第一話 江戸城改築に必要な森
九州征伐の後、豊臣秀吉に恭順の意を示したエルフ王国は、徳川の世が始まると、幕藩体制に組み込まれ長耳藩となった。
そして百二十年後。太平の世の中にどっぷりと浸かった江戸詰の長耳藩士たちは、すっかり江戸に染まっていた。
※AIのべりすとで書いているため、設定がおかしいところがありますが、お目溢しを。
かつての国王一族フレデリック家も今では松平姓を名乗り、幕府の役人に頭を下げる毎日だ。
「うーん……」
と、フレデリック家の若君・ジョンが、執務室で腕組みしていた。
目の前には、老中から回ってきた書類がある。
内容は、江戸城改築のための材木調達についてだった。
江戸の街は、急速に発展している。その速度は異常と言ってもいいくらいで、江戸の街のあちこちでは新しい建物の普請が始まっていた。
木材が不足しているとなると、元々林業で栄えていた長耳藩の財政にも影響する。だが、長耳藩では材木を大量に伐採することができないのだ。
なぜなら……ドラゴンのせいで、エルフの森が大量に焼かれてしまったからだ。
ドラゴンによって焼き払われた山々の復旧工事は今も続いている。
そんなわけで、長耳藩が自由に使える森林資源はほとんどないに等しい状態なのだ。
そこへ、この書状である。
(どうしたものか)
と、悩んでいると、ドアの向こうから声がかけられた。
「失礼します」
若い女性の声だった。
「入れ」
と、ジョンが言うと、すらりと背の高い女性が入ってきた。
長い黒髪が印象的な美女であった。切れ長の目をしている。顔立ちはかなり整っている方だろう。
彼女は、部屋の中に入ると一礼した。
「お呼びでしょうか?」
「ああ。ちょっとマリアに相談があってね」
と、ジョンは言った。
彼の言葉に嘘はない。
もともと彼女は、将軍家御台所となった桂昌院に仕える女官でもあった。
しかし、彼女が仕えるべき将軍の子供を産んだ後、暇を言い渡されてしまう。
そこで、実家に戻ってきていた彼女に声をかけてみたところ、意外にもあっさりと承諾してくれた。
「いえ。私は大丈夫ですわ。それより、何か問題でも起きたのですか?」
と、マリアが聞いてきた。
真面目な性格らしい。こういうところは、昔ながらのお姫様な感じだ。
「うん。実は木材の問題が出てるんだよ。江戸城の改築のために大量の木が必要だって言われてるんだけど、うちの領地にある森はほとんど焼けちゃったし、他の領地の森もまだ復興してない状態でしょ? 困っちゃってるんだよね」
「それでしたら、私の実家に心当たりがあります」
「えっ!?」
これには驚いた。
マリアの実家は、水戸徳川家の家臣筋にあたる名門一族なのだという。
水戸藩主の家老を何人も輩出してきた名家で、現当主は水戸城下の屋敷に住んでいるのだという。
「それはすごいじゃないか! 是非とも紹介して欲しい!」
ジョンの言葉に、マリアは微笑んでうなずいた。
「分かりました。早速手配させましょう」
「ちなみにどこなんだ?」
「木材の調達といえば、紀州徳川家でしょうね」
**********
紀州徳川家からの使者がやってきたのは数日後のことだった。
使者の男性は、大柄な身体つきをしていた。
年齢は四十歳くらいだろうか。立派なあごひげを生やしており、いかにも武人といった雰囲気の人物だった。
彼は、駕籠に乗って現れた。
そして、供回りの者たちと共にフレデリック邸の中へ入ってくる。
応接間へと通された男性を見て、ジョンは思わず息を飲み込んだ。
(なんていう貫禄のある人物なんだ)
ジョンはそう思った。
なんというか、迫力が違うのだ。ただそこに居るだけで周囲を圧倒してしまうような凄味があった。
彼が腰を下ろすと、その隣に座っていた女性もまた存在感を放っていた。
こちらは、年齢こそ若く見えるものの、かなり高齢の女性であることが分かる。恐らくエルフの血が入っているのだろう。耳が長いのが特徴的だった。
女性は、優雅な所作で一礼すると、口を開いた。
「はじめまして。わたくし、紀州徳川家中にて『御側衆筆頭』の地位に就いております『大河内エリナ』と申します」
「これは丁寧にありがとうございます。私は長耳藩藩主・松平長耳守チャールズが子・ジョンと申す者。以後よしなに」
ジョンは、畳の上に手をついて頭を下げた。続いて、同席していたマリアと彼女の侍女たちもそれに倣う。
ジョンは、ちらりと二人の姿を見てみた。
(どちらも相当な実力者と見た。やはり徳川御三家の一族というのは違うものなのだなぁ……)
ジョンは感嘆する思いで二人を見つめていた。そんな中で、大河内と名乗った女性が話を切り出した。
「本日参上いたしましたのは他でもありません。なんでも、長耳藩ではドラゴンが暴れた影響で、木々が大量に焼けてしまったとか。もしよろしかったら、我が紀州徳川家の領地から伐採した木材をお分けしても構いませんぞ?」
「……え?」
ジョンは固まった。
まさか、こんな申し出があるとは思わなかったからだ。
「そ、それは真ですか!?」
ジョンは思わず身を乗り出してしまった。
「はい。もちろんです」
大河内は笑顔を浮かべて、そう言った。
こうして、ジョンは紀州徳川家の協力を得ることに成功したのであった。
***
その後、ジョンは急ぎ家臣たちを集めることにした。
今回の件については、既に知らせてある。
「諸君。大変なことになった。このたび、我らが長耳藩の森林資源が枯渇したため、木材の確保が必要となった。そこで、紀伊徳川家に協力を要請することにした」
ジョンの言葉を聞いて、家臣の何人かが手を挙げた。「恐れながら若様! その協力要請は危険です。相手は、徳川御三家の家柄ですよ? 下手に関われば、どのような事態になるのか分からないではありませんか!」
「私も同意見だ。ここは、慎重に対処すべきだと思う」
そういった声が上がった。
しかし、それに対してジョンは落ち着いた様子で答えた。
「心配はいらない。我々にとってはむしろ好機と言える。何しろ、向こうの方から木材を分けてくれると言ってきてくれたのだ。これを利用しない手はないではないか」
「……ッ!?」
「幸いなことに、紀州徳川家は、木材加工の分野では我が国との友好関係を築いてきた家でもある。そのため、今回協力を要請したところで、何ら問題はないだろう」
ジョンの言葉に、反論の声を上げる者は居なかった。
そして、紀州徳川家からの使者たちによる挨拶が行われた後、ジョンは紀州徳川家に対して感謝の意を伝える書状を書くために筆を取ったのだった……。
「うむ! これで完成じゃ!」
ジョンは満足気に笑みを浮かべると、書き上げたばかりの手紙を折りたたみ、封をした。
そして、それを使者の老剣士に手渡した。
「どうか、よろしくお願いします」
ジョンの言葉を耳にして、大河内は恭しく頭を下げた。「かしこまりました。必ずや、紀州徳川家の名にかけて、この任務を果たして見せましょう」
こうして、一行は意気揚々と屋敷を後にしていった。
その様子を見て、ジョンは自分の判断が間違っていなかったことを確信するのだった。
紀州徳川家からの使者たちが、帰国してから数日後のこと。
ジョンのもとに、とある報告が届いた。
「なんと!? もう工事を始められているだと?」
ジョンは驚きの声を上げた。
というのも、ジョンは紀州徳川家を通じて、彼らに材木を提供する約束をしていたのだが、まだ何もしていないうちに、すでに伐採が開始されているというのである。
「はい。どうにも、伐採の指示を出していた人物というのが、あの老剣士、桃井蔵人だったようで……」
「……なに?」
ジョンは眉根を寄せた。
「……」「……ふぅん」
ジョンは少し考えるような素振りを見せた。
(桃井蔵人……一体何を考えている?)
ジョンは、桃井蔵人という人物に興味を抱いた。
すると、その時、ジョンのもとへと一人の男がやってきた。
「失礼いたす」
男は、そう言ってジョンの前で片膝をつくと、深々と頭を垂れた。
「おお、これはご苦労様です。……それで、あなたがたがここにいらしたのは、いったいどのような要件で?」
ジョンは男の顔を見ながら尋ねた。
「実は、若様にお伝えしたいことがありまして……」
「ほう、それはどんな内容ですかな?」
ジョンが尋ねると、その言葉を待っていました、と言いたげに男の口元が緩んだ。
「はっ。私は、紀州徳川家に仕える人間なのですが、先日、将軍家より新たな命を受けました」
「……将軍様から?」
ジョンは首を傾げた。
「はい。なんでも、『この度のドラゴン襲撃によって被害を受けた長耳藩の復興のために、木材の提供を行うように』とのことです」
「なるほど……しかし、それならば、なぜわざわざ貴殿らが出向いて来られたのですかな?」
ジョンは当然の疑問を口にした。
「はい。実は、我々も当初は断ろうと考えておりました。ですが、将軍家からの直々の命令ということであれば、話は別です。そこで、我々は義を重んじる者として、この度の任務を遂行することにした次第でございます」
「…………」
ジョンは何も言わずに、目の前の男を見つめていた。
「つきましては、若様には伐採した木々の搬入の許可を頂きたく存じます」
「許可か……それは構わぬが、この国では産出しない種類の木であることは確かなはずじゃ。それでも構わないのか?」
ジョンは念のため、確認した。
「はい。問題ありません。むしろ、紀州の木材を使用することで、少しでも長耳の民たちの役に立つことができるなら、これに勝る喜びはありませぬ」
「分かった。そういうことであれば、好きにするが良い」
「はは!」
ジョンの許可を得て、男たちは嬉しそうな表情を浮かべてその場を去っていった。
その後ろ姿を見送った後、ジョンは再び考え込むのであった。
紀州徳川家が木材を提供してくれてからというもの、ジョンたちは次々と送られてくる木材を使って、様々な建造物を建設していった。
まず最初に建設されたのは、天守閣だった。
今ある天守は屋根だけの簡素な造りであり、ジョンはそこに物見櫓や武器庫などを増築していき、最終的には五重六階の巨大な城へと成長させたのだった。
それから、ジョンは城下の町の整備に着手することにした。
ジョンはまず道路を整備することから始めた。
そして、それと並行して町の開発を行った。
また、江戸城建設の際に確保していた資材や労働力を用いて、領内に寺子屋を建設したり、産業を育成するための工場を建設するなどして国力の強化に努めた。
その結果、わずか数年のうちに、長耳藩はかつての繁栄を取り戻しつつあった。
、城内の建物は軒並み立派になり、城下町には大勢の人々が行き交うようになった。
「これも紀州徳川家のおかげですわね!」
ジョンの隣を歩いていたマリアは興奮気味に言った。
「ああ、そうだな……。江戸の時といい、紀州徳川家の協力がなければ、ここまで上手くはいかなかっただろうな……」
ジョンはしみじみと言った。「えぇ……本当に……」
マリアは感慨深そうに呟きながら、自分たちが過ごしている町並みを眺めた。
「そう言えば、お隣の黒森藩はどうしているかしら?」
「さあな。まぁ、こちらと同様に、復興に努めていることは間違いないだろうよ」
長耳藩と黒森藩は異世界征伐まではそれぞれ、エルフ王国、ダークエルフ首長国と呼ばれていた国で、小競り合いを繰り返してきた間柄だ。
黒森藩の領地は長耳藩よりドラゴンの被害がひどく、そこは荒廃したまま放置されていた。
というのも、幕府が黒森藩に対して、復興のための資金や物資の援助を行うことを拒否していたためだ。
しかし、ジョンたちが紀州徳川家を通じて木材を提供したことで、その状況は一変することになった。
瞬く間に黒森城の周辺に広がる田畑を開拓して、荒れ果てた農地を復活させた。
さらには、領民たちへの教育を行い、農村地帯を急速に発展させていくことに成功したのだった。
そのような経緯もあって、現在、黒森藩はかつてないほどの発展を遂げていた。
石高も表高こそ変わらないものの、内実としては倍近くまで増えているらしい。
百二十年前の幕府による異世界征伐までは、隣同士で領地を巡って対立していたというのに、不思議な話もあったものだ。
ジョンは黒森藩の現当主であるモーガン・ル・フェイのことを思い浮かべた。肌の色は浅黒く顔つきはいかめしいが、あの男は意外と義理堅いところがある。そのため、ジョンは密かに彼を信用しても大丈夫だろうと踏んでいた。
(問題は、向こうの方が俺のことを信じてくれるかどうかなのだが……)
ジョンは、ふぅっと息を吐いた。ジョンは跡取りとして、長耳城代を務める身。参勤交代で江戸に下るとなれば、必然的に黒森藩にも立ち寄ることになる。
その時は、一度じっくりと話し合ってみるのもいいかもしれない。そんなことを考えつつ、ジョンは歩き続けた。