一度目の転機
日が暮れかけた交差点、僕は、彼女と別れ先に横断歩道を渡った。
先に渡った僕は、振り返り彼女が渡るのを待つ。
信号が変わった。
彼女が歩き出す。
視界に彼女と車が見える。
そして、彼女の姿が車に呑まれた。
僕は、何もできなかった。
彼女が車にひかれるのを眺める事しか出来なかった。
そこからの記憶は曖昧だ。
僕は彼女の傍に居て血で濡れた手を握り叫んでいた気もする、ただ、気が付いたら病院にいた。
そして、
そこで、
彼女の死が確認された。
僕はその時どんな表情をしていたのかはわからない、
泣いていたのかもしれないし呆然としていたのかもしれない、
その時、彼女の親から言われた言葉だけはずっと耳に残っている。
「君が居なければ***は死なずに済んだかもしれない、だから2度と顔を見せないでくれ。殺人者め」
その後、彼女の家族は引っ越していた。
相手の家族とは2度と会うことをはなく、気が付いた頃には自分は中学を卒業し高校に入学をしていた。
そこからの人生は目的もなく、ただただ、生きている。夢も希望も無く感情すらも隠している。
そんな生き方をしていた。
平日は学校で出来るだけ人との関りは避けつつ過ごし、家に帰れば動画サイトで動画を見て極力人との接触は避けて生きていたが、
そんな状態でも不幸はずっと自分の傍にいた。
毎年、人がらみでの不幸な事が身近で起きるように、
そう、このように。
高校1年 同じクラスの友人が病死
高校2年 中学の友人がバイクで事故死
高校3年 夏に飛び降り自殺の現場に遭遇 大学受験日に列車に飛び込む現場に遭遇
大学1年 お爺ちゃんが海難事故で死亡。
大学2年 アルバイト先の後輩が事故で死亡。
大学3年 大学生活を傍にいてくれた同級生の女の子の実家が地震で被災、学校を辞めて実家に帰る事に。
大学4年 ネットで知り合い5年一緒に居たゲーム友達が音信不通、その後友人の勤め先にて事件に巻き込まれ死亡が発覚。
社会人1年 世界規模での病気の発生。
社会人2年 何もなし。
だから、どんどん自分は他人と深く関わるのが苦手、いや、怖がっていた。
自分のせいでどうにかなってしまうんじゃないかっていう不安が付きまとう為。
居なくならないでずっと笑っていてくれる二次元だけを愛し生きてきた。
それなのに、
なのに、
目の前にいる女性、
初島さんから目が離せなかった。
それからというもの、出来るだけ感情は隠し、抑え初島さんがアルバイトを初めて1か月が立った。
千田は、一緒に働いていて内心では可愛いなぁと心が動いてはいたが、仕事は仕事、人には関わらない様にと考え、何も変わらない毎日を過ごしていた。
「ん?」
事務所の床に紙が1枚落ちていた。
「新しいアルバイトの子の雇用契約書か、こんなもん落として盗まれたら大惨事になるのに何してんだか全く」
上司の愚痴を言いつつ、紙を所定の場所に戻しに向かう。
「確かここにしまうんだったよなぁ」
雇用契約書を戻していると、ふと目に入った契約書に書かれた生年月日それを見ていると、休憩室に貼ってある従業員の誕生日と名前が入っているカードについて思い出した。
「そういや、先月から入った4人分の作ってないや、あんまやる気起きんけど作るかー」
こういう不定期なやってもやらなくても利益にならない仕事は、ある程度溜まらないとやる気が起きないよなぁと思い、
やって無くても仕方ないよなと内心言い訳をしつつ、新しく入ったアルバイト順に誕生日カードを製作し始める。
「次で4人目、これがラストか」
無心で作業を進めていく。
「えっと、名前が まつしま」
「ッ・・・」
名前を読んだ瞬間、自分の心臓がドキッと撥ねたのを感じた。いきなりの心の衝動に思わず息を飲んだ。
「うへ、こんなにも気を惹かれてたかー、でもこの気持ちはダメだよな、一緒に居たら不幸に合うかもしれないし だから我慢我慢」
過去の事を思い返し、気分が落ち込み作業の手が止まる。
はぁーとため息をつき、椅子の背もたれに体を預け上を眺める、そしてそこにあった事務所のカレンダーをぼぉーっと眺める。
「もうこんな時期か・・・あれ?もしかして」
千田は何かに気づき、スマホを取り出しカレンダーを開いた。
「やっぱり、この1年間はだれも周りが不幸になってないや」
ずっと何年も、毎年続いていた、不幸がここ1年無い事に気づき心が軽くなった、
事務所の見慣れた景色が少し明るく見えた。
「よし!」
ふと無意識に気合を入れた言葉が口から漏れた。
「仕事にもどろう!」
続きをやろうと初島さんの名簿を手に持つ。
「えーっと初島さんの誕生日が5月25日か、25・・・そっか、もうすぐなんだなぁ」
特に意識はしてはいないが頭に初島さんの誕生日を頭に入れながら、カードを製作していく。
深くは考えず、不幸がない事に浮かれ誕プレくらいあげてもいいよねと思いながら。