続・親友のヒロインちゃんへ【殿下の前で盛大に転んでしまって困っています】公爵令嬢より
「今日という今日は相談に乗ってくれますわよね?」
昼休み、親友の令嬢に呼ばれた私は屋上に来ていた。
「悩みって、わざわざ海辺まで呼んでしようとした、あのくだらないやつ?」
「くだらなくないわ! わたくしにとっては重要なことなの! 殿下とあれから目も合わせていないのよ!?」
いや、目なんて合わせたことないだろう。お前らずっと文通でしかやり取りしてないじゃないか。転んだのだってどうせ偶然居合わせて驚いたからだろう。
「まさかあの場所に殿下がいるなんて思いませんでしたわ。発作が起きないときもあるのね。油断したわ」
どうやらセンサーが故障していたようだ。殿下と手紙のやり取りをしているうちに人間側に近づいてきたらしい。いいことである。まあそのせいで今の悩みが出来てしまったのだが。
「公爵夫人も言ってたけど、早く殿下に慣れた方がいいよ。このままだと、まともに付き合う前に別れるかもしれないし」
「えっ? お母様が? というかいつの間にそんな話をしたのよ」
「昨日のお茶会でだけど?」
「わたくし呼ばれてない……」
そういえば昨日居なかったな。呼ばれてなかったのか。
「そうだっけ? あ、ああ、多分あれだよ。忙しそうだったから呼ばれなかったんじゃない?」
なんとかフォローをしようと、励ましの言葉を述べる。
「昨日は一日中暇だったわよ」
「……」
なんも言えねぇ……
「ちょっと、普通にショックなんだけれど。お母様に嫌われるようなことしたかしら?」
「ほらっ、きっとあんたと殿下との込み入った話があるから呼ばれなかったんだよ! ねっ?」
「そうね……そう思っときましょう」
駄目だ。これは相当に落ち込んでるな。
「なっ、なんか喉が渇いちゃったからさ、ちょっと飲み物買ってきていい?」
ポケットから財布を出して、何か買ってくるよとアピールする。しばらく外せば調子もいくらか戻っているはずだ。
「わかったわ。それならわたくしの分も――って、あなた、子爵の割にはいい財布持っていますわね。それ、最高級ブランドじゃない」
「ああ、これはお父さ……間違えた。公爵様に貰ったんだ!」
「ちょっと、今の間違え方おかしくない!? というか、わたくしのお父様とも仲良しだったの!?」
「別に仲良しだなんて……ただ誕生日プレゼントを贈り合う仲なだけだよ~」
「だいぶ仲良しじゃない!」
そんなに仲良しじゃない。だってこっちのプレゼントは【肩たたき券】だったし。そしたらなぜかお礼に財布を買ってもらっただけだ。
「そんな……わたくしの誕生日なんて、ただのお小遣い日と化しているのに」
膝から崩れ落ちる我が親友。へこみ過ぎである。
「まっ、まあ、ただのお礼みたいなものなんだしさ! 別にいいじゃない?」
「あんたは何を渡したのよ?」
「肩たたき券だけど?」
「肩たたき券……」
余計に挫ける我が親友。「わたくしは高級ブランドのネクタイだったのに、肩たたき券に負けるなんて――」とぶつくさ言っている。よほど衝撃だったらしい。
「ほらっ、そうやって泣かないでさ、これ使いなよ」
ポケットからハンカチを取り出し、親友に差し出す。さすがに見ていられない。
「それくらい持ってるから良いわよ。というかあなたのそのハンカチ、無駄に可愛いわね。どこで買ったのかしら?」
「いいでしょ~、お兄ちゃんから貰ったんだ」
「お兄様? あなた一人っ子のはずでしょう?」
「あ……」
しまった!
「あ、あのね、これはね!」
「あっ! これはわたくしのお兄様が手掛けてる一流ブランドのハンカチじゃない――はっ!」
あちゃ~、気づかれた!
「頂いた物って……わたくしは自腹を切って購入したのだけれど?」
目を見開いて口を動かす我が親友。その顔にもはや生気は宿っていなかった。
「そっ、それよりもさ、今日の相談の続きしようよ! ほらっ、なんでも聞いて!」
汗がだらだらと流れ落ちる。この流れを早く変えなければ、親友の脳が壊れてしまう。
「ええ、そうね。その前に一つ、とても大事な相談が今できたのだけれど、いいかしら?」
「なっ、何かな~」
ニッコリと我が親友が私に笑いかける。その笑顔がなぜか怖くて、思わず「ひっ」と悲鳴を上げてしまった。
「親友がわたくしよりも、家族と家族してることについて相談したいんだけれど」
家族NTRエンド!
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