彗星の一部は消える事なく日本のある山に落ちたのだ。


何かがおかしい……?


ニュースで言っていた事と何かが違う?

専門家の話では、予想よりも大きかったのではないかと言われていた。

今回、彗星の一部が落ちた場所は人がいない、山奥だったため、人的被害は無かったものの、ニュースで報道されていた事とは違い、上空で燃え消えると言われていたのにも関わらず日本に落下したのは事実である。


『何かがおかしい?』


今回の件で何かがおかしいと思った者も徐々に現れ始める。

だが、時既に遅しとは言ったもので、我々人類は上手く掌で踊らされていたのだ。


彗星の一部が落下して数日が経つと、行方不明者が世界中で現れはじめたのだ。

その行方不明者とはただ行方不明者ではない。

各国の大統領、皇族、世界的に有名な億万長者、俳優、博士、医者、世界でありとあらゆる分野のプロフェッショナル達が一斉に行方不明になったのだ。


さらに、そのニュースが流れると同時に、彗星の軌道が変わり、地球に迫って来ているとも報道される。

すると、世界は彗星が地球の近くを通り過ぎ、幻想的な光景を見られると歓喜して喜んでいたのが、一気に恐怖へと変わる。

そして、この状況で行方不明になった大物達……

そう……それが意味する事……あいつらは行方不明になったのではなかった。


世界にある情報が拡散されたのだ。

様々な国で行方不明になった者達がシェルターに入っていくのを見たと。

そして、政府の機密事項を入手し、政府たちがひた隠していた情報も拡散された。

内容はこうだ。


奴らは約7年前から彗星が地球に近づき通り過ぎるのではなく、地球に衝突する事を知っていたのだ。

それを知り、行方を晦ませたのだ。


そして、彗星が地球に衝突する日、上空を見上げれば炎を纏った彗星。

それと同時に、宇宙へと旅立つ戦艦。

政府は彗星が落ちて来る事を事前に知っており、それと同時に情報をひた隠し、自分達が避難をするため、極秘裏に宇宙船を開発していたのだ。

そして選ばれた者のみが宇宙戦艦に乗り込み、地球を脱出するためにありとあらゆる方法を使い、彗星の情報、宇宙戦艦の情報を隠したのだ。


選ばれた者達は宇宙へと飛び立ち、残された国民はその光景を眺める事しかできなかった。


こうして地球は彗星が衝突することで、跡形もなく消滅したのであった……













彗星が衝突する5分前――



「父ちゃん……」

「……」


抱き抱えている娘から震えが伝わってくる。

俺にはどうする事もできない無力感で打ちのめされていた。

空を見上げれば、炎を纏った巨大な彗星。

皆既月食のせいで太陽の光を奪われ、そのせいもあり、炎を纏った炎が恐怖を駆り立てる。


そして、宇宙へと旅立つ宇宙戦艦。

俺はただただ、ここで娘と一緒に死ぬしかないのか?


「父ちゃん?」


俺の頬を振るえた手で触る娘。

こんな状況なのにも関わらず、俺の心配をしてくれる優しい娘。


「ありがとな。心配かけちまったなぁ……もう大丈夫だ。しっかし、いつの間にかこんなに大きくなって……」

「えへへ。毎日母ちゃんのご飯をいっぱい食べてるからだよ」

「そうか」

「……母ちゃんもあの船に乗っているのかなぁ?」

「あ、あぁ……そうだと思うよ」

「母ちゃん泣いてたね……」

「そりゃそうさ……碧桜の事が好きで好きで仕方が無いからさ」

「えへへ……そうだとすっごく嬉しいなぁ」

「そうに決まってるだろ~このこの~」

「きゃはは! 父ちゃんくすぐったいよ~!」


俺はくすぐり終えると、娘はまた空を眺め出す。


「あの人達は誰なの?」

「あの人達は……政府の人達かな」

「その政府の人達はなんで母ちゃんを連れて行ったんだろうね?」

「う~ん……父ちゃんにも分からないんだよ。ごめんな」

「父ちゃんが謝る事はないよ。 全部その人達が母ちゃんを連れて行ったのが悪いんだから!」

「そうだな……そうだよな! 全部あいつらが悪いんだ」


俺はそう言うと、宇宙へと旅立つ宇宙戦艦を睨む。


ゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ


「と、父ちゃん⁈」


碧桜の握る手が一層強くなる。

それと同時に、俺はこのどうしようもない状況で、娘に笑顔でいてもらうためにどうしたらいいのか考える。

もう何をやっても間に合わない。

対策を練る時間さえも、あいつらに奪われてしまった。


自分達が助かるためにここまで厳重に情報を規制したあいつらのせいだ。

権力、金、名声、知性、それさえある者達だけが助かればいいってのか⁈

そんなの理不尽だろ!

いや、理不尽なんて生まれた時からずっと大半の人達は背負って生まれてくる。

理不尽を強要してくる奴らの大半はあの宇宙戦艦に乗っている奴らだ。

けれど、なんで俺の妻は政府の奴らに連れ去られたんだ?

妻は普通の専業主婦だ。

俺と碧桜には特別な存在だが、なぜ政府の奴らが妻を連れて行ったのかが分からない!


妻は政府の奴らが来た時、頑なに付いて行くことを拒否していた。

だが、奴らはその状況に嫌気を差し、俺と碧桜を殺すと銃を向け脅してきたのだ。

妻はその状況に耐えられず、あいつらに付いていく事を選択した。


妻は泣きながら、俺にこう言った。


「あなたに託します」


俺はその言葉を聞き、何を託すのかと疑問に思った。

結局、その言葉の意味は分からず仕舞いだ……


そんなことよりも、俺は娘の碧桜を強く抱き抱える。


「大丈夫だ……大丈夫。そ、そうだ! 父ちゃんの変顔を見るか?」


俺は思いつく限りの変顔をする。


「あはは! 父ちゃんの顔おっかし~ね!」

「ははは、そうだろう! まだまだこんなもんじゃないからな~。ほれっ!」

「きゃはは! 父ちゃんの変顔見てたら涙出てきちゃったじゃん」


碧桜は笑いながら、涙を流していた。

俺はその姿を見て、涙が零れそうになるのを必死に堪える。


あぁ……彗星がもうすぐ落ちて来る。

風が吹き荒れ、様々な物が飛んで行く。


お願いです。

娘はまだ6歳なんです。

真新しいランドセルも大事にし過ぎて、まだ背負ってもいないんです。

これからもっともっと楽しい思い出を作っていく最中なんです。

お願いです。

娘の時間を奪わないでください。

お願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いします。


「父ちゃん大丈夫だからね」

「えっ?」


怖いはずなのに、俺の事を心配してくれる娘に、俺は涙が滝のように流れる。


「ふ、ふぅっ、父ちゃんは大丈夫だ。碧桜は優しくて強いな」

「ふ、ふ、ふ、碧桜は強いんだよ~」


碧桜はそう言うと俺の頭に手をやり、ギュッと抱き付く。


「父ちゃんだ~い好き! へへへ」

「ははは、父ちゃんは碧桜の百倍は大好きだ」

「むぅ~、碧桜はそれよりももっと、も~っと大好きなんだからね! それと母ちゃんも」


俺は碧桜の頭を優しく撫でる。


彗星がもうそこまで来ている。

碧桜の頭を撫でる手を止めない、いや、最後のその時まで止めてはいけない。

こんな恐ろしい光景を見せてはいけない。

見せちゃいけない!

こんな無力な父ちゃんを許してくれ。


「父ちゃん、父ちゃん⁈」


俺を握る手が強くなる。

震えも強くなる。

地面の揺れが激しさを増していく。


「大丈夫だ! 父ちゃんが一緒にいる! 最後まで一緒にいるから!!」

「父ちゃーん!!」

「大丈夫……大丈夫だから」


こんな情けない父ちゃんでごめんな、ごめんな、本当にごめんな――




ピカアアア――


彗星が地球に衝突した瞬間、眩い光が世界を覆い尽くすと同時に、音速の速さで津波の様な炎が俺と碧桜を一瞬で包み込んだ。

そして、俺は最後の最後まで目を閉じず、その光景を目に焼き付けた――




















う、うぅ……


ここは……どこ……だ?


瞼が重い……開けるのが辛い……


俺は……たしか……炎に飲まれ……


「碧桜っ⁈」


俺は目を開け、娘の名前を叫ぶ。

だが周囲を見渡しても碧桜はいない……手には娘の碧桜を抱きしめる感触だけが残っている。


「ここはどこなんだ?」


もう一度見回してみると、俺はベッドの上にいた。


俺はベッドから出て外に出ると、そこは一面森、森、森である。


「な、なんで? 俺は碧桜と一緒に自宅の外に居たはずなのに⁈」


こんな場所に来た覚えもない……ま、まさか、これはまだ夢の中か?

俺は自分の頬を抓る。


「い、痛い……って事は生きているのか……俺は?」


生きている……俺は生きている⁈

そう思った瞬間、俺が生きているのなら、碧桜もいるはず!


「碧桜っ⁈ 碧桜おおおおー! いたら、いたら返事をしてくれえええー!!!」


俺は喉が枯れる程、碧桜の名前を叫び続けた。

だが碧桜が出てくる事はなかった……



「な、なんで俺だけなんだよ……なんで俺はここにいるんだよ……約束したんだ……最後まで一緒にいるって」


俺は立ち上がり、目の前にある木に思いっきり頭突きをする。


碧桜を一人にはさせない。

きっと天国で俺を探しているはずだ。

一人寂しい思いをさせてたまるか!


俺は立て続けに木に頭突きを繰り返す。

額には血がドバドバと出ており、視界も朦朧としてきた。


「も、もう少しだ……すぐ、そ、そっちに逝く――」

「な~にをやっとるんじゃ、お主は?」

「えっ?」


後ろを振り返ると、銀髪の綺麗な女性がいつの間にか後ろに立っていた。


「あ、あなたは?」

「ワシは……その前にお主何をしておるのじゃ?」

「お、俺、ですか? 俺は死のうと……」

「なぜそこまで死に急ぐ?」

「む、娘が、一人で、待っているんです……だから早く、い、行かないと、いけない、んです」

「訳アリなのはわかった……だが、ワシの前で死ぬ事は許さん」


パチンッ


「え、急に眠気が……」


女性が指を鳴らすと急に眠気が俺を襲う。

あぁ、そうか……俺は今度こそ死ぬんだ。

待ってろ碧桜……父ちゃんがすぐに迎えに行……く……












う、う~ん……ここは?

瞼が重い……

俺はちゃんと――


「死ねたのか?」

「死んではおらんぞ」

「うおっ⁈ な、なんなんですかあなたは⁈」

「ワシか? その前に自分から名乗るのが筋ってもんじゃろい」

「あ、すいません」


俺はベッドから立ち上がる。


「自分は愛千 央雅といいます」

「ふむ、央雅か……ワシはシルヴィアじゃ。シルヴィと気軽に呼ぶといい」

「あ、よろしくお願いしますシルヴィさん」

「よろしくな央雅よ」








「いやいや、何穏やかに自己紹介なんてしてるんだよ⁈ 俺はこんな事してる暇はないんですって!」

「いったい何をそんなに慌てておるのだ?」

「俺は早く死なないといけないんです! 娘が、碧桜が待っているんです!!」

「はぁ……起きてすぐに死に急ぐこともなかろうに。もしよければワシに話してみんか?」

「こ、こんな話をしたところで、シルヴィさんは気分が悪くなりますよ。いや、ちょっと待って……そもそもなんで俺が生きていて、この手で抱いていたはずの碧桜がいないんだ? あ、あの、俺と一緒に小さな女の子はいませんでしたか?」

「お主を見つけた時はお主一人しかおらんかったよ」

「そ、そうですか……ならここはどこなんだ? あれは夢なんかじゃなかった……あれは現実に起こった事だ……あ、あの、ここは日本のどこなんですか?」

「うん? 日本? そんなとこ聞いた事はないぞ」

「え、日本を知らない? ならここは海外なのか? いやいや、彗星が落ちてきたんだ! 地球が消滅するほどの」

「地球? お主やはりフォーリナーか?」

「なんですかフォーリナーって?」

「フォーリナーとは翔ける者と言うのだ」

「翔ける者?」

「そう、ここはお主がいた世界ではない! お主は異世界人ということじゃ」

「……異世界人? ここではない世界? いやいや、俺は騙されませんよ。ここがどこなのか教えてくれないのなら俺はここにはいられませんよ。助けていただいて感謝はしております。ですが、俺には時間がないんです」


俺はそう言い立ち上がり、外へと出ていく。


「お世話になりました」

「おいおい、待たんか! 今出て行ったら――」

「止めないでください! 俺は早く娘の所に行かないといけ――」

『シャアアアアア!!』

「ないんで……シャアアア?」


俺は振り向くと、そこには大きな口を開けて俺を飲み込もうとする大きな大きな蛇がいた。


「うわあああああ⁈ な、なんでこんなでっかい蛇がいるんだよ⁈」


俺は蛇に睨まれた蛙の様に固まって動けない。

もう終わりだ。

いや、これで碧桜の下へ行ける。

俺は静かに目を閉じ、大きな蛇に身を捧げる。


「アイスエイジ」

「えっ⁈」


俺を丸飲みしようとしていた大きな蛇が一瞬で氷漬けになったのだ。


「な、な、なんで⁈」


俺が腰を抜かしていると、シルヴィさんは俺の隣に座る。


「さっきもお主に言ったであろう。 お主は異世界人。 お主がいた世界とは違うのだ」

「い、いや、そ、そんな訳は――」

「お主は今見たであろう。 今まさに大蛇に丸飲みされるところであったではないか」


俺はそう言われ、氷漬けにされた大蛇に視線を向ける。


「ほ、本当にい、異世界なのか⁈ じゃ、じゃあこれはま、魔法⁈」

「お主の世界はモンスターに加え、魔法も存在しないみたいじゃな」

「じゃ、じゃあ、これは魔法なんですか⁈」

「左様じゃ」

「マ、マジかよ……」

「どうじゃ? 少しは信じる気持ちになったか?」

「こ、こうも現実を目の当たりしたら信じるしかありませんね……」


だが、そういうも、全てを受け入れるには心が追い付いていない。

だが、俺がいるこの世界はどうやら日本でもなく、地球のどこかでもない事は理解しなければならないと思った。


「どうする? このまま出て行くか? それとも死に急ぐ理由をワシに話す気になったか?」


俺はシルヴィさんに視線を向けると、優しい笑みを浮かべ、俺の話を聞こうとしてくれている姿に俺はその気持ちがなぜか、嬉しく、そして、ここでシルヴィさんに話を聞いてもらわないと後悔すると、本能が語りかけてくるのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ