夢
―――――夢の中だけでも―――――。
ゆらゆらと漂っている意識の底。浮上しかけた意識を、もう一度心地よい底の方に沈めようとして、遠くから響く、不快な電子音に阻止された。急速に意識が浮上する。
ベッドの中に潜ったまま、目も開けずに、手探りで目覚ましを探し出し、音を止める。そして手を引っ込めると、寝汚くも二度寝を決め込もうとする。そこにスヌーズ機能を持つ目覚ましが再度わめきたて、先ほどと同様のやり方で止める。それを四回ほど繰り返したところで、私はやっと体を起こした。ぼーっとしたまま辺りを見回す。いつの間にベッドに入ったのだろう。しかもちゃっかりとパジャマに着替えている。もしかすると、自分で覚えていないだけで、途中で起きて、入ったのかもしれない。アロマライトは勉強机に置いたままだ。―――――まあいいや。大したことはないだろうと、考えるのをやめた。
顔を洗い、制服に着替えて台所へ向かい、ご飯に味噌汁の朝食を食べ、学校に向かう。眠くて退屈な授業を受け、なぜか学校へ来ていないエンを残念に思いながら休み時間を過ごし、学校が終わると、帰宅部な私はとっとと帰る。家に帰りついてまずシャワーを浴び、夕食の時間までだらだらと宿題をして、面倒だと思いながら、家族そろって夕食をとる。よほどの理由がない限り、夕食は家族全員で取るのが、我が家の決まりだ。正直うっとおしくて仕方がない。食べ終えると早々に部屋に引き揚げ、テレビだの漫画だのを見ながら過ごし、寝る前にアロマライトを使って、ベッドに入った。
唐突に目が覚めた。勉強机に突っ伏していた体を起こし、視線を周囲に巡らせる。外はまだ暗いようだ。……今のは夢か。いつもと同じように過ごす夢。やけにリアルだった。実際、目が覚めた今でも、あれが夢なのか、それとも今が夢なのか、困惑している私がいる。夢にありがちな荒唐無稽な部分など、どこにもなかった。
「胡蝶の夢」
唐突に頭に浮かんだ言葉。中国の故事。荘子の見た夢。荘子は夢の中で蝶となって遊び、目が覚めた時、自分が蝶になる夢を見たのか、蝶が自分になっている夢を見ているのか、分らなかった。そういう話。今の私の状況は、これに似てないか。