表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/16

根っこ広場 3

 アライグマくんがどんぐり池のすぐそばまでやってきたときです。こちらへ向かってくる灰色の大きな獣をみつけました。あれがきっと、オオカミにちがいありません。

 アライグマくんは大あわてで近くにあった木の後ろにかくれると、様子をうかがいました。どうやらオオカミは、どんぐり池から帰っていくようです。

 アライグマくんがどんぐり池の方をふり返ると、ちょこちょこと動き回っているりすくんの姿が小さく見えました。大きな怪我はしていないようです。

 そこでアライグマくんは、木の影にかくれながら、オオカミのあとを追うことに決めました。

 オオカミはアライグマくんに気づかないまま、森のはしっこのオンボロ橋までやってきました。

 ガタゴトと音を響かせながらゆっくりと橋の向こうへと渡っていきます。

 乱暴者のオオカミがこの森に入ってこないようにというお願い事は、どうして効かなくなってしまったのでしょう。

 オオカミが橋の向こうへすっかり渡ってしまうのをみとどけると、アライグマくんは木のかげから姿をあらわし大きな声で呼びかけました。

 

「やいっ! オオカミ!」


 オオカミはたちどまり、それからゆっくりと振り返ります。

 暗くなりはじめた森のなかで、オオカミの目がギラリと光りました。アライグマくんはゴクリとつばを飲み込みます。けれどもありったけの勇気をふりしぼり、しっかりと大地をふみしめました。


「乱暴者のオオカミは、この森へ入れないはずだぞ! オマエ、どうやったんだ!」


 オオカミにまけないように目を吊り上げて、にらみ返します。

 オオカミは答えません。わずかに鼻にシワが寄り、口元から牙がのぞきました。

 アライグマくんは体中からどっと汗が吹き出しましたが、なんとか平気なふりをしました。


「もう、この森へ入ってくるんじゃないぞ! いいか! こんど来やがったら、オレサマがただじゃおかないからな!」

 

 それだけ言うと、アライグマくんはくるりとオオカミに背を向けて、ものすごい勢いで走リ出しました。全力で、根っこ広場までいちもくさんです。

 暗くなった根っこ広場には、まだ森の仲間たちがアライグマくんの帰りを待っていてくれました。


「アライグマくん! どうだった?」


 ヘビが広場の入り口で待ちかまえていました。

 キツネさんは、まだないているクマさんの背中をなでています。コマドリさんもクマさんの肩にとまってなぐさめていたみたいです。

 アライグマくんはゼイゼイというあらい息の中から「お、おう!」と、なんとか返事をしました。


「オレサマが、もう、この森に、来るんじゃねえぞって……ゼイゼイ……言っておいて、やったぜ!……ゼイゼイ……それに、りす公もぶじだったぜ……ゼイゼイ」

「ほ、ほんとう?」


 クマさんはアライグマくんのことばを聞いて、ようやく泣きやみました。


「まあ、よかったですわね、くまさん」


 キツネさんがクマさんの背中をさすります。


「でもちょっとまって!」


 クマさんのかたの上で、コマドリさんがさえずります。


「そう言われたからって、アイツがもうこの森に来ないとはかぎらないんじゃないの?」

「まあ、たしかにそうだな」

「じゃあ、どうしたらいいのかしら?」

「どうして? どうして? 乱暴者のオオカミは入ってこられないはずじゃないの?」

「それだぜ!」


 なみだ目でうったえたクマさんをアライグマくんがビシッと指さしました。


「きっと、お願いごとの力が弱まったんだ!」

「そんな……」


 動物たちはそれからたくさんたくさんそうだんしました。

 きょうりょくで、大きな願いをかけるには、みんなの気もちと、たくさんのどんぐりがひつようなのです。

 夏は終わりましたが、まだどんぐりは青いままで、森の中に落ちていません。たくさんのどんぐりを手に入れるためには、りすくんがきょねんの秋にあつめたどんぐりを、わけてもらわなくてはいけません。それに、そのどんぐりをぜんぶ使ってしまったら、しばらくは願い事ができなくなってしまいます。

 どうしたらいいのでしょう。

 みんないろいろな意見を言いました。

 夜が更けた頃、ようやくみんなの気持ちがまとまりました。


「じいさんたちができたんだ、オレサマたちに、できないわけがないさ!」


 アライグマくんが立ち上がります。


「そうですわね」

「しばらく願いごとはできなくなっちまうのか……」

「ちょっと! いまさらなに言ってるのよ! 逆さ虹の森のピンチなのよ。アンタのちっぽけな願いごとなんて、どうでもいいわよ!」

「ほ、ほんとうに、うまくいくかなあ?」

「いくともさ!」


 アライグマくんは大きく手をふって、根っこ広場を出ていきました。

 少し行った先でふり返ると「早くついてこいよ!」と、みんなに呼びかけます。

 コマドリさんとヘビくんは大きなクマさんのかたにのりました。

 コマドリさんはとぶことができますが、夜になると、よく目が見えなくなってしまうのです。

 そうしてみんなは一列に並ぶと、りすくんのおうちを目指してあるきはじめました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ