一度目の転機2
千田が、初島さんの誕生日を知ってから数日後。
特に何かが変わったわけでも無く、事務所で仕事をしていた。
ただ、内心では何をプレゼントすればいいんだろうと思いながら。
「休憩頂きます」
休憩室行く途中にある事務所に、初島さんの声が聞こえた。
それを聞いた千田は席を立ち
「私も休憩頂きます」
間髪を入れずに休憩をもらった。
千田は誕プレの件で休憩中にしれっーっとほしい物を聞こうと思い一緒に休憩を取った。
が、
「・・・」
休憩から5分、何も話せず時が経った。
(やばい、どうやって話していいかわかんないや、普段どうやって話してたっけ?)
仕事中は、よくしゃべるタイプではあった。ただし仕事中のみ。
プライベートになるとコミュ障、陰キャが似合うような人であった。
今も内心では、
(誕プレなんて聞いてプライベート過ぎて変に思われないかなぁ、えーどうしよー、えー、あー)
本当にヘタレであった。
そしてそんなこんなを繰り返す事三日、たまたま初島さんが飲み物を買うシーンを目撃した。
これは、チャンスだと思い勇気を出して声をかける。
「あ、ま、初島さんこの前(2週間ぐらい前)も酸味のあるジュース買ってたよね、好きなのですか?」
「はい、好きですよー スポーツとかの時によく柑橘系の買ったりしてます」
「そーなんだ、運動後の刺激ある飲み物美味しいよね」
「そーなんですよねー 千田さんはどんなの好きなんですか?」
「自分? んー緑茶?」
「あーいつも飲んでますもんねー」
「う、うん」
そして、また無言に。今の会話の流れで聞く機会があったのに、聞けないのが千田である。
もし接客なら、
「お客様、お飲み物は柑橘系をよく飲まれてますね、お好きなのですか?」
「うん好きだよ、やっぱり疲れた身体に染み渡るから」
「そうですね!酸味がある飲み物は飲んだ時に体に広がっていく感じがしますもんね!」
「そうそう!」
「特に今お手元にあるそちらの種類飲まれてますよね、それが一番好きなんですね!」
「そうなんだよこれが一番おいしくてさ」
「そうなんですね!今度買って飲んでみようかと思います、
好きなものつながりで少し興味があるのですがお飲み物ではなくて、好きなもので今欲しい物とかあったりしますか?」
「好きなもので欲しいやつ?」
「はい、自分は今車ほしいなと思ってるのですが、他の人はどういうの欲しいのかなって思いまして」
の様に会話は出来るのだが、接客じゃないとできないのが本当に難儀である。
ただそれでも
何度でもチャレンジしようと初島さんの様子をずっと伺っていた。
初島さんは飲み物を飲みながら、壁の方向を見ていた。
その視線の先には、誕生日カードがあった。これは会話の種になると思い話しかける。
「、みんなの名前気になる?」
「そうですね、一緒に働いているみなさんが何歳なのかなって」
「あー普通のアルバイトと違って年齢が上の方多いですもんね」
「そうなんですよね」
「あ、そういえばなんだけど、なにかほしい物ってあったりする?」
「え?」
唐突な質問に初島さんはびっくりしている、千田は慌てて弁明をする。
「あ、いや、その、カード作ってた時にさ誕生日見ちゃったから」
「あーそういうことですね、でも貰うのは悪いので大丈夫ですよ!」
勇気を出し頑張った千田であったが、やんわりと断られてしまった。
だが、このチキンだった数日間の間に考えていた秘策があった。それは、恩に感謝しお返しをするという作戦であった。
「初島さん、この前さ急遽バイト出てもらってるし、良かったらなんか買ってあげたいなって思って」
「んー!それなら、ピアスが欲しいです。」
「ピアスね!」
内心では聞き出せた達成感でもう満足しているが、初島さんに喜んで欲しいから、自分がオシャレや身だしなみには凄く疎いのにはわかっている、オシャレの権化でもある「ピアス」、どれが欲しいのかを聞かないと。
「どんなのが欲しいの?」
と聞いた。
初島さんは、可愛い笑顔で
「お任せします」
さらに追い打ちで
「休憩終わるので行きますね、期待してます」
と言い残していった。
残された千田は小さな声で
「頑張ります、、、」
と呟いた。