終章
「お世話になりました」
朝。既に大勢が行きかう駅のホーム。こうすると決めてから、何度も感謝の言葉は伝えたけれど。最後になるかもしれないから、改めて礼を言った。エンには、普段はタメ口だったのだが、ここで丁寧語なのは、けじめをつけるためだ。
目が覚めた後、エンと話をした。どうやら、エンは私が夢から目覚めるのを拒んで、目覚められなくなった後、現実からの物理的刺激で起こすのは無理だと判断し、夢の中にまで、私を追いかけてきたらしい。そのせいで、高校時代、いるはずのなかったエンが、ごく普通に友人として夢の中にいたのだ。ただ、本当は、直接私に目覚めを促すはずだったのに、私は彼女を、高校での友人として、夢の中に取り込んでしまったために、それができなくなって。私が現実だと思っている夢の中で、さらに夢を見せるという荒療治に出た。私が飽きて、最後には現実を望むのを見越してのことだった、らしい。……本当に、彼女は私のことを理解している。ただ、エンにとって誤算だったのは、私が最初に使ったオイルウォーマー―――――これも「胡蝶の夢」というそうだ―――――の効力が予想以上に強くて、アロマライトにまで干渉してしまったことらしい。エン自身は、アロマライトによる夢にまでは、ほとんど干渉できなかったために、実際にそれを知ったのはアロマライトを壊してしまった後なのだそうだが。ただ、おかげで、予想よりも早くことが進んだと言っていた。
ちなみに、あの店は夢だろうが、現実だろうが、関係なしに行けるそうだ。現実でなければ行けないと思っていた私はいったい……。思わず脱力してしまった。
一通り、その話が済むと、今度はこれからのことになって。すぐにはどうするか全く思い付かず、考える時間をもらった。そして、少し時間はかかったけれど、決めた。
田舎に帰ろう。
そもそも、最初からそうすべきだったのだ。もしかしたら、今更帰っても、両親は許してくれないかもしれない。でも、せめて謝ろう。
決めてからの行動は早かった。もう、後は電車に乗るだけ。エンは見送りに、駅まで付いてきてくれた。
「気をつけて。今度は迷わないように」
やはり、相変わらずの無表情。迷わないように、というのは道のことではないんだろうと思う。
「そうする」
今度は、目標をきちんと決めよう。田舎に残るにしても、また出て行くにしても。そして、新たに日常を築こう。それがどんな日常になるかは分らないけれど。小さな差異を重ねて―――――今の私にとっては非日常、将来の私にとっては退屈な、けれど得難い日常を。
最後まで読んでくださった方ありがとうございます。
今回、意外性を目指して見事撃沈しました……。精進します。