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花のお江戸のエルフ大名  作者: にいがたさくら
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第四話 黒森領視察 (上)

隣の黒森領に視察に行きます。

翌日、ジョンたちは下級侍の格好に変装し、黒森領へと出発した。同行するのは、マリアだけである。

「そういえば、マリア」ジョンは歩きながら言った。

「黒森領の件だが、どうして急に紀州が手を出す気になったんだろうな?」

「さあ……?紀州徳川家は領地経営に長けているとはいえ、一時預かりの地をあまり積極的に開拓に乗り出そうとする印象はないのですが……」

マリアの答えにジョンもうなずいた。

「そうだよな」

「確かに……」マリアは首を傾げた。


「黒森領では最近魔物の目撃例が減っているという話ですが、それが何か関係があるのでしょうか?」


「いや、わからない」ジョンは首を振りながら言った。「ただ、何事もなければいいが……」

「ですね……」マリアはため息をついた。

ジョンとマリアは街道を歩き続けた。そして日が暮れかけた頃、ようやく黒森領との関所、白黒ヶ関に到着した。


白黒ヶ関は、幕府による異世界征伐前はダークエルフとの最前線として砦が作られていた場所だそうだが、今は人々の往来が盛んな宿場町になっていた。その証拠に、耳長藩の商人たちが大勢行き来していた。耳長藩では江戸からの商人が多く行き交っており、黒森領とも交易が盛んに行われているのだそうだ。人種も、エルフ、ダークエルフ、ドワーフといった異世界(こちらがわ)の人間だけでなく、江戸や大坂から来ているであろう商人たちも多く見えた。


「ふぅ~。ここの関所も久しぶりです」


マリアは息を吐き出しながらそう言うと、胸を撫で下ろした様子を見せた。

「とりあえず無事到着できたみたいですね」

「ああ、まあな……」

マリアの様子を見たジョンが首を傾げながら答えた。

ところで、ジョン様」マリアが声をかけてきた。

「これからどこへ向かいますか?」

ジョンは、マリアの方を振り返った。二人は今関所内の宿に向かっているところだ。この宿場には旅籠が何軒か建っており、そのうちの一軒へ向かっていた。ジョンがお忍びで出かける際いつも使っている宿屋であり、「安心できる宿」だとマリアに紹介してくれた。ジョン曰く「この町でも一二を争うくらい信用出来る店」だという。

ちなみにその宿は、黒森領側の出入り口付近にあり、黒森の情勢を知るためにもなるべく現地の人と直接会話が出来る場所だ。

黒森領の情報を集めようと考えているマリアにとっては願ったり叶ったりの場所といえる「ここか」

「はい」マリアはうなずいた。


「それにしても……結構混んでいますね」

二人は、人が多いのに少々驚いた表情を浮かべていた。二人は町人が着るような服に着替えているのだが、その服装の二人を町人たちも怪しんでいる様子がなかったのは幸いかもしれない。

(しかし……この混雑具合は一体?)

ジョンは眉間にシワを寄せて考え込んだ。ジョンとて普段はここまで人の往来が盛んではないことを知っていた。そもそもここは、江戸や大坂などに比べると遥かに人口が少ない田舎だと言ってもいい場所だ。だからジョンも、まさかこれほどまで賑わいを見せるなんてことは予想していなかった。

そんな事を考え込んでいるうちに、二人は部屋へ案内された。ジョンたちは宿屋の二階の一室に入ると腰をかけた。

マリアは部屋の中を見渡して言った。


「思っていたより、随分賑わっていますね」

ジョンはうなずいた。「ああ」

二人は窓際の机に向かい合わせに座っていたが、マリアはすぐに立ち上がり部屋の中にある押し入れから座布団を取り出すとジョンの隣に戻ってきた。マリアは、ジョンの方を見ると少し不思議そうな顔をした。

「ところで、なぜジョン様は私の方をずっと見ているのですか?」

ジョンはハッとしたような表情になると自分の目元を触りながらつぶやいた。

「俺がマリアのことを、か……」ジョンは口の中で言葉を噛みしめながらつぶやいていた。

「自分ではあまり意識していないが……」

ジョンがそう答えると、マリアは微笑みながらジョンの顔をのぞき込んできた。そして言った。

「ジョン様、ひょっとして私を誘おうとしてくれています?」

マリアはいたずらっぽく笑っていた。マリアの言葉を聞いたジョンの顔は一瞬で真っ赤になった。そして恥ずかしそうにマリアのほうを見ると慌てて言い返した。

「な!何を言っているんだ!」

するとマリアはクスッと笑う。

「あら?違ったんですか?」

「あー。えっと。俺は別に、マリアを誘うとかそういう意味で見ていたわけじゃ……」しどろもどろになりながら必死に誤魔化そうとするジョンを見てマリアはくすりと笑った。ジョンは頭を掻きながらもマリアに笑いかけると、マリアは

「はい。わかっています」と答えた。

ジョンは耳を垂らしながら、ため息混じりにマリアに話しかけた。

「はぁ。まったく。相変わらずお前には敵わないよ。まあいい、マリア、今日はこの宿場町で宿をとるつもりだが、この後どこかへ行きたい所があるか?それともし何か用事があるか?」

「いいえ」マリアは首を横に振った。ジョンはマリアの様子を見ていると本当に行きたい場所や、したいことは無いようだった。

マリアの様子を見たジョンはほっと一安心している様子だ。ジョン自身もこれからどうしようか考えているようだ、ジョンは腕組みをしながら考え込んでいた。

(うーん……。とりあえず宿を取ったけど……。この後は一体……。マリアも、特にこれといって用事はないみたいだし……さて、どこに行けば良いのやら……)

その時マリアがふと言った

「あの」

「うん?」ジョンは振り向いて返事をした。

「今からでも大丈夫ですよ。私を連れていってくれても……」

マリアの言葉に驚いたジョン。

「何?」ジョンが聞き返すとマリアが続けて言う。

「私だって女ですし。それにジョン様と一緒に居られれば私は幸せですもの」

マリアの突然の発言で動揺するジョン。

(な!こいつは何を言い出すんだ!?というかそもそも俺はこいつに何も伝えていないはずだが……)

そう思いながらも何とか平静を保つために咳払いをして言った。

「ゴホゴホッ!」

「どうかされましたか?」心配そうな顔をして尋ねるマリア。ジョンはその表情を見ながらもマリアをまじまじと見つめていた。そして我に返るとマリアに声をかける。

「別に大したことではない。ただちょっとびっくりしただけだ」

マリアは自分の髪を触りながら少し照れているようだったが、少し嬉しそうな表情を浮かべた。

マリアは自分の髪を触りながら少し照れているようだったが、少し嬉しそうな表情を浮かべた。

「明日も早いし、そろそろ寝るか」ジョンは立ち上がった。

マリアもそれに合わせて立ち上がり、「そうですね」と言って微笑みかけてきた。マリアは座布団をしまった後に布団を取り出そうと押し入れの戸に手をかける。

「マリア、実はこの宿場には温泉が湧いているらしくてね。どうだろうか。一緒に入らn……」

言い終えないうちに、マリアの拳がみぞおちに命中し、そのまま膝を折って崩れ落ちるジョン。ジョンはそのまま気を失ったように眠ってしまった。

そんな様子を見て、呆れた顔をするマリアは布団に潜り込んだ。マリアも、ジョンと同じ部屋に居ることを緊張していたようで、ほっと胸を撫で下ろして眠りにつく。そして翌朝目を覚ますとマリアは既に着替えを済ませており身支度を調え終わっていた。

「マリア。おはよう」

ジョンがそう言ってもマリアは何も言わずに黙り込んでいる。しばらくするとようやくマリアも目を開けた。

「おはようございます」

マリアが小さな声でつぶやく。

「今日はこれから黒森領のどちらに向かうんですか?」朝食を終えた後、ジョン達は宿を出る準備をしていた。ジョンは腰帯を結び直しながらマリアのほうを振り向く。マリアはまだ荷物をまとめている最中だった。ジョンは自分の刀を差し込みつつ答えた。

「黒森城に向かう前に、まずは、黒原新町に行って、そこで情報収集をすること

にする」ジョンは刀を差し終わると立ち上がった。「行くぞ」

「はい。分かりました」マリアは笑顔で返事をしてから、ジョンに続いて宿を出て行った。二人は、宿場町にある、宿屋兼食堂で腹ごしらえをしたあと、黒原新町に向かった。


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