根っこ広場 4
逆さ虹の森の中は、昼間でもうすぐらく深い緑の中ですが、夜は本当に真っ暗なのです。
しめった暗やみの中を、仲間たちはずんずんと行進していきます。
どんぐり池のそばにある、小さくてかわいらしいりすくんのお家を目指します。
りすくんのおうちにつくと、アライグマくんがドアをあけようとしました。けれども、その手をキツネさんがつかみました。
「アライグマくん、もう夜もおそいのですから、いきなりお家の中にふみこむなんて、しつれいですわ」
そう言って、コホン、と咳払いをするとドアの前に立ち、コンコンとノックをしました。
「りすくんりすくん、おやすみのところもうしわけありませんけれども、ちょっと起きていただけません?」
アライグマくんがいらだたしげに足先を上げたり下げたりしています。みんなも心配そうにアライグマくんの後ろから小さなりすくんの家のドアをみつめていました。
すると、家の中からゴソゴソとする音が聞こえてきて、ほそくひらいたドアからりすくんが顔を出しました。
「きつねさん? あれ? みんなも? どうしたの?」
「りすくん、お願いがあるんだぜ!」
「り、りすくん、けがは? だ、だいじょうぶだったの?」
「どんぐりを出しやがれ!」
みんながいっせいに話しだしたので、りすくんは目をパチクリさせました。
「え? なにか急な願いごとでもできたのかい?」
りすくんはいつもきているチョッキの中からどんぐりを一つさしだします。
「ちっげーよ! ぜんぶだよ!」
「ぜんぶ!?」
「そうよそうよ。オオカミよ。乱暴者のオオカミをこの森に入れないように、みんなでお願いするのよ」
「お、お願いだよ、りすくん」
「ちょっとシツレイするぜ!」
みんなの足元を、ヘビくんがすり抜けて、りすくんのお家に入ってきました。
「オオカミって、グレイのこと? ダメだよ、グレイは悪いやつなんかじゃないよ!」
りすくんは思わずどんぐりをしまってあるタンスの引き出しを手でおさえてしまいました。
「そこだな」
アライグマくんがにやりと笑います。
「やめて! やめてったら!」
りすくんはいいましたが、アライグマくんは引き出しごとどんぐりをうばうと、りすくんのお家を出ていってしまいました。
アライグマくんが引き出しをかかえて走ります。
つぎにコマドリさんを頭にのせたくまさんがものすごい勢いで走っていきます。
キツネさんはへびさんをむんずとつかむと、やっぱり走りだします。
「まってったら!」
りすくんもあわてて後を追いますが、アライグマくんやくまさんやキツネさんに、かけっこで勝ったことがありません。
それでも、いっしょうけんめいにはしりました。今まで生きてきた中で、いちばんいっしょうけんめいに走りました。
みんなが目指すのはどんぐり池いがいにありません。どんぐり池ならりすさんのうちから近いところにありますし、まいにちまいにち通っている道です。目をつぶっていたって、たどり着ける自信があります。
真っ暗な森を抜け、どんぐり池に到着すると、空から月の光が差し込んで、池のまわりだけが明るくかがやいて見えました。
りすくんは、アライグマくんが力いっぱい池の中にどんぐりの入った引き出しを投げ込むところを見ていました。しっかりと、見ていました。ドングリのつまった引き出しは、ゆっくりゆっくり落ちていくようにりすくんには見えました。けれども、どんなにガンバってもりすくんの手は届かないのでした。
「乱暴者のオオカミが、逆さ虹の森へ入ってこれませんように!」
森の仲間の声が、いくつも重なりました。
ちゃぽん……!
どんぐりのいっぱい入った引き出しをのみこんだどんぐり池が、ぱあっと金色にかがやきました。
「ダメェェェェ!」
りすくんの声が、森中にこだまします。
黄金色にかがやく池の底をのぞき込み、りすくんはへたりこんでしまいました。
しばらくすると輝きは失われ、何事もなかったように、もとのしずかなドングリ池にもどります。
「よしっ!」
アライグマくんは満足げに拳を握りしめました。
「ひ、ひどいよっ!」
りすくんがぎりっとアライグマくんをにらみます。
「グレイはボクのともだちなんだぞ! お池のそうじだって、手伝ってくれたんだぞ!」
「でもでもでもでも! 乱暴者のオオカミ山のオオカミの話は、りすくんだって知ってるはずよ!」
アライグマくんとりすくんの間に、コマドリさんが割り込みました。
「ああ、そうだぜ。アイツはいいやつかもしれないが、オオカミ山にはたくさんのオオカミが群れでくらしてるんだぜ」
「そ、そうよ。りすくん。もし昔みたいに、オオカミの群れがやってきてあばれまわったら、どうするの?」
ヘビくんとくまさんにそう言われて、りすくんには何も言い返せないのでした。たしかにグレイはとてもステキな友だちですが、グレイ以外のオオカミがどんなオオカミなのかは、りすくんにもわからないからです。
「さあさあ、夜ももう少しで明けてしまうわ。りすくんも後はゆっくりおやすみなさい。ワタシたちは、逆さ虹の森を守ったのよ」
キツネさんはやさしくりすくんの肩をたたきましたが、りすくんはすわりこんで涙をポロポロとこぼし続けるのでした。