佐々木さんの部屋
フリーター生活をしばらくしていたけど、今年になってようやく就職をした。
小さな工業関係の事務で、給料もそんなに多くはないが、福利厚生がしっかりしているし、なにより上司が良い人ばかりなので上手くやっていけそうだ。
そんな僕の会社だが、疑問がある。
工業関係の部品を作る会社なので、僕のいる事務室や会議室なんかのほかに、設計室や試作室などたくさんの部屋がある。その中に1つだけ不思議な部屋がある。
「佐々木さんの部屋」
色々な部屋がある工業棟の2階。電工室と電気設計室の間に異質なプレートがある。
初めて見たときから、僕は佐々木さんの部屋について気になってしょうがなかったが、周りの皆がその部屋について語らないので、僕も触れないようにしていた。
警備会社の立会いのために休日に出勤しなければいけなくなった。立会いもすぐに終わったので戸締りをして帰るだけだ。休日なので会社には誰もいない。あの部屋について調べるにはうってつけだ。
あの部屋に入ってみよう。
ひょっとしたらお化けが出るかも知れない。あるいは本当に佐々木さんが住んでいるのかも知れない。考えてみるだけで無性にワクワクした。
事務室の中を探してみたが、それらしき鍵は見つからない。鍵はないがとりあえずあの部屋に行ってみることにした。
工業棟の2階。電工室と電気設計室の間、鍵はないがひょっとしたら扉は開くかもしれない。ドアノブに手をかけようとした時、僕は違和感に気づいた。
ドアノブがない。
そこにあるはずのドアノブは綺麗に取り除かれていた。これじゃあ誰も入れない。諦めるしかないじゃないか。
苦し紛れにドアノブをノックしてみた。
トントンと小気味の良い音が響くだけで、中から返事はない。
分かってはいたが、少しガッカリした。
次の日、思い切って一番仲の良い上司に尋ねてみた。すると上司は笑いながら教えてくれた。
「むかし、うちの会社にいた夜間警備の人の部屋だよ。ただもう退職しちゃったからその名残だよ。」
僕は聞いてみた。
「じゃあドアノブがないのはなんでですか?」
また上司は笑いながら教えてくれた。
「俺が機材を運ぶ時に思いっきりぶつけちゃったんだ。直すのも面倒だし放置してあるだけだよ。」
なんだそんなことか。僕の中の都市伝説はあっけなく終わりを告げ、いつもどおりの仕事に戻った。
ある日、佐々木さんの部屋の隣にある電工室の人と話す機会があった。
「いやぁ昨日は大変だったんだよ。」
そう話す彼は疲れ気味の顔をしていた。
「佐々木さんの部屋から呻き声がまた聞こえてさ、呻き声自体はいつものことなんだけど、昨日はなぜか腐った臭いがずっとしててさ、あの臭いの中でずっと作業をしていたんだぜ。」
「え!?あの部屋ってやっぱり何かあるんですか?」
僕は驚いて聞き返した。
「ドアノブがある時は酷かったんだぜ。1日に1回は、あの部屋一面に野良犬か何かのグチャグチャの変死体が撒き散らかされてたんだから。昨日のあの感じだと、また死体かなんかあるかもなぁ。佐々木さんまた外に出ちゃったかなぁ。」
「あの部屋は昔の警備室の名残だって聞いたんですけど。」
「俺はこの会社が出来た時からいるけど、警備員を雇ったことなんか一度もねえよ。」
まだ僕のモヤモヤは続きそうだ。