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少年と海

作者: ヌベール



私の1人息子は小さい時から釣りが好きだったので、小学校に上がった頃からよく海釣りに連れて行ってやった。


川でなく、海にしたのは川のいい釣り場がなかったからで、海ならば、小さい子供でも防波堤から小さな魚をいくらでも釣る事ができた。


この、西伊豆の戸田へは、何度も来た事がある。

念仏ダイという小さな魚が防波堤から入れ食いで釣れて、小さな子供には楽しかったろうと思う。


その他は近場の真鶴へよく連れて行ったが、彼は大人もびっくりする程、いくらでもじっと釣りに集中する、見事なまでの根気良さを見せた。

釣れても釣れなくても、朝早くから日が暮れるまで、じっと防波堤に座って、釣竿を手放さなかった。


大抵は夜中に家を出た。

私が仕事を終えて翌日休みという時、釣りに行こう、となると、私は楽しくて子供のように眠れなかった。


子供も子供で興奮して寝付けず、結局は夜中の1時、2時に家を出て、夜明け前には釣り場に着いていた。



子供はどんな大人にも負けなかった。

釣り場に行くと、よく教えたがりのオヤジがいて、彼に釣り指南を始める事がたまにあったが、そんなオヤジのいうこともろくに聞かず、しかもオヤジよりもずっと立派な釣果をあげるのが常だった。

こんな子供、ちょっといないと私は誇りに思っていた。


そんな彼も中学2年になり、今回は夏の暑い盛り、西伊豆の戸田へ、初めてソーダガツオ釣りにやってきた。


例によって夜のうちに家を出て、沼津あたりでエサを仕入れ、丁度夜明けごろ戸田に到着した。


今回彼が挑戦するのはカゴ釣りという釣り方で、防波堤から数十メートル沖へ仕掛けを投げる。


第1投目からすぐに獲物がきた。


ソーダガツオは引きが強く、子供は海に落ちるのではないかと思うほど引っ張られた。


見事に一枚目を釣り上げた。40センチくらいあるだろうか。

彼は魚の首をへし折ってすぐに血抜きをし、クーラーボックスへ入れる。

釣れた時の保存の仕方も勉強してきたようだ。


魚は面白いように釣れた。

このあたりを群れで回遊しているらしく、あたりがない時はないが、くると立て続けにきた。2枚いっぺんにかかって、海に引き摺り込まれるのではないかと思う時もあった。


灼熱の陽光が私たち2人に照りつけていた。


他にも釣り人はいたが、彼ほどの釣果をあげている人はいなかった。


言い遅れたが、私は息子を釣りに連れていく時、自分も釣ることはまずない。

ただ、彼が釣るのを座ってじっと見ているのである。

それが、何より楽しかった。


スポーツドリンクが、次から次へとカラになっていく。

恐ろしい暑さだった。


午後2時頃、当たりが止まったのを潮時と見て、2人で予約しておいた民宿に入る。


「雅」という息子が小さい時から何度もお世話になっている宿だ。

もっとも残念なことに、今は廃業されてしまったらしいのだが。


若女将は早速釣った魚を生で叩いて、夕食の膳に追加してくれた。


どうぞ、と随分何匹かお裾分けを勧めたが、応じなかった。

海辺育ちの若女将に対し、少し野暮だったろうか。


夕食が済むと、早々に子供は寝てしまう。


私は成長した子供の姿が、とても嬉しかった。

明日は夜明けとともに釣り始め、夕方には帰途に着く予定だ。


テレビが、きょうは今年1番の暑さだったと告げていた。

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