旅談~登山家と家族~
投稿は初めてですので不手際があれば教えて下さい。
男は山を登っていました。男は山頂を目指し続ける登山家でした。これは最後の登山。子供が増えれば、当然多く働かなければなりません。
男はかねてより登ろうと思っていた山に登り始めました。
しかし、高度が高くなるにつれ、吹雪は容赦なく男の体を打ち付け、重く伸し掛かる疲労に男は今にも倒れそうでした。
それでも男は登り続けました。
冷え切った体は言うことを聞きません。まとった毛皮には氷が張り付き、背中の荷物も半ば雪に埋もれています。
何がそこまで男を掻き立てるのでしょうか。
なにかに取り憑かれたかのように山を登り続けました。
どこからか狼が現れました。
狼は久しぶりの大きな獲物に嬉々として襲いかかりました。
男は手にした手斧で襲いかかってくる狼を切りつけました。後ろからも飛びかかってきた狼をひらりと躱し返す刃で狼を両断しました。しかし血糊のついた斧はもう使い物になりません。男は斧を捨てると狼に軽く黙祷を捧げ、また登り始めました。だんだんと高度は高くなり、樹木はなくなり大きな岩ばかりが目につくようになりました。
不意に吹雪が激しくなってきました。男は近くにあった岩場に身を潜めました。男の体は冷え切っていました。しかし、その胸元にだけは少し堅く、今にも消えてしまいそうな温もりがありました。それを握りしめると、男は少しだけ疲労が軽くなった気がしました。
ふと気がつくと吹雪は収まり美しい月光が白銀の峰を照らしていました。
男はまた山を登り始めました。
少し行くと岩肌の露出した崖が男を待ち受けていました。男は一度手をすり合わせて手を温めると崖に手を掛け登り始めました。
しかし、冷え切った体で険しい崖を登れるはずもなく男は手を滑らせ、落ちてしまいました。
背中に衝撃が走り、あまりの痛みに男は立つこともままなりませんでした。冷たい雪の感触を全身で受け止めていた男は、体の下になにかに硬いものがあることに気が付きました。なんとか体を起こし、それを見ました。それは娘の作ってくれた少し歪なお守りでした。
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お母さん、いつお父さん帰ってくるかなぁ。
娘は言いました。
そうね、あなたが良い子にしていたら急いで帰ってきてくれるかもしれないわ。
女は言いました。
暖炉に薪をくべながら、そう言った母親のお腹はかなり大きく、身籠っていることを窺わせました。
娘は床につき山を登っているであろう父親に思いを馳せます。
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男は崖を登っていました。懐に入れたお守りは男に温もりを与え、それだけが男を突き動かしていました。
男はどうにか崖を登りきり、少し辺りを見渡しました。そこはこの山の最高点のようでした。そして、そこにぽつんと立っていたのは祭壇でした。男が近づいてみると、祭壇には一人の女が体を横たえていました。
それはここにはいるはずのない男の妻でした。
どうしておいていったの。
女の口から恨み言が溢れだしました。
どうして、どうして。
絶望に染まり、醜く顔を歪ませる女の口からは恨み言ばかりが流れ出ました。
次の瞬間、男の視界は暗転し、膝から崩れ落ちてしまいました。
・・・・・すべて男の創り出した幻想でした。崖をもう一度登ったことも。お守りが力を与えてくれたことも。山の頂点に立ったことも。・・・そして、妻がそこにいたことも。
走馬灯のように駆け巡った家族との思い出は、少ないながらも鮮明に男の脳裏に映し出されていました。その情景を最後に男の意識は消えていきました。
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お父さん、いつ帰ってくるかなぁ。
娘は言いました。そうこぼしたのは何度目でしょうか。
女も前よりお腹が大きく順調に子供が成長していることが伺えました。しかし、夫である男は帰ってきません。
不意に戸が叩かれました。娘がとんで喜びながらとんで戸を開けますが、そこには暗いの夜の闇があるだけでした。
これからも同じ感じの作品を投稿するかもです。
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