第9話
「君は……」
俺は転校生である三咲という少女に出会う。改めて見ると美人だ。それもとびっきりの。香音と同じくらいに。ここまでの美少女はあまり見ないだろう。
「確か……お隣さんの」
そうだ……彼女は香音の家——芳月家の隣に引っ越してきたのだ。そして隣家に挨拶に来た。その時、俺は彼女と顔を合わせている。
「あっ……ああ。君か。転校生だったんだ」
「どうしたの? こーちゃん」
その場に、香音もまた姿を現した。
「こーちゃん言うな……今は人前だぞ」
「ん? その子は……どこかで見たような気がするなぁ」
三咲は頭を悩ませる。まずい……彼女に俺が香音の世話係をしているという事を知られるとまずい。何かと、あらぬ誤解を招くかもしれない。
「君達、一緒の家に住んでなかったけ? 私のお隣の、大きな家に」
三咲は遠巻きに、香音も見ていて、それもしっかりと覚えていたようだ。なんといえばいいのか……変な勘違いをされないように、俺は慎重に言葉を選んだ。考えていた。
「まさか! 君達……」
彼女は何かを勘づいたようだ。
「ふーん……君達、兄妹なのか」
全然検討違いの事を言っていた。
「けどおかしいな……君達は同学年って事だろうね。それにしては顔の形が違いすぎている。双子だったらそれなりに姿形も似るものだろうから」
うるさい……放っておけ。どうせ、俺は美形ではないよ。それに兄妹だと言ったところで、すぐに嘘などバレる。苗字が違うし、誤魔化し切れるわけもない。
「そうか……もう一つ可能性があったか。うんうん」
三咲は何かに思い当たったようだ。
「そうか……そうか。君達はそういう関係なのか。ふむふむ」
にやにやと意味深な笑みを三咲は浮かべる。何となく、彼女が何を考えているのかわかってしまった。
「何を考えているのか何となくわかるが、俺達は別にそういう関係じゃない」
「へぇー……そうなんだ。そういう関係じゃないんだ」
「詳しくは話せないが、そういう関係じゃない事はわかって欲しい」
「ふーん……なんだか色々と深い事情があるみたいだね」
「ああ……その通りだ。ともかく、あの家で見聞きした事はあまり風潮しないで欲しい」
「私も別に他人のプレイベートに首突っ込む程、野暮じゃないよ、別に」
そうか……よかった。彼女は口の軽い人間ではないようだった。
「それより、何か用があるんじゃないの?」
そうだった。俺は購買にパンを買いに行く予定だったのだ。
「や、やばいっ!」
こうしている間にも昼休みの貴重な時間がなくなっていくのだ。このままだと昼飯を食べる時間がなくなる。
こうして、俺は購買に向かって走っていったのである。