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私は王太子と、聖女のリーダーの所に行き、
令嬢としての挨拶ではなく、
街人が貴族に対する、跪く礼をする。
私のその姿を見て、王太子の側近と
思われる者が声をかける。
「何か考えがあるのか」
それでも話さない私に、側近が続ける。
「話をする事を許可する」
その言葉を聞いて、初めて口を利く。
持っていた、鞄の魔石を取り出し、
恭しく王太子に差し出す。
「これは魔石か?」
「さようでございます、
この魔石は回復魔法を高めてくれます」
その言葉に周りがざわめく。
側近が、王太子を見て、王太子が頷く。
それを見て、側近が、私の手の中にある魔石を、
聖女のリーダーに手渡した。
聖女のリーダーは、半信半疑な顔をしながら、
魔石を手にしている。
魔石を掲げ、回復魔法をかける。
その時、大聖堂が一気に大きな光に包まれた。
大聖堂にわあああ!と大きな歓声が上がる、
光に包まれた場所の人達は、
大きな怪我にも関わらず、完全に傷は治っていた。
「この魔石は他にもあるのか!」
王太子が、慌てた声で、直接話しかけてくる。
王太子が、庶民と会話するなど、
本来ありえないが、側近も何も言わない。
「文字を入れれば可能でございます」
そう言って、まだ文字の入っていない、
数個の魔石を王太子に見せる。
「すぐに作ってくれ、報酬は望むままに」
私は頷いて、魔石に文字を入れる。
通常魔法を強くするのは”強化”で十分だが、
それより強く強化するのは”増幅”
これは、水で”強化”ならスプリンクラーなのが、
”増幅”では小さな川が流れたぐらいの効果がある。
一回で魔石全部の魔力を使い切ってしまう代わり、
桁違いの効果なのだ。
逆に強力すぎて、使いにくいのだが、
今回は力を出し惜しみしている場合ではない。
持っていた魔石にどんどん文字を入れていく、
そして、その石は聖女達の手に渡り、
回復魔法がかけられていく。
重傷者を始め、多くの人が、
死ぬ運命にあったのが、書き換えられていく。
その光景を眺めながら、
人々の意識が自分から離れた瞬間を見計らい、
何も言わず、大聖堂を去った。




