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第19話「ガーネのドロドロ大作戦」

 勇者ニアは復活した。もちろん魔法銀の加護が無い彼女は当初のような圧倒的強さは無い。それでも今までの平均的勇者のように無難に活躍できるほどまでにはなっていた。


「やりましたね。ティグロ王国からもお褒めの言葉が届いています。民の関心度がV字回復で特別報奨金が出るそうですよ」


 明るい表情でハンヌが報告してくる。近頃では手紙を読むのが億劫なのでもっぱら彼女が読む担当になっていた。横着者の魔王である。


「それは良かったな」


 だがジーヴァの表情は浮かなかった。やはり彼女に深入りしすぎたのが失敗だったのだろうか。不器用なまでに正直すぎる少女を本当に八百長システムに巻き込もうとして良かったのか、判断が付かないのだ。


 そして、ニアが最後に見せた微笑みが忘れられなくなっていたのだ。


(だがもうあの子へ遠慮することは無いんだ。正々堂々と難題を仕向けて冒険を盛り上げる方向へ転換できる)


 ジーヴァは無理矢理割り切ることにした。自分は魔王で相手は勇者である。それは決して外すことのできない大原則なのだ。


「ハンヌ、報奨金と言ったな。それ今度の作戦に全額ぶち込むぞ」


「えー、城のエアコン買い換え予定だったんですよ」


 珍しく参謀が反対意見を表明した。


「どうせこんな隙間風だらけの城じゃ最新型エアコンでも無駄だ。第一暑さ寒さなんてお前の魔力でどうにでもなるだろ」


 ぶーたれるハンヌの声を無視して、ジーヴァは地下の魔法工房へ走って行った。この報せを一番喜ぶはずのルダに早く聞かせたかったのだ。



「それは本当か!」


 ルダがそわそわと落ち着きを無くしている。彼女が長年待ち望んでいた、一点物の魔物の製造が正式に認可されたのだから無理も無かった。


「魔王の出撃以来の大規模作戦かぁ。いいね~いいね~」


 ガーネもこの吉報に胸を躍らせている。と言うより彼女は騒げれば何でも良いのだが、ノリが良いのが自分の長所と思い込んでいる以上、風呂敷を大きく広げようとした。


「いっそのこと街を一気に踏みつぶせるくらいデカい奴とか行こうよ」


 だがそれではファンタジー世界が円〇特撮の世界になってしまう。なにより大事なことは予算オーバーである。ジーヴァはルダと相談の上現実的な線を探った。


「大きさは全長二〇メートルが限界だ。これは譲れない」


 魔法で強化するとは言っても、元は魔王島の粘土なのだ。これ以上大型化すると自重で脚や膝が耐えられなくなるという。大魔導士の割に科学考証には忠実なようだった。


「やだやだー。あたし的には身長五七メートルは欲しい!」


 妙に駄々をこねるガーネ。彼女としては体重五五〇トン案も譲れないということだ。


「そこまでデカくするのは結構だが、そのための泥を集めるのはお前の仕事だぞ」


 魔王の一言で将軍は沈黙した。


 結局現実的に半分の一〇メートルで行くことになった。


 この青銅の巨人『タロス』計画で復活した新しき勇者ニアを窮地に陥れるシナリオは実行に移されることになる。だがこの八百長システムに馴れきった魔王達、そしてニアにとって想定外の事態になろうとはこの時誰も想像することはできなかった。



「さっきから全然作業が進まないんですけど~」


 もっこに泥を積むべく、ガーネがひたすらにシャベルで地面を掘り起こす。水が次から次へと湧き出し、グズグズとなった地盤は始末に負えなくなる。誇り高き魔王将軍は腰まで泥へ埋まりながら額に汗して働く。だが人数の少ない魔族の皆さんを総動員しても、人海戦術には限りがあった。


「そんなに大変ならもっと城の近くで泥を掘ればいいじゃないか」


 わざわざ城から歩いて片道三〇分はかかる地点で掘るというのも納得がいかないジーヴァだった。


「そうもいかないんだよ。地面にも魔力の流れってもんがあって、それに沿って掘らないと駄目なんだ。魔力を一杯吸った泥で作らないと、魔物にならないんだ……うわっ」


 バランスを崩して転倒したガーネは全身泥まみれになる。


「あーもう、見てるばっかりじゃなくて魔王も手伝ってよ」


「わかった、わかった。俺もやるから泥を投げてよこすな」


 確かに目を凝らすとぼんやりと明るく太い帯が泥地の下を横切っている。それを目印にスコップを入れていく。魔法で一気にすくい上げられれば楽なのだが、うっかりやると地面から魔力が漏れ出て大爆発、の危険があり結局人力に頼らざるを得ないのだ。


 青銅の巨人製作に必要な泥の量はかなりの分量になるが、魔王と将軍自らの奮闘もありなんとか運び出すことができた。その巨人だが高さ一〇メートル級の魔物ではあるのだが、さすがに地下の魔法工房では一気に組み立てられない。もしやろうものなら狭い工房から出られず、結局城を壊す羽目になる。そんな馬鹿な事態を避けるためパーツごとに分けて製作し、城の脇の空き地で組み立てることになった。


「結局やってることはプラモデルじゃないか」


 今回は一点物だけあって、ルダが金型を使わずに体のパーツを一個一個魔法で成型して行く。魔力の微妙な乱れでできた『バリ』をやすり掛けする大魔導士の姿を見ながら、そんなことをつい口にする魔王であった。


「組み立てはルダがやるから、あたしは風呂入って来るわ」


 もはや全身泥まみれで誰が誰だかわからないガーネ。そのガーネが飛ばす泥のせいでジーヴァ自身も頭から泥をかぶったような状態であり、入浴したいところだった。


「入るなら早く入ってくれ。俺も入りたい」


「なーんだ、だったらあたしと一緒に入ればいいじゃないの」


「……いや、やめとく」


 普段は何気なくスキンシップと言う名のセクハラをしている魔王だが、こういう時に限ってはチキンだった。

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